軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

好きな人が出来ればするわよ

「学院の食堂でご飯とか……私、苦手なのよね。人前で食べるのって」

不平をたらたらと口にするアイルローゼだが、弟子たちに懇願され連れて来られれば仕方なく従う。

学院内の食堂は関係者であれば低額で使うことが出来る。味自体は悪くないが、貴族が食べるには少々味が雑である。

一般の出であるアイルローゼの口には不満は無いが、自身の弟子は貴族だけだ。

だから普段彼女らは自宅から持って来た食事を口にしている。

「それでどうしてここで食事なのよ?」

「「……」」

弟子たちが視線を彷徨わせるのに気付き、アイルローゼは視線を食堂に

「ア・イ・ル・ロ~ゼ」

「……良し殺すわ」

「どうしてよっ!」

背後から抱き付いて来た女性に対し、肩越しに冷ややかな目を向ける。

視線で人が殺せるなら実演しているような赤毛の天才に、食堂に居る者たちは防御魔法を得意としている者の傍に自然と集まる。

「こんなにも私が貴女に対して熱い愛情を向けているのよっ! ちょっとぐらいなびいてくれても良いじゃないのっ!」

「黙れこの屑同性愛者がっ!」

自身の胸を掴んで離さない同期の女性にアイルローゼは吠える。

だが決して怯えずに背後から抱き付いて胸を揉み続ける相手も凄い。

「だから私は本気なのよっ!」

「知らないわよ屑がっ!」

「良いじゃないっ! 貴女に告白して死んだシューグリットを思い出してっ! 貴女は異性を好まないっ! 私と同じ性癖なのよっ!」

食堂の隅で、少年と呼ぶには大人染みた人物が胸を押さえて床に伏した。

周りの生温かな視線を受ける彼こそ、アイルローゼに告白してあっさりと振られたシューグリットだ。

「ふざけないでよっ! 私にそんな趣味は無いわっ!」

「なら貴女は異性を愛せると言うのっ!」

「失礼ね。私にだって人並みの欲はあるわよ」

《ざわっ》

食堂中が騒めいた。

「うっ嘘よ……」

アイルローゼから離れた相手が大きくよろめいて床に座った。

「アイルローゼは男の人と《ピー》で《ピー》なことが出来ると言うのっ!」

「……好きな人が出来ればするわよ」

「嘘よ~っ! あり得ないわ~っ!」

床を殴りつけて悲しむ彼女をアイルローゼは冷ややかに見つめた。

青い髪で緑の瞳をした同性愛者の少女は、本当に悔しそうにしている。

「ミャン。他を探しなさい」

「嘘よ~」

本気で泣きじゃくる彼女を、学生たちが食堂の隅に運んで行った。

「で、さっきの周りの反応が私を苛立たせるのだけれど?」

「「……」」

全員が命の危険を感じて視線を逸らす。

前列に居る褐色の少女などは背を向けていた。

「大変な勘違いが生じているから改めて言っておくわ。私にだって人並みの欲はある。食欲も物欲も性欲だってある。まあ私には、この美貌と知性があるから普通の男では釣り合わないでしょうけどね?」

「アイルローゼに足らないのは胸だけよ~っ!」

「誰かその屑人間を始末しておいて」

数人が加わり運ばれて行く。ミャンは完全退場となった。

「ならアイルローゼはどんな人が好みなの?」

最前列で天才の言葉を聞いていた褐色の肌と入れ墨を持つ少女が男の子口調で質問した。

奴隷商人から言葉を学んだ彼女は、その口調が沁み付いてしまったのだ。周りも特に気にせず直そうとしないのはこの学院の自由な校風のお陰だろう。

アイルローゼは一瞬悩んだ。異性に求めることなど特に気にしたことは無い。

「……強いて言えば一途な人が良いわ。決して私を裏切らずに見捨てずに恐れない相手が良いわね」

クスリと笑ってアイルローゼは食堂内を見渡した。

「ご存知の通り私は天才だから、自然と恐れられてしまう。だから怖がるのは仕方ない。でもちゃんと私を見て話が出来る人を私は選びたいわ」

余りの衝撃発言に食堂内の男子たちが顔を見合わせ……何かを諦めた。

魔法を知る者はアイルローゼの力を知れば嫌でも恐れてしまう。

彼女と対等に付き合うなど火中に身を委ねる行為に等しい。

「たぶん~アイルローゼは~一生を~独身だね~」

「シュシュ? やるわよ?」

「いや~ん。待ってよ~。ミャン~」

フワフワとサイズの大きい服を着た少女が、風に漂う羽根のように回り回って食堂を出て行った。

「で……そろそろ聞こうかしら? 私をこの場所に縛り付けて何を企んでいるの?」

「「……」」

やはり相手は天才だ。誤魔化し切れないと全員が悟った。

「失礼します」

扉を開いて1人の男性が入って来る。

何となく場違いな空気を感じて男の表情が引き摺る。

「……ここにアイルローゼ様が居ると伺いましたのですが?」

「私よ」

何故か胸の前で腕を組み踏ん反り返っている少女に……男性は軽く恐怖を覚えた。

「失礼。国王陛下よりこちらを」

「……ありがとう」

畏まり差し出された物を見つめ、流石のアイルローゼも軽く息を飲む。

それは国王印の押された書状と綺麗に畳まれた赤きローブだからだ。

受け取り広げたローブを見て……食堂に居る魔法使いたちは色めき立つ。

赤きローブは『始祖の魔女』と呼ばれる伝説の魔女が纏っていたと言われる物だ。そしてそれを纏える者は国々がその功績を認め『魔女』と認定した者に限る。

ローブを軽く羽織り、アイルローゼは書状を開いた。

「……皆。今日から私のことを"術式の魔女"と呼びなさい。何代目かは後で本を調べて確認するけどね」

クスリと笑って宣言する彼女に、待ってましたとばかりに食堂で待機していた者たちが一斉に魔法を放つ。

お祝いなどに使われる光魔法や音響魔法だ。

流石の魔女も耳を塞ぎ目を閉じる。

だが……彼女は笑顔で皆の祝福を受け入れた。

(c) 2019 甲斐八雲