軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

我らが忠誠は王子の為に!

「……本当にくだらないわね」

読み終えた手紙を燃やし尽くして、アイルローゼは天井を見上げた。

相手の気持ちは痛いほどに分かる。だがそれは彼が望む治療魔法と大差ない。

何故再生魔法が、何故治療魔法が不可能魔法に数えられるのかを考えるべきなのだ。

そうすれば自ずと答えは見える。

「でも人の希望は尽きないのよね」

クスリと笑ってアイルローゼは研究所の隠し扉に目を向ける。

本が数冊隠せる程度の空間しかないが……そこにはアイルローゼの闇が封じられている。

一度だけそれを思い暴走した自分の感情の汚点だ。

「私も人のことは言えないわね。本当に」

「本当に勿体無いよな。何で王子なんてしてるんだ?」

「悲しいことに王家の者として産まれたからだろう」

近衛兵たちと一緒に訓練に励む第二王子は、軽口を叩けるほどに馴染んでいた。

持って生まれた才能なのか、彼は誰とでも気兼ねなく話すことが出来る。人見知りの無い性格が転じて良好な結果として訪れているのだ。

近衛兵だけではない。王立軍の兵の中にも彼を慕う者は増えている。

軍事に長けたユニバンスの王子……それが第二王子ハーフレンの評価の一端である。

ただ彼は自分から王の地位を望んでなど居ない。

はっきり言えば要らない。家族の平和を護れればそれで十分なのだ。

兵たちと混ざり車座で飯を食らう。ワインも回し飲みで嗜み……軽口に花を咲かせる。

「行って来たぜ!」

「お前まさかっ!」

「裏切ったのか!」

「どっちに行ったんだよ!」

兵の1人がタコ殴りに合って沈黙した。だが不敵に笑い復活する。

「勿論あっちだ! バッチリ見たぜ!」

「「良し死ぬ!」」

改めてタコ殴り似合う。まあ本気では無さそうだからハーフレンは仲裁に入らない。

「あれは何だ?」

「王子が……知る訳ないっすよね?」

「何だその言い方は?」

「だって我らが王子様は幼い少女を囲って自分好みに育てているって聞きましたぜ」

タコ殴りにした兵にとどめを刺そうとしていた男たちが、野獣染みた視線をハーフレンに向けた。

「ただの噂だ。あれは俺の……妹みたいなもんだ」

嘘ではない。本心だ。だがそれを信じる者など異性に飢えた男たちの中には居ない。

「知ってますぜ? 魔法学院に通う上級貴族の娘です。王子とは3つほど離れていますが、将来有望そうな顔立ちをした美少女ですぜ。たぶん将来はこう胸がばい~んと」

「それ以上言えば首と胴がポロッと逝くぞ?」

「……すいませんっした!」

首に触れる刃の感触に、口を滑らせまくっていた兵の1人が震え上がった。

どうやら彼女のことをネタにするのは命に関わると知り、兵たちは今後『ネタにしない』とアイコンタクトで知らせ合った。

「で……最初の話は何だったか?」

剣を鞘に戻しながらハーフレンは話を戻す。

「この裏切り者にとどめをっ!」

「「とどめをっ!」」

どうやらとどめを刺すことに変更は無いのか、地面の上でピクピクと痙攣している兵を男たちが囲った。

「だから何の話だ?」

「踊り子ですよ。王子様」

「踊り……と、シュゼーレ将軍か」

「お久しぶりです」

恭しく頭を垂れて来る相手に王子も軽く会釈を返す。

王都に戻って来てから何度か会っている相手だが、その有能さは特筆すべき物がある。

だが一般の出と言うこともあり彼を害する貴族もまた多い。周りの嫉妬から前線に送られ、その度に手柄を上げ続けて彼は"将軍"にまでなったのだ。

「将軍がどうしてこちらに?」

「自分は暇を持て余す軍人ですので……使える部下を探しにこうして歩き回ってます」

苦笑し将軍は王子の横に並んで男たちを見る。

兵を囲んでグルグル回って誰がとどめを刺すか決めかねているようだ。

「……まずはあっちを止めるか。踊り子とは?」

「王都で流行っている劇団の新人ですよ。何でもまだ幼いながらも天性の踊りを見せるとかで」

「で、男たちがあんなにも狂っているのは?」

「何でも幼いのに……胸がこうとかで」

と、将軍は自分の胸の前に手を動かして山を作った。

「女の価値は胸じゃ無いと思うんだがな?」

「ですな。ですが人もまた獣ですよ」

「……」

したり顔で将軍は深く頷く。

「雄は尻を見て興奮するとか。ですが人は立って歩く者。ですから尻の代わりに胸を見て興奮を得るとか」

「博学ですね。下世話な知識だけど」

「痛い言葉です」

苦笑して頭を掻く将軍にハーフレンも苦笑いをした。

「気が向いたら見に行くか。で、その踊り子の名前は?」

「レニーラと申すそうですよ」

「そうか」

パンパンと手を叩いて王子はバカ騒ぎしている者たちを制した。

「今度俺の権限で、兵たちの慰安にその踊り子を呼ぶとしよう。それで心を落ち着けろ」

「「……」」

ピタッと動きを止めた兵たちは全員ハーフレンに向き直ると、片膝を着いて臣下の礼をとった。

「「我らが忠誠は王子の為に!」」

「……誓うなよ。こんなことで」

頭を掻いてやれやれと肩を竦める王子は、こっそり兵たちに混じっている将軍から視線を外す優しさを見せた。

「ほほほ。ハーフレンは軍の中で確固たる地位を気づいておるぞ?」

「頼りになる弟です」

「だがそれに寄りかかってばかりで、周りの者が良からぬことを企む。お主もしかと政治を仕切れ」

「はい。国王陛下」

我が子を宰相に据える為に仕事を教え込むウイルモットは、窓の外に向けていた視線を手元へと戻る。

「ほう。これは」

手にある物を見つめ……国王は深く頷いたのだった。

(c) 2019 甲斐八雲