軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

地面を舐めながら後悔しろ!

「押さないで」

新年のお祝いは王妃の屋敷でも執り行われる。

何処の家庭でも新年の儀式は贅沢をするものだ。

だから王妃もそれを受けて、『今日だけですよ?』と子供たちに念を押しての大盤振る舞いだ。

流石にメイドの数も足らず……城から戻って来たフレアも猫の手ぐらいにはなると言いたげにメイド長に掴まり駆り出されていた。

集まって来る子供たちにお菓子を手渡し、もらいっぱぐれが無いように気を配る。

自分の前に山と積まれていたお菓子は、見る見る薄くなり遂には消え失せた。

「みんな……貰った?」

「「は~い」」

各々適当な返事を寄こしてお菓子を口に運ぶ。

誰もが幸せそうな笑顔を浮かべているが、この場に居るのは大半が戦争孤児だ。

夫である者が戦場に赴き帰って来ず……母親が食うに困って子を捨てる。主人が討ち取られて行き詰った貴族の子供なども居る。占領した村や街で乱暴を働き生を受け捨てられた子供など、孤児の経歴を上げれば限が無い。

でもここに居る孤児たちは笑顔だ。笑うことが出来る子供たちだ。

「それぼくんだ」

「ちがうよ!」

と、案の定お菓子の奪い合いが始まり……スッと現れたメイド長が拳骨を落として鎮圧する。

いくら王妃とは言えラインリアは贅沢を好まない女性であり私腹を肥やす人でもない。

王家がお金持ちだと思っている者も多いが、戦争続きのユニバンスの国庫は正直火の車だ。

お菓子だってもっと良い物を配りたかったが、数を揃えるとなると自然と量が減ってしまう。食べたい盛りの子供たちには少々酷な量だ。

「遅くなりました。リア伯母様」

「あら? 来てくれたの?」

「はい」

明るく弾むような声にフレアは視線を向けると、そこにはいつも通り質素なドレスを身に纏った綺麗な姫が居た。王妹マルクベル様の長女グローディアだ。

金色の髪をなびかせて歩いて来る姿は本当に美しい。同性のフレアも彼女を見るたびに自分と比べて肩を落とす。

(大丈夫。まだわたしは育つから)

心の中で拳を握りどうにか立ち直ると、フレアは彼女が顔を向けているのに気付いた。

何となく唇が『手伝って』と動いたように見え……慌てて駆け寄る。

「お菓子を配りたいの。手を貸して」

「はい。グローディア様」

「ディアで良いわよ。フレア」

「……はい。ディア様」

呼び捨ては流石に無理なので愛称に様付で対処する。

咄嗟の機転に頭の回る少女に目を細め……グローディアは自分の屋敷から連れて来たメイドたちと共にフレアの手も借りてお菓子を配りだした。

孤児たちは良く来る綺麗なお姉さんに懐いているのか、迷うことなく手を伸ばしお菓子を受け取って行く。

これまた見る見る消えたお菓子に……流石のグローディアも苦笑せざるを得なかった。

「ありがとうねディア」

「いいえ。リア伯母様が喜んでくれるなら」

「あら? 喜んでいるのは子供たちよ?」

「でも笑顔の子供を見て喜んでいるのは伯母様です」

「……そうね」

うふふと笑う王妃に対してグローディアも輝かんばかりの笑みを浮かべる。

それからしばらく2人が会話するのを聞きながらフレアは何となく所在無げに困っていた。

子供と遊ぶのは正直苦手だから、出来たら部屋に戻って本を読みたい。

その想いも募るが……メイド長の許しも得ずにこの場を離れるのも怖いのだ。

「伯母様。フレアと少しお話がしたいのでお部屋をお借りしても良いですか?」

「ええ良いわよ。好きな部屋を使ってちょうだい」

「ありがとうございます。フレアも良くて?」

「……はい」

向けられた彼女の顔を見てフレアに断ると言う選択は無かった。

やはりグローディアは何も変わらない。

出会った時から感じる恐怖は、彼女の目を見れば確信に変わる。

どんなに笑顔でも彼女の目は笑わない。黒く澱んで居て……絶望すら漂わせているのだ。

グローディアに連れられてフレアはその場から離れたのであった。

わたしは雨が好きだ。

何もかもを洗い流してくれるから。

だからわたしは雨が好きだ。

返り血も何もかも洗い流してくれるから。

わたしは好きだ。雨が好きだ。

王都の繁華街。路地裏の奥まったところで少女は片膝を抱いて空を見ていた。

どんよりとした重たい雲は……今にも降り出しそうな気配を見せている。

でもこの時期に降るのは雨では無い。白い雪なのだ。

「つまんないな」

ポツリと呟いて空に向けていた視線を地上へと降ろす。

転がっているのは自分にちょっかいを掛けて来た男とその仲間たち。

全員が股間を押さえて脂汗を浮かべている。

「臨時で収入はあったけど……新年は何処も高いから嫌だ」

まき上げた硬貨の詰まった袋をお手玉しながら、少女はやる気の無い目を動かした。

「何だよう? 向こうが手を出して来たから反撃しただけだよ?」

「それはどうでも良い。お前みたいな幼子にやられる馬鹿に用は無い」

皮の鎧と腰には剣。若い彼は衛兵には見えない。

だが少女はチリチリと首の後ろが痛くなるのを感じた。たぶんだが相手が強いと思ったからだ。

「なら誰に用があるのさ?」

「お前だよ。チビ」

少女は後ろを振り返る。が……股間を押さえた男しか居ない。

「誰がチビだって! わたしはこれからすっごい成長してバインでキュ~でドカンな女性になるんだから!」

「たぶん無理だろう? 10年経っても難しそうだぞ?」

衝撃を受けたように少女は大きくよろめいた。

「10年も経ったら22よ! 後4年で完成を迎えるの! わたしの計画は完璧よ!」

「……俺と同じ歳か? それで?」

「むきぃ~!」

憤慨した少女が拳を握って彼の前に立つ。

「失礼なことを言ったのはそっち! 地面を舐めながら後悔しろ!」

と、少女の姿が消えて彼の前に現れた。

信じられない速度で接敵を許したが……体重の乗った彼女の拳は彼の股間に届かない。

「あ~。お腹……空いた」

「……」

前のめりに倒れた少女は彼の股の下で横たわったのだった。

これがハーフレンとミシュことミシュエラの出会いである。

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