軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

考えてくれないかしら?

「彼がそうなのか?」

「ええ」

「そうか……彼が」

馬車の中から見つめる視線。

王都内の鍛練場で模擬戦用の剣を振るう弟は、その視線に気づくことなく大人たちに混ざって戦っていた。

素人目に見ても明らかだ。頭1つ以上抜けて弟は強い。

「頼もしい限りの弟だな。ケインズ」

「はいシュニット様」

フレアの父親であるケインズと共に馬車に乗る人物……シュニット・フォン・ユニバンスは、馬車を王城へ向けるように指示を出した。

彼はハーフレンが王都に戻ると同時にクロストパージュ領へ赴き姿を隠していた。

王である父親が考えた苦肉の策……ハーフレンを身代わりに王子を狙う者を洗い出す。

極秘裏に進められたそれは一定の成果を上げ、王子の暗殺を目論んだ者はメイド長の手により『掃除』された。

安全の確保の目途が立ち、晴れて彼は王都へと呼び戻されたのである。

時はもうすぐ新年。

新年を迎えればハーフレンは12歳となり、フレアも9歳となる。

「フレア様。ご理解いただけますね? ご配慮のほどを」

「……はい」

部屋に訪れたメイド長から告げられた言葉に、フレアは納得しないまでも頷くしかなかった。

自分もあと少しで9歳となる。地位や立場次第では婚姻を結び嫁ぐこともある年齢だ。

そんな年頃の自分がいつまでも"兄"の部屋で一緒に暮らしているのは問題があると注意を受けたのだ。

薄々どころか結構前から自分でも問題になると察していた。だが彼が何も言わないのを良いことに自身も口を閉ざして問題にしなかったのだ。

しかし遂に限界が訪れた。正直良く今日まで続けられたとも言える。

「それとフレア様」

「はい?」

「王妃様がお呼びです。どうか中庭まで」

「はい」

メイド長の案内で中庭に来ると、そこにはたくさんの戦争孤児が居た。

長く他国から侵略を受けている都合……どうしても孤児が多く発生する。それらの子供たちを王妃は我が子のように育てているのだ。

決して元気では無い王妃には負担も多い。

メイドたちが総出で手伝うお蔭でどうにか回している状況だ。

「孤児は増えてばかりです」

「……」

足を止めたフレアに気づいたメイド長がそう声を掛けて来た。

普段厳しい彼女も孤児の前では、厳しいが時折優しいメイドの1人になる。

「戦争など早く終われば良いのですが」

「はい」

相手の言葉にフレアも同意見だった。

また歩みを再開し、フレアは王妃が居る一画へとやって来た。

「ラインリア様。お呼びでしょうか?」

「あらフレア。ちょっと待っててね」

「……」

出る訳無いはずなのに……何故王妃が授乳の真似事をしているのか質問したかったが、フレアはその疑問をグッと飲み込んで我慢した。

これまでの付き合いもそこそこに長く、彼女の性格を把握しているのも主な理由だ。

ペチペチと胸を叩いても食事を得られない赤子が泣き出し、メイド長が引っ手繰って乳母の元へと運んで行く。

「出そうな気がしたのに」

「……(やっぱり)」

『無理です』と言うのは流石に気が引けたのでフレアは沈黙を返すことにした。

「そうそうフレアちゃん」

「はい」

「スィークから話は聞いて?」

「……はい」

現実を突きつけられてフレアは見て解るほど落ち込んだ。

胸を拭いてドレスを着直したラインリアは、我が子のように可愛がるフレアを椅子に座らせる。

「それで私としては、ハーフレンのお嫁さんってことで、ここで暮らせば良いと思っているの。どう?」

「……」

ぶっ飛んだ申し出にフレアの思考が完全に停止した。

音もさせずに王妃の横に来たメイド長が、露骨に冷めた視線を主へと向ける。

「王妃様。説明を省き過ぎです」

「もう! フレアちゃんは頭の良い子だから分かってくれるわ!」

「……済みません。良く分かりません」

何故かショックを受ける王妃と勝ち誇った様子のメイド長。

その2人に挟まれるフレアは肩身の狭い思いをしていた。

「ええっと……ハーフレンは私の息子でしょ? それでフレアちゃんはフロイデの娘。王家としてはクロストパージュと血縁関係を結びたいの。そこで2人の結婚! きゃ~! 私ったらこんな齢でお祖母ちゃんよ~」

「ぶっ飛び過ぎです王妃」

「えっ? でも2人は毎晩同じベッドで?」

「残念ながらフレア嬢はまだ生むす」

「あ~っ!」

我慢出来なくなってフレアは叫んでいた。

顔を真っ赤にさせた間もなく9歳児のお怒りに、それなりのお歳を召した2人が黙る。

「わたしがハフ兄様と……結婚するのですか?」

「ん~。私の希望はそうなんだけどね……一応今のところは正室候補の1人になるのよね」

椅子に座り直し王妃らしく振る舞うラインリアをフレアは見つめる。

この屋敷で孤児を育てるようになって1つだけ良い誤算があった。

それはある日を境に王妃の記憶消失が止まったのだ。

消えてしまった記憶は戻らなかったが、新しく得る知識をちゃんと記憶に留め生活を送る。そして失っていない記憶もすんなりと思い出せる。

そのお蔭で彼女は自分に息子が居てその子の名がシュニットとハーフレンだと覚えたのだ。

何故記憶喪失が止まったのかは分からないままだが。

「私としてはフレアちゃんにこの屋敷に残って欲しいわ。グローディアが遊びに来てくれるけど……最近のあの子は何だかとても儚げで怖いから」

「……」

フレアも何度かグローディアとは出会っている。

彼女は綺麗で優しいハーフレンの従姉だ。でもその目を見るたびに何故か恐怖を感じるのだ。

「考えてくれないかしら? フロイデの方は私が説得するから」

「……はい」

王妃の圧に負けてフレアはその申し出を受けざるを得なかった。

だが自身が彼のお嫁さんになるなど想像は……数えられないほどしたことがあるので抵抗は無かった。

それから王妃と雑談を済ませ、フレアは中庭を出ようとする。

視線を感じフレアが顔を向けると、そこに1人の少女が居た。

赤黒い瞳がフレアを見ていたが、近くで泣きだした子供が現れて慌てて駆けて行く。

泣いている子供をあやす姿は何処かお姉さんのように見えて……フレアは軽く微笑んでその場を離れた。

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