軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

人間とは愚かしい生き物だよ

「ハフにいさま」

「ん。どうしたフレア?」

「いっしょいく」

「……良いよ。おいで」

人形のような可愛らしいドレス姿の少女が、その顔に満面の笑みを浮かべる。

ハーフレンがクロストパージュ家に来てもう2年が過ぎた。

妹のように可愛がっているフレアは、自分に懐き過ぎてしまい……今では何処に行くにもついて来る。

今日も屋敷を出ていつもの丘で鍛錬のはずだったのだが、彼女の場合は大人しく待てるから不満は無い。

いつものように絵本を手にしたフレアと共に屋敷を出る。

通い慣れた道を進んで行くと、今日もそこには先客が居た。

「君たちか。本当に毎日懲りないね」

「……フレア。あっちで本を読んでてね」

「は~い」

両手で絵本を抱いてフレアが専用の木の椅子へと向かう。

やれやれと呆れて肩を竦めた彼女に、ハーフレンは腰に差す木剣を抜いた。

「剣で間合いの長い槍に挑む無謀を……そろそろ学んだ方が良いと思うよ?」

「シッ!」

「問答無用かっ」

笑ってハーフレンの突進を受け流し、少女は手に持つ槍で相手の胴体を狙う。

槍と言ってもこちらも練習用の物だ。刃など全て潰されて形だけが槍に見える品物。

それを巧みに扱い少女はいつも通り挑んで来た少年を返り討ちにした。

「あ~いい汗かいた」

「……」

「休んで無いで続きと行こう、か?」

歯を食いしばって立ち上がる少年に、少女はニヤッと笑いかける。

手にしていた槍を捨てて、腰に差している木剣を抜く。

「次から同じ条件だ。掛かっておいで」

「シッ!」

同じ条件であっても結果は変わらない。

その日もハーフレンは夕方になるまで少女にあしらわれ、ボロボロになりながら寝落ちしたフレアを抱えて帰宅する。

恐ろしいことに彼のそれを日課としていた。

何百何千何万と負け続けるが……決して折れずに挑み続けている。

「しばらく見ないうちにハーフレンも良い顔になってたな」

「そうでしょう」

「……お前は子育てと弟子の教育まで彼に丸投げしたと聞いてるがな」

「あら? お蔭であの子は良い子に育ってますわよ?」

夫の言葉に心外だと言いたげな妻。

ケインズ・フォン・クロストパージュは呆れた様子で頭を掻いた。

「何か不満でしょうか?」

「いいや。良い妻を得たと思っただけだ」

「そうでしょう」

胸を張って威張る彼女に笑いかけ、夫は自身が座るソファーの横に来るよう妻に促した。

「あら……フレアの次の子供をお望みで?」

「今は良い」

「……また妾でも得たのですか?」

「今では無く後でと言う意味だ」

「へ~」

妻の様子から王都の方でのことが耳に届いていると察し、彼は話題を変えることにした。

「お前の元にも届かない話も多いだろうと思ってな」

「そうですね。知りたくもない話は良く届くのですが?」

「……うん。それはあれだな。うん」

笑いながらも決して目が笑っていない妻に彼は全てを悟った。

今夜は相手が納得するまで話し合うしかない。愛情表現を含めて持てる全ての力を発揮しつつだ。

「それで……私に聞かせたい話とは?」

「ああ。側室に上がったルーセフルトの娘が子を産んだ。だが死産だった」

「……」

確かに届いていない話だった。

フロイデは襟を正す気持ちで夫を見つめる。

「お蔭であの家は上に下にと大騒ぎとなった」

「……暗殺?」

「それを疑っている。現に娘の出産に立ち会った者は全てが行方知れずだ」

「可哀想に」

拷問にかけて居もしない黒幕を吐かせようとしたのだろう。

「だが問題が起きた」

「問題?」

「ああ。ルーセフルト家は今回のことを王弟の仕業だと決め込んだ」

夫の言葉に妻の目が細まる。

「王都では両家の探り合いと殺し合いが裏で始まった」

血の気の多いルーセフルトらしい。ただそうなると……飛び火することをフロイデは恐れた。

「ウイルモット王は?」

「スィークを王弟の警護に回し、俺にはシュニット様の警護の指示が回って来た。それを受けるとしばらく領地に戻れなくなるのでな……それで今回急いで戻って来た」

「ああ。それで……まあ仕方ないですわね」

何かに理解を示してくれた妻に夫は内心胸を撫で下ろす。

「そうなると……ハーフレン王子をもうしばらく預かれと?」

「そう言うことだ。戻すに戻せんしな」

「そうですわね」

言ってフロイデは少し悩んだ。

「でしたら国王陛下にご褒美をおねだりしても?」

「何を企んでいる?」

「いいえ。ただ私は子供に優しい母親なので……フレアが大好きな『お兄ちゃん』といつまでも一緒に居られればと思っただけですわ」

「ハーフレンとか……」

臣下である自分が仕えている国王にそれを申し出ることは許されない。が、近況の報告がてらに『大変仲が良くいつも一緒に居る』と伝えることに問題は無い。

何より相手は聡明な王だ。それを聞けばこちらの意図など理解する。

「近況の報告がてら伝えてはみる」

「はい」

ただその提案は通りそうだとケインズは睨んでいた。

跡継ぎの長子の婚姻は、外交を睨んで他国の姫を娶ることになりそうだが、次子には国内の有力貴族から相手を選ぶのが通例だ。現在王家と血縁関係の無い有力貴族にクロストパージュ家は入る。

今は話し合いを優先しようとケインズは頭を振った。

「後は……ブシャール砦にアルーツ王国が攻めて来た」

「それで?」

「守備隊長を務めていたシュゼーレ……王妃の襲撃の時に護衛隊を指揮して奮闘した男だが、彼の活躍もあって撃退することが出来た」

だが夫の顔色が晴れないことを妻は気付いた。

「何かありましたか?」

「ああ。敗れたアルーツにブロイドワン帝国が攻め込んだ」

やれやれと肩を竦めて彼は妻に顔を向ける。

「たぶんアルーツは負けるだろう。そうなると我が国はあの帝国と領地を接することになる」

「……また大きな戦争になりそうですね」

「ああ」

やりきれない気分になってケインズは妻を抱き寄せた。

夫の心中を察して……フロイデは相手にしな垂れかかる。

「また人が多く死ぬ。本当に……我々人間とは愚かしい生き物だよ」

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