軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

この目に見える全てをね

時は流れ……幼かったハーフレンも健やかに元気に成長した。

そして妹のようなフレアもまた成長する。

ハーフレン7歳。フレア4歳。

だが2人の生活に大きな変化など無かった。

朝、目覚めたハーフレンが何を置いてもすることがある。

自分のベッドで一緒に寝ているフレアが……していないか確認するのだ。

別に1人で行くのが怖いのなら起こしてくれれば良いと思うが、どこか遠慮がちな"妹"は決して"兄"を起こそうとしない。結果として寝ながらしてしまうのだ。

今朝は問題無く無事な朝を迎えられた。

白い寝間着姿の彼女を見つめて柔らかく笑い、ハーフレンは後のことをメイドに託す。

起きてから最初にすることは屋敷の周りをグルグルと走ることだ。

『走れ。走れば体力が付く』と"あれ"に言われてからずっと走り続けている。

ひと通り走り終えてから汗を拭い、いつも通り"家族"で朝食を摂る。

正室であるフロイデを中心に回っている屋敷には、たまに王都から子供が送られて来ること以外特に問題も無く平和だ。

ハーフレンはフレア以外の弟妹とも良好な関係を築けているので問題も無い。

それからフレアと一緒に部屋に戻って昼まで勉強に勤しむ。

正直勉学は苦手だが、自分よりも幼いフレアが難しい本を見て質問して来るので……兄として答えられないのは恥ずかしい。ここしばらくは必死に勉強し、妹の質問もどうにか返答して来た。

ただ最近魔法関係の質問が増えて来たので、流石にそっちはお手上げするしかない。

ハーフレンには魔法の才能など微塵も無かったのだ。

午後には軽い昼食を得てからいつも通り丘に向かう。

フレアなどは同行の許可も得ずに、本を片手に勝手について来るからハーフレンは何も言わなくなった。

「君たちは本当に仲が良いね。でも本当の兄妹では無いのだろう? そうなるといずれは夫婦かな?」

何処か嬉しそうに頬を紅くする妹を定位置の椅子に向かうように指示してハーフレンは木剣を抜く。

いつも通りにハーフレンは彼女に挑む。

「やはり男だね。本当に……羨ましくなるよっ!」

ここでの練習も5年が過ぎた。

少年だったハーフレンも頭2つ分も成長し、それ相応に力も得た。

対する相手も少し髪を伸ばし女の子らしく見えるようになったが、それでもハーフレンを圧倒し続ける高い壁のままだ。

だからこそ彼は迷うことなく挑み続ける。

目の前の壁を越えることが出来れば確実に強くなる……そんな確信めいた思いを抱いているからだ。

槍対剣の戦いをフレアは読書の合間に眺めては、心の中で小さな声を発し兄を応援し続ける。

彼女の中では『ハフ兄さま』は最強なのだ。

今はまだ弱くてもいずれは絵本に出て来る"勇者"のように凄いことをしてくれるはずだ。

何よりも『彼とずっと一緒に居たい』と、幼心の中にその気持ちを芽吹かせていた。

両親のようになれたらと願い……本から視線をずらし彼を見つめ続けるのだ。

「本当に強くなったな……君は」

珍しく休憩中にそんな言葉を相手がかけて来た。

「もうあと1年もすれば私も負けるかもしれない」

「……」

「ただしその時は遠慮なく魔法を使うけどね」

相手も相当の負けず嫌いだとハーフレンは理解していた。

たぶん本当に魔法を使って来ることも容易に想像出来る。

と、自身の背後に座るフレアがハーフレンの服の裾を掴んで引いた。

「ならフレアが、ハフ兄さまに魔法を使う」

「……」

「大丈夫。兄さまは負けない」

恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてそう言ってくれる妹の頭をハーフレンは優しく撫でた。

「つまりこれからは2対1ってことか。悪くない」

クスクスと笑い少女も優し気な視線をフレアに向ける。

師であるフロイデの愛娘だ。何よりその魔力量はクロストパージュ家でも指折りに多い。

「フレア様は頭も良いし魔力強いもある。もしかしたら飛び級で王都の魔法学院に入れるかもしれない」

「魔法学院?」

少女の言葉にハーフレンは思わず聞き返していた。

「……君は王都の産まれだろう? 魔法学院は魔法使いを志す者が集まり学ぶ場所さ」

言って少女は自分の胸に手を当てた。

「わたしは魔力が弱いから入学するのは無理だけどね」

「威張ることか?」

「良いんだよ。わたしは騎士を目指しているんだから」

少し拗ねた様子の少女がぶっきらぼうにそう告げる。

「騎士か」

「そう騎士だ」

立ち上がった少女は大きく手を広げて自分の視界全てに告げる。

「わたしは護りたいんだ。この目に見える全てをね」

『護りたい』と言う言葉にハーフレンも反応し相手を見た。

「病気で亡くなった両親の代わりにわたしを育ててくれた人への恩も返したい。

でも、わたしは何よりこの国に住まう人たちを助けて護る存在になりたい。だから騎士になる。騎士になってこの国を外敵から護るんだ!」

「良いな……それ」

「ああ。最高だろう!」

満面の笑みで笑う少女にハーフレンも柔らかく笑い返す。

と……両手で本を持ったフレアが兄の頭を叩き始めた。

「痛い痛い。フレア?」

「ハフ兄さま……」

「何だよ?」

「知らない」

泣き出しそうな顔で怒る少女は、頬を膨らましてそのまま屋敷の方へと走って行く。

訳も分からず呆然とする彼を見つめて笑う少女は、素直に助け舟を出すことにした。

「追いかけてやりなよ」

「でも怒ってたし」

「良いんだよ。それでも追いかけて欲しい時があるんだよ」

分からないまま立ち上がったハーフレンは急いで妹の後を追った。

やれやれと呆れて笑った少女カミーラは……遠ざかる王子様の背中を見つめた。

「君なら出来るかもね。この国を平和にすることが」

呟いて少女はもう一度緑豊かなクロストパージュ領を見つめた。

この平和を、人々の笑顔を護ることこそが少女の生き甲斐なのだ。

半年後、カミーラは騎士になる為に王都へ移り住むこととなった。

そこで初めてハーフレンに自分が彼の"護衛"だと告白をし、全く気づいていなかった王子が何とも言えない表情を見せた。

そして笑顔で彼女は王都へと旅立った。全てを護る騎士になる為に。

後に彼女は敵味方含めてこう呼ばれるようになる。

『串刺しカミーラ』と。

それは敵兵に対して微塵の情けを掛けない人物となって得た……悪名である。

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