軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

孫を抱くのが楽しみだって

「もう。そんな風に抱いたら首が座らないでしょう?」

女性の忠告を受けた少年は、腕に抱く存在をどう扱えば良いのか分からず途方に暮れた。

クスクスと笑った女性……フロイデ・フォン・クロストパージュは、少年から我が子を取り上げると優しく抱き締めてあやしだす。

「こうよ。肘の内側で頭を受け止めて固定するの」

「……はい」

腰が引けている様子の少年にフロイデは優しく笑いかける。

彼女は見目麗しい女性だ。母親らしい優しく暖かな雰囲気を持つユニバンス貴族にみられる金髪碧眼であり、何より国で有数の力を持つ上級貴族の正室である。

宮廷魔術師を多く輩出する歴史ある一族の現当主の妻……彼女も一角の魔法使いではあるが、今は娘を慈しむ母親でしかない。

「ハーフレン。良い? 貴方もこうして王妃に抱かれて育ったのよ?」

「……」

「ラインリア様はご自身で子育てをすることを願っていたから、私が会いに行くと良くこうして貴方を抱いていたわ」

優しく我が子をあやしながらフロイデは目の前に立つ少年に語り掛ける。

「あの人は怪我ぐらいで死ぬほど弱くない。私にこうも言ってたの。『孫を抱くのが楽しみだって』ね。だから貴方は、王妃が怪我を負ったことを気に止まず……元気に強く育ちなさい」

「……はい」

自身の子供に向けていた視線を少年へと向ける。

母親である王妃と共に遭遇した事件の顛末は夫から聞いて居た。友人でもある王妃を見舞いにも行きたかったが、フロイデはそれを我慢し領内に留まった。

傷つき倒れている友人の姿を目にしたら……自身の感情を押さえられないと確信していたからだ。そうなれば王妃暗殺を主導したであろうルーセフルト家と全面戦争になる。

剣対魔法の殺し合い。

国内の安定の為に奔走している夫の足を引き、むしろ逆のことにしかならない行為を妻としては出来ない。

「今は辛いでしょうけど……いずれその辛さが報われる日がやって来るわ」

「はい」

目の前の王子に向かい告げた言葉は、自身に向けた言葉でしかなかった。

「さあハーフレン。もう一度この子を抱く練習よ」

「……」

「貴方だっていつか父親になるのだから、自分の子供も抱けない夫じゃダメよ」

気持ちを切り替えてフロイデはまた我が子を手渡す。

何度か抱いて学んだのか、おっかなびっくりの王子様は……その腕の中で赤子の少女を優しく抱く。

少女の名はフレア。フレア・フォン・クロストパージュ。

ずっと寝ていたフレアはうっすらと目を開けると、手を伸ばしハーフレンの髪を掴もうとする。

慌てて少年はその手から逃れようとするが、少女が泣き出しそうな顔をするので渋々我慢した。

「あ~」

「あら? フレアもお兄ちゃんことを気に入ったみたいよ?」

「……」

何処か母親の王妃のような感性を見せるフロイデに、ハーフレンは逆らうことが出来ない。

翌日からフレアの遊び相手はハーフレンが勤めることとなった。

ユニバンス王国の東部、この地は国内でも有数の穀倉地帯だ。

故に王からの信頼が厚い者が領主となりこの地域を治める。

ここ最近ではずっとクロストパージュ家が一番広い領地を治めているのは、王家からの信頼が厚く……何より王の相談役でもある宮廷魔術師を多く輩出していることも関係している。

その関係もあり……この地域は魔法使いが多く、そして彼らは領主であるクロストパージュ家に忠誠を誓っている。関係が確りしているから他家の調略や陰謀は水際でせき止められるのだ。

そうで無ければ……暗殺対象となった王子が一人で外出など出来ない。

念のために護衛を1人手配するが、それはフロイデの親切心でしかないのだ。

木剣を手にしてクロストパージュの屋敷を出たハーフレンは、手近な丘に向かいそこで自分なりの練習をしていた。

弱かったから母親を護れなかった。大怪我を負って死にそうになった。

頭の中をチラチラとその言葉が巡る。

まるでその言葉を断ち切るように少年は木剣を振るう。

型など無い。ただ我武者羅にだ。

「ハッ」

近くの木から舞い落ちる木の葉を見つけては剣を向けて斬ろうとする。

木の葉が無ければあると思って斬り付ける。

斬る物は何でも良い。ただただ木剣を振るうことで少しでも強くなれる……そう信じていたのだ。

「ひどっ」

「だれ……だっ」

突然の声にハーフレンは汗だらけの顔を向ける。

いつの間にかにやって来ていた少年らしき者が石に座って眺めていた。

赤い髪の赤い目をした腕白そうな相手に、ハーフレンは鋭い視線を向けていた。

「ごめん。余りにひどいから」

「ひどい?」

「うん。だって腕だけで剣を振ってるから」

ぴょんと座っていた石から立ち上がった相手は、ハーフレンの傍に来ると彼の手から木剣を奪った。

余りにも滑らかな手つきで相手に剣を奪われた少年は、目を見開いて驚いた。

「こ~んな風に腕だけで、ブンブンと」

「……」

多少誇張はあるが木剣を手にした者はハーフレンの動きを真似して振るう。

確かにそれは上半身、腕の動きだけで振るう無様な物だった。

「これじゃダメ。戦場だとたぶん1度目の戦いで相手に殺される」

「……」

良く分からないが悔しい気分に襲われ、ハーフレンは相手が持つ木剣を掴み奪い返した。

すんなりと相手が手を離したお蔭で木剣が無事に戻って来たことに気づかず、少年は取り戻した物をまた握り締めると振り始めた。

「だから腕だけじゃダメだよ」

「……」

「少しだけ膝を曲げる」

「……」

「もう少し腰を落とす」

「……」

「それで振り続ける」

笑いながらまた石に戻った相手が、ジッと見つめて来る。

その視線を受けつつハーフレンは剣を振るい続け……僅かな時間で下半身が悲鳴を上げてへばったのだった。

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