軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

不可能に挑むと申すか?

「キルイーツ・フォン・フレンデよ。顔を上げるが良い」

「はっ」

謁見の間に通された彼は、人生で最も名誉ある苦痛に満ちた時を過ごしていた。

場の流れで王妃と王子を助けたが、まさかこのような場に呼ばれるとは思いもしていなかったのだ。

恐る恐る上げた顔は、玉座に座る尊き者を見る。

ユニバンス王国現国王……ウイルモット・フォン・ユニバンスだ。

先の内戦で勝利し、外敵からも国を守り続けている。政治に軍事に突出した素晴らしい王だ。

「今回の働きは素晴らしい物であった」

「はっ」

「……少ないがお主に褒美をと考えている。何を望むか?」

「……」

またと無い機会だと分かっている。

高望みは出来ないが、それでも少なからずの希望は叶えられる。

キルイーツは一度唾を飲み込んだ。

「重ねて問おう。何を望む?」

「……でしたら魔法学院への入学許可を」

「ほう」

報告では彼は、外科的手術を持って妻を救ったとある。

そんな彼の望みが魔法学院の入学とは、ウイルモットは興味を覚えた。

「お主は何の為に学院への入学を望むのか?」

「……」

「答えよ」

「はい。自分は治療魔法を作りたいと思っています」

「ほう」

王は増々興味を覚えた。

彼は治療術式では無く治療魔法を作りたいと言ったのだ。

魔法に詳しくないウイルモットですらそれは知っていた。『この世界の魔法は治療に向いていない』と。

それが何故かはいまだに解明されていない。始祖の魔女と呼ばれる存在がそう仕向けたと言われているが、確たる証拠は残っていない。

故に治療魔法は不可能魔法に分類され、どの国も秘密裏に挑戦し未だに開発されていない。

「不可能に挑むと申すか?」

「はい」

「そうか……」

腕を組み王は暫し思案する。

歴代の魔法使いが挑んでも不可能であった。だが目の前の人物は医者でもある。

医術と魔法が組み合わされば……あるいは。

「作れるのか?」

「分かりません」

「でも挑むのか?」

「はい」

「何故だ?」

「……」

一度口を閉じてキルイーツは息を吐いた。

「自分には病弱の祖母が居ました。病に侵され衰弱していく彼女を見て、自分は何も出来ませんでした。外科的な手術は異世界より伝わっていますが、病を癒す方法は伝わっていません。自分は死ぬまで祖母の様子を見つめるしか出来ませんでした」

相手の気持ちが痛いほどに理解出来た。

自身もベッドで眠る妻を見つめてやることしか出来ないからだ。

「だから作りたいと?」

「はい」

「……分かった」

ニヤリと笑いウイルモットは深く頷いた。

「キルイーツよ。魔法学院への入学とそれに掛かる費用をこのウイルモットが手配しよう」

「はっ」

「だからお主に命ずる。必ずや治療魔法に至る手がかりを見つけよ。これは厳命だ。良いな」

「はっ! 我が王よ……その命や必ず達成いたしましょう」

キルイーツは魔法学院に入学し、そして彼は治療の研究に明け暮れた。

ある偶然から治療魔法の一端を手に入れ、天才の手を借りて不可能攻略に手を掛けた。

だが……治療魔法が完成したと言う報告は、最後まで国王ウイルモットに伝わることは無かった。

「兄上」

「ウイルアムか」

「遅くなりました」

「構わんよ」

宰相として忙しなく働いている弟と共に国王の執務室に入る。

ソファーに腰かける兄弟は、簡単な打ち合わせを済ませると世間話へと話題を変えた。

「リア様の具合は?」

「……正直ギリギリだ。生きているのが奇跡な状態で担ぎ込まれ、王都に居る医者を集めて手当てに当たらせたが、な」

「それならば?」

「長生きは難しいだろうと言うことだ」

深く息を吐いてウイルモットは背もたれに身を預けた。

「長くて10年……それも幸運が重なってとの話だ」

「そうですか」

「ああ」

ゆっくりと窓の外に顔を向け、王は息を吐いた。

「この事実を子供たちにどう伝えるべきか……儂はそれを悩んでばかりだよ」

「失礼します」

可愛らしい少女がペコリと頭を下げて室内に入って来るなり、迷うことなく金色の髪をなびかせて少女はベッドへと駆け寄った。

ベッドの主である女性は、その表情から血の気を失ったままだ。

土色の健康には見えない顔。拭かれるだけで洗われていない金色の髪は少しボサボサとしている。

優しく慈愛に満ちた王妃とは思えない存在が少女の目の前に居た。

だが少女は微塵も気にせずベッドの横に置かれている椅子に腰かけると持参した本を手にして読み始める。

これが王位継承権第7位……グローディア・フォン・ユニバンスの普段の暮らし方となっていた。

1日に数時間だけ目を覚ます彼女と会話をする為に、少女は1日の大半をこの場所で過ごしている。

それが今の少女の生き甲斐なのだ。

「ん~」

鼻歌交じりに魔法書を読んでいる彼女は、ふと視線をベッドに向けた。

うっすらと開いている王妃の目が自分を見つめていたのだ。

「リア伯母様」

「……おはよう」

「もう。起きているなら声を掛けてくれれば良いのに」

少女特有の高めの声でグローディアは椅子からベッドの端へと座る場所を変える。

「楽しそうに……読んでたから」

「良いんです。もう読んだ本です」

王妃に体を寄せて少女は甘える。

自身の母親よりも優しくしてくれる王妃を、少女は誰よりも好いていた。

「ディアは本当に、本が好きね」

「はい。伯母様の次に好きです」

「嬉しいわ」

顔色が悪いままで王妃は優しく微笑みかける。

自分に向けて笑ってくれる彼女にグローディアは抱き付こうとして、その衝動をこらえた。

相手の怪我はとても重いと聞いている。無理なことをして怪我が酷くなれば、大好きな存在を失ってしまうかもしれない。

幼いながらも神童と呼ばれる少女はそのことを理解していた。

「リア伯母様」

「何かしら、ディア?」

「はい。伯母様の怪我はわたしが治します」

「そう……待っているわ」

「はい!」

柔らかく笑う王妃に、グローディアも笑い返す。

そして彼女は……王妃の怪我を治すと言う夢を叶える為に、今後その才能の全てを傾けることとなる。

成果だけを望み、過程を選ばずにだ。

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