作品タイトル不明
良いから待ってなさいよね!
ユニバンス王国・北部旧 門(ゲート) 所在地
「1つ聞いて良いかしら?」
「何でしょう」
ゆっくりと馬車を降りたアイルローゼが目の前の景色に呆れている。
少し前までこの場所には門が存在して居たらしい。でも今はそう言われても信じられない。瓦礫の山だ。厳密に言えば瓦礫と地割れの酷い状況だ。
「私がここで何をしろと?」
「陛下が言うには一応移設した理由を決定づけて欲しいと」
「これで文句を言う人が居るの?」
「外交って重箱の隅をつついて文句を言い合うのが仕事みたいなものだからね」
「嫌な世界ね」
呆れに呆れを重ねて先生がぐるりと惨劇の現場を見て回る。
一応回収忘れが無いのかの確認だが、あの悪魔がその辺のドジをするとは思えない。
護衛の騎士さんに椅子を準備して貰ってそれに座ると一息つく。
本当なら舞台の工事に立ち会ったり、新しい門の周りに設置する施設の工事に立ち会ったりと……僕の本業って建築関係の現場監督でしたっけ?
少しだけ仕事について悩みつつ飲み物の準備をしてもらう。
たぶん先生が戻ってきたら『飲み物は?』と言い出すに決まっている。
頬杖をついて奇麗な足を眺めながら、ついでに瓦礫の山にも目を向けた。
この場所に存在して居た門は大型ドラゴンに襲撃されて破壊されたということになっている。実際にここに居た人たちがそう証言している。
まあ悪魔が暗躍して僕の名前の元に色々と画策した結果だ。
必要な物はすべて運搬し、この場で働いていた人たちは徒歩でユニバンス王都に向かった。
そして悪魔はこの場所を破壊しつくした。その残骸が目の前に存在して居るのだ。
「瓦礫ばかりね」
「だろうね」
「何か残ってないと疑われないの?」
「だからそれっぽく加工しに来たんです」
これが準備で忙しい僕らに回された仕事だ。
往復で4泊5日を費やすこの仕事をお兄様が急いだのは、復旧した門で訪れるようになった商人たちから『何が起きたのですか?』と問い合わせが殺到した。
一応準備した説明では『大型ドラゴンが門を襲撃し、その為に緊急的に移設した』と言い訳をしたのだが……まあ怪しむ人は多いのです。
商人に扮した間者が元の場所を確認する前に陛下から『アルグスタよ。行って怪しまれない程度に廃墟にしておいてくれ』と依頼を受けた。
ポーラの姿をしている悪魔は『完璧な仕事はしたけど……まあ魔女と旅行しに行きたいなら止めないわ! お姉様も黙らせておくから心配しないで』と逆に不安になる言葉で背中を押された。
そんな訳でノイエを置いてお仕事に向かう。
でもウチのノイエがそんな行為に屈するわけがない。初日二日目と仕事が終わると飛んで来た。おかげで馬車の中で3人で川の字になって寝ることになった。
ただ今朝方アイルローゼがノイエを捕まえて何か説得していた。
『後は帰るだけだから来なくて良いから』『でも』『お姉ちゃんが信用できないの?』『……はい』と、ノイエの圧にも負けないアイルローゼの圧によりウチのお嫁さんが屈していた。
これで今夜と明日はノイエが来ないらしい。多分来るけどね。ノイエだし。
「何よ?」
足を組んで冷たい飲み物を口にしていた先生を眺めていたら睨まれた。
「美人だなって」
「……そう毎日聞かされると有り難味が無くなるわね」
「酷い」
ツンっと顔を振って先生が遠くを見つめる。
「それであれをどうしろと?」
「もっといい感じにドラゴンに襲われた感じに出来ます?」
「……ノイエが暴れた感じにすれば良いのね」
「そうなるのかな?」
大型ドラゴンが出たら退治するのはノイエの仕事だ。
よってここに居ついたドラゴンをノイエが倒したということにするなら……多少の破壊跡が必要とも言える。
「良い感じでお願いします」
「その曖昧な指示が一番イラっとするのよね」
また椅子から立ち上がり、先生が瓦礫に向かって歩いていく。
魔法語と破壊音が響いて……うん。良い感じで破壊された。
「これで良いの?」
「流石です」
「ならさっさと帰るわよ」
「はい?」
「ずっと野外なんて耐えられないわ」
言うと先生がさっさと馬車に戻って行く。
まあインドアな先生にはこの手の遠征は辛いのかもしれない。
僕も騎士さんたちに片づけをお願いして馬車に乗り込むと、我が家の愛馬ナガトが勝手に歩きだした。騎士さんたちを置いてけぼりだな。
まあこれでも僕は王国でドラゴンスレイヤーと呼ばれている存在なので問題は無い。
何気に先生の腐海ならドラゴンぐらい融かすこともできる。問題は高速詠唱を誇る先生でもドラゴンの動きには対応できないそうなので単独での退治は難しいらしい。
単独で無くてもドラゴンが退治できるならドラゴンスレイヤーで良い気もするけどね。
「ねえ馬鹿弟子」
「はい」
「……」
窓の外を見つめている先生の頬が何故か赤くなった。
「今夜はその」
「はい?」
増々赤くなったぞ?
「その……頑張るから」
「はい?」
「良いから待ってなさいよね!」
何故か先生に怒られた。
その夜先生は頑張った。とても頑張った。
今朝の約束を忘れて飛んで来たノイエとマジ喧嘩していた。
姉対妹の喧嘩は、途中でマジで拗ねた先生の圧勝だ。
膝を抱えて気落ちする先生にノイエが慌てて抱き着いて謝り倒していた。
そう。もう一日ある。
本来なら先生のリベンジのはずが、ノイエは期待を裏切らない。
最終日もノイエは飛んで来て……何故かアイルローゼがマジ泣きしていた。
先生が何をしたかったのかは本当に謎のまま、僕らは王都へと戻った。
ユニバンス王国・王都王城内
「シュニット様。出場者が決まったです~」
「……王妃は本当に楽しそうだな」
「です~。王都内はもうお祭り騒ぎです~」
小柄な王妃が言う通り王都内は日々活気を帯びていた。
通りには出店が立ち並び、門が近くに置かれたことで商業活動が活発になった。
恐ろしいほどに金が回っていると宰相代理からも報告を受けている。
準備金の3割負担は少し痛かったが、それを十分に補う儲けがほぼ確定している。
それも当日を前にしてだ。これが当日の売り上げも考えれば……毎年の行事にしたいぐらいだ。
「それで未定だったメイド枠と国軍の枠は誰が?」
「これです~」
握って来た紙を王妃キャミリーが置く。
それに視線を向けたシュニットは、一度視線を外して元に戻した。
国軍の代表は大方の予想通り『虚空』と呼ばれている特務騎士だ。
問題はメイドの代表だ。
「彼女は出ると?」
「はいです~」
「だが彼女は……」
まだ成人では無い年頃の少女の参加に国王として抵抗があった。
「でも今回の参加者に年齢制限は無いです~」
「そこを叔母上が突いてきたか」
「はいです~」
ならば仕方ない。
今回は間違いなく運営側のミスである。
「今回の結果を踏まえ次回行うことがあるのであれば見直しが必要だな」
「です~」
輝かんばかりの笑みを浮かべ王妃は特等席に座る。愛する夫の膝の上だ。
彼女が見やすいようにと机の上の紙を手にし、シュニットは2人でそれを見つめる。
「それでこの名前の前に置かれている言葉は何だ?」
「良く分からないです~。でもおにーちゃんが言うには『この手の煽りが大切』と言ってたです~」
「アルグスタの仕業か。ならば良いがな」
何を考えているのか分からない弟は……本当に日々楽しく生きているのだろう。
シュニットは今一度紙に視線を向け直した。
“竜殺し”ノイエ・フォン・ドラグナイト
“串刺し”カミーラ
“食人鬼”トリスシア
“変態剣士”モミジ・サツキ
“撲殺魔”ジャルス
“虚空”リディ
“格闘士”ミネルバ
“天才少女”ポーラ・フォン・ドラグナイト
「ドラグナイト家から2人も出るのか?」
「です~」
「まあ構わんが」
呆れつつもシュニットは最後のハルムント家からの提案に目を止めた。
「賭けまですると?」
「そっちの方が盛り上がるです~」
「……まあ良い。運営はお前たちに任せているしな」
「です~」
一番信頼できる王妃に一任し、シュニットは自身の仕事に戻った。
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