作品タイトル不明
そろそろ営業の時間ですよ
ユニバンス王国・王都王城内宰相執務室
「わたくしが貴女を呼んだ理由は分かっているわね?」
「なぜでしょうか?」
師である刻印の魔女に意識を譲っている隙に心の底から慕う兄が仕事へ出向き、少しだけ機嫌を悪くして過ごしていた少女は突如メイドとしての師である人物から呼び出しを受けた。
先輩メイドに案内されたのは宰相の執務室だ。
部屋の中央で椅子に腰かけている小柄のメイドを多くのメイドたちが囲っている。
完全に包囲されている状況だが、少女はその顔を小さく傾げて動じない。
肝が太いというのか、周りのメイドたちが意味もなく攻撃して来ないと信じているのだ。
少女と向かい合うように椅子に座る女性は、初代のメイド長である。
二代目のメイド長は彼女の後ろで呆れた様子でため息をついていた。
「貴女にはメイドの代表として今回の試合に参加してもらいます」
「わたしがですか?」
「そうです」
「……」
ジッと少女は二代目メイド長の顔を見つめる。
すると今度は初代のメイド長がため息を吐いた。
「当初はフレアを出そうと思っていたのですが、先の王妃が拒絶したのです」
「どうしてでしょうか?」
「フレアに何かがあったら孫が増えなくなると」
「……」
物凄い我が儘だ。そしてこの国の最大級の機密事項だ。
「もしフレアを出すなら代わりに自分が出ると暴れ出しまして」
「それは……」
我が儘で強力な脅迫だ。
前王妃が出たら下手をすれば優勝まである。
噂では姉様よりも強いと聞く人物だ。
「でしたらほかのせんぱいが」
「ええ。わたくしもそう考えたのですが」
ため息を吐く先代メイド長が告げると、今回の試合に適したメイドが居ないそうだ。
唯一の存在は試合当日までハルムント家に強制連行され鍛え直されているミネルバだ。
「ぶきのしようもありですから」
「ええ。でも妊娠している女性を戦わせるわけにはいかないでしょう?」
「……はい」
武に優れたメイドは現ハルムント家の当主であるイールアムの側室も務めている。
中々子宝に恵まれない義理の息子に対し、義母は強硬策に出た。
数をこなして誰かが妊娠すれば良いと物量戦に切り替えたのだ。
メイドたちも恩のある先代メイド長の願いを聞き、自ら進んで夜伽に臨む。
結果としてイールアムが日々枯れて行っているが、その努力もあって複数人のメイドが孕んだという。
「おめでとうございます」
「まだ生まれていないのでその言葉は早いです。何よりわたくしが望む力量を持つ者が生まれれば良いのですが」
「それは……」
目の前の人物が望む水準が高いことを少女は知っていた。
その希望を叶える存在が誕生するまでどれほどのメイドたちが子供を産むことになるのか。
「それにイールアムが日々衰えていましてね。各国から滋養強壮に利く物を集めているのですが」
「……」
先代の背後……机で仕事をしている宰相代理のげっそりとした様子を見るに、少女は色々と心配してしまう。
確か聞いた話だと現在屋敷に滞在している魔女が、その手の魔法を使って夜な夜な卑猥な悲鳴を発しているとか。
ズルいとも思うが、まだ自分は幼く何より姉が妊娠するまでは我慢だ。
「話しがズレましたが、おかげでミネルバ以外ではこれと言った者が居ないのです」
「わかりました」
そう言う理由ならばしょうがない。
座って居た椅子から立ち上がり、少女は背筋を伸ばす。
「めいどちょうさまのごいらい、このポーラがひきうけます」
「良い返事です」
ニコリと笑い先代メイド長……スィークはポーラを見つめた。
「もし鍛錬に相手が必要ならわたくしの屋敷に来なさい。好きなだけメイドたちと戦うことを許可しましょう」
「わかりました」
恭しく頷きポーラはニコリと笑った。
「ならこれからさっそく」
向上心の塊である少女は、その日から鍛錬と言う名の地獄に自ら喜んで飛び込んだ。
ユニバンス王国・王都内とある娼館
「何でリディが居るの? 仕事は?」
「自分も良く分からないのだが、呼び戻された」
湯船には先に3人の女性が浸かっていた。蛇と人形と筋肉だ。
その姿を確認した女性は会話をしていた真面目な国軍の騎士から視線を動かし、本日のお目当てであるモノを確認した。噂通り完璧に修理されていた。
国宝級の一品だ。今すぐ全てを撫で回して味わい尽くしたい。
人形の持ち主であるメイドは、面倒を見ている王妃が真面目に仕事をしているおかげで休みを得たらしく……この娼館の主に掴まり全身を奇麗に洗われていた。
本当に隈なく洗われている。もうトロトロに溶けて男性が見たら大興奮で襲い掛かって来そうなほど雌の表情を浮かべている。幼い姿をしているのにその表情は年相応に淫らだ。
「北東部の新領地を見回っていたら大将軍から呼び出しを受け、戻ってきたら……王都で何かあるのか?」
「知らないの?」
「ああ」
手で湯を掬い軽く揉むようにしているリディは余程急いで帰って来たのだろう。
それを理解した魔法使いのイーリナは、体の汚れを軽く湯で洗い流し早速人形に手を伸ばした。
先の任務でボロボロに破壊されていた物が完璧に直されている。もう新品かと思うほどの完璧な仕事だ。芸術の域だ。
涎を垂らし掴んだ人形を頬擦りしながら、イーリナはその感触を堪能し始めた。
もうこうなるとイーリナがダメなのを知っているリディは、全身を痙攣させているレイザを抱きしめている娼館主のネルネに目を向けた。
「何があるのだ?」
「ええ。ウチの問題王子様がまた新しく娯楽を提供しようとしているのよ」
「娯楽?」
「ええ。おかげで王都内が活気ついて私のお店もこの数日満員御礼よ。女の子が足らないぐらいで仕方なく私が複数の客を腰抜けにしているわ」
「ああ。そうか」
その手の話に滅法弱いリディは顔の半ばまで湯の中に浸かる。
初心な相手に微笑みながら娼館主であり現役の諜報員でもあるネルネは、抱えているレイザの中に指を差し入れ優しくかき混ぜる。洗うのならば徹底的が彼女の信条だ。
「で、本題として……3日後この王都で勝ち残りの試合が行われるの」
「ほう」
戦いと聞き根っからの剣士であるリディが沈めていた顔を上げた。
「当初は4人で行われるはずが、先代のメイド長が首を突っ込んで8人になったのよ」
「それは凄いな」
凄いことだが8人の猛者が思いつかないリディは軽く首を傾げる。
「国軍の代表は貴女だから」
「……はっ?」
突然のことでリディは間の抜けた声を発する。
『国軍の代表とは?』と思うが、自分が出たらあっさりと優勝してしまう気がした。
「ねえリディ? 今自分が優勝すると思っているでしょう?」
「ああ」
「参加者にドラゴンスレイヤーが3人出るのに?」
「ぶっ!」
普通にリディは吹いた。
口元を腕で拭いつつリディは相手を真っすぐ見つめる。
甘い悲鳴を上げるレイザを抱いてネルネは妖艶に笑う。
「ノイエ様。モミジ様。トリスシア様の3人とカミーラも出るわよ」
「……串刺しが?」
「ええ」
ブルッと全身を震わせリディの目つきが変わるのをネルネは見ていた。
「それに国軍から貴女が。メイド枠として先代の秘蔵の弟子が2人」
「おお」
興奮し前のめりでやる気を見せる相手に、ネルネはとっておきのニンジンを披露することにした。
「そして最後の1人は破壊魔よ」
「……」
子供のように興奮した表情が一瞬で引き締まる。
リディの気配が変わるのをネルネはその肌で感じた。
闘気と呼んでも良い気配がリディから発せられる。
それほどまで破壊魔に対しての想いがあるのだろう。
「出るのか? 何よりも生きているのか?」
「ええ。何でも術式の魔女の護衛をしていて隠れていたそうよ」
「……そうか」
無表情だったリディの顔つきが変わる。
何処か野性味を帯び肉食獣を思わせる笑みを浮かべた。
その様子にネルネは自分の腹の奥が激しく熱くなるのを感じた。
リディが男だったらこのまま跨ってしまいそうなほど興奮を覚える。何なら女性でも良い。このままこの興奮を発散したい。
だがリディはそのまま湯船の中で立ち上がった。
「済まない。当日まで剣を振るい仕上げて来る」
返事など聞かず彼女は走りだして行った。
その後ろ姿を見送ることになったネルネは、逃した獲物に対して『あぁぁ』と悲鳴を発し、やり場のない性欲を抱えている人物に向けることにした。
「ねえレイザ。ちょっと私とベッドに行こうか?」
「むぅりぃ」
相手の悲鳴に耳を傾けず、ネルネはそのまま強制的に運んで行った。
1人残ったイーリナは、『そろそろ営業の時間ですよ』と店の者に言われるまで、人形の皮膚を頬擦りしていたという。
© 2022 甲斐八雲