軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

動ける者は掃除をしなさい

ユニバンス王国・王都中央広場

「ん~っ!」

我が子を膝の上に置きフレアは背伸びをした。

1人先に解放された。

と言っても捜索している者たちの視線を自分に集めるためのものだろう。だから囮として目立つ場所に来た。

ここで下手に王城にでも駆け込めば後でどんな仕打ちが待っているか分からない。

「本当に良い子ね。エクレアは」

周りの環境が良くないのか、胸に抱く子供は基本大人しい。

寝ているか食事か……たまにぐずったり夜泣きをするぐらいだ。本当に手のかからない良い子なのだ。

良し良しと軽く揺すりながら子供に語り掛け、フレアは静かに空へと視線を巡らせた。

初めて知った同級生の最後は……思っていたよりも辛くなかった。

何より本当にあの師は不器用過ぎるのだ。

《ミローテが罪を犯していなければ、先生は殺人を犯すことは無かった》

自分の中で師であるアイルローゼには絶対に勝てないと知らしめられた。

師はあの日あの衝動に抗ったのだ。でも自分は完全に飲み込まれ……それがずっと尾を引くこととなった。

《何より先生を愛していたミローテからすれば、彼女が望む最高の終わり方だったかもしれない》

師弟の関係を突き抜け弟子であったミローテはアイルローゼを慕い崇拝していた。

あれは正直同性愛者の領域だ。ミャンと同類の匂いしかしなかった。

だからこそ彼女は愛する者の手によって死んだことを嬉しく思っているはずだ。

それでこそ自分が知るミローテだ。

出会った時は頑張り屋のお姉さんだったのに。

次いで自分が知るソフィーアのことを全て話した。

運悪く転がり落ちてしまった彼女は、最後にとっておきの魔法をフレアに授けてくれた。

そのおかげで自分は死ぬことを回避できた。お陰で……こうして我が子を抱くことが出来た。

「よしっ」

本当なら混乱を減らすためにこの場に待機しているのが正しいのだとフレアは理解している。ただ今はそんな気分にはなれない。

軽く広場を見渡し、ベンチから腰を浮かせて歩き出す。

「済みません」

「はいよ」

向かったのは花屋の出店だ。

「花を包んでください」

店を切り盛りしている中年女性に声をかけ、使用用途は墓参りにと伝える。

『故人はどんな花が好きだったのかね?』と問われ、フレアは亡き2人がどんな花が好きだったのかを思い出せなかった。

でも好きそうな色は見当がつく。

「派手でとにかく目立つ赤い花を」

「墓参りに似つかわしくないけれど? 良いのかね?」

「はい」

だって赤は先生の色だ。その色をあの2人が嫌う訳がない。

代金を支払い奇麗に包んでもらった花束を手にフレアは真っすぐ歩き出す。

向かう先は少し遠いが共同墓地だ。あの場所に2人の友が眠っている。

「のんびり散歩か? 全く……」

「あら?」

寄って来た馬から声を掛けられフレアはそっと見上げる。

馬に跨る巨躯の騎士が居た。

「制止する部下を置き去りにして?」

「違うよ。偶然近くを移動していたら部下がお前を見つけたとな」

「あら? 走って来てくれなかったの?」

「急ぐ理由があるのか? ノイエが相手でなければお前は負けないだろう?」

「どうかしら? 本気の先生が相手だったら瞬殺よ」

クスクスと笑いフレアは相手が馬を降りるのを待つ。

重装備の状態であっても彼女の主人……王弟ハーフレンは身軽に石畳の上に降りた。

「それであの馬鹿たちは?」

「元気に逃げ回っているみたい」

「何処を?」

「それは頑張って探して欲しいのだけど?」

「口止めか?」

「ええ。先生の無言の命令」

「は~。全く面倒な」

ガリガリと頭を掻いて彼はその距離を無造作に詰めて来る。

そっと腰と言うか尻に手を回し、片腕で簡単にエクレアごとフレアを持ち上げた。

「本当に強引ね。この子が泣いたらどうするの?」

「それがこれぐらいで泣くか。笑いだすの間違いだろう?」

相手の行為に非難を口にしたフレアだったが、確かにその通りだと納得する。

実際エクレアは眠ったままだ。

「まずは屋敷に戻るぞ」

告げて彼も馬の背に跨る。

フレアを前に座らせ腰に腕を回し固定した。

「行きたい場所があるのだけど?」

「1度屋敷に戻ってからだ」

手綱を引いて彼は馬を操る。

行先は貴族区にある王弟屋敷だと言う。それだと遠回りだ。

「共同墓地に行きたいのだけれど?」

「1度屋敷に寄ったら連れて行ってやる」

「……」

珍しいほどに素直な譲歩だ。

逆にここまで抵抗が無いとフレアとしては怖くなる。

「何かあったの?」

「ああ。そろそろスィークたちが限界だ」

「……」

納得した。あの人が出向いてこなかったのにはやはり理由があった。

「エクレアに乳を与えておけ。お袋のことだ。しばらく離さんぞ?」

「こんな馬上で?」

見世物になれと言われている気がしてフレアは流石に柳眉を逆立てる。

「マントで隠す。後はどうにかしろ」

「……エクレアが寝てるんだけど?」

「頑張れ」

「もう」

マントに包まれフレアは軽く我が子を揺する。

起きる気配は無いが、自分の子供の肝の太さを信じて服の胸元を緩めた。

ゆっくりと近づけるとエクレアが鼻を動かし、目を瞑ったままで吸い寄せられるように咥える。

本当に誰に似たのか不安を覚えつつ……フレアはそっと相手に背中を預けた。

「どうした?」

「そうね」

師であるアイルローゼ以上に失敗ばかりを繰り返した自分が、今こうして我が子を抱いている。

子供の父親である相手に背中を預けてだ。

「たぶん今の私は幸せなんだなって少し思っただけ」

「そうか」

彼女の言葉に苦笑し、ハーフレンは手綱を緩める。

どうせ屋敷に近づけばあの母親のことだ、何かを感じ取って暴れることは止めるだろう。

そう無責任な直感を信じて……ハーフレンもまた家族の時間を少しだけ優先した。

ユニバンス王国・王都貴族区内

「のはっ!」

「本当にしぶとい!」

何度叩いても起き上がる化け物にスィークは全身で呼吸を整える。

もう正直倒れてしまいそうだ。体力は底を尽き気力だけで立っている。

ただ相手はまだ動く。吐血しながら動いている。本当に化け物だ。

「どうして……エクレアちゃんが待っているのよ……」

もう数えるのを止めた相手への一撃は、確実に死に至るはずの物だった。

それを食らい動く化け物に流石のスィークもお手上げ状態だ。

一晩ぐらいなら『お城に呼ばれて』で誤魔化せた。

昨夜は『帰るのが遅れている』で誤魔化そうとした。だが明け方に自分が騙されていると気付いた前王妃は、孫の捜索に向かおうとしたのだ。

屋敷の外に出すわけにはいかない存在をスィークを中心としたメイドたちが必死に食い止める。

時が経過するにつれ1人また1人と戦う者を失いながらも、どうにか必死に食い止め続けた。だがもう限界だ。

追い打ちでスィークは強烈な一撃を放った。

頭部に普通なら頭蓋骨が粉砕するであろう一撃を受けた前王妃ラインリアが、ピクピクと痙攣している。そう痙攣しながら、決して死ぬ気配など見せない。むしろ起き上がろうとして地面に爪を立てている。

「エクレアちゃんがっ!」

顔を上げて化け物が吠えた。

スィークは自分の顔の前に短剣を構え、こうなれば相手の頭部を切り落とすと決めた。目の前の化け物ならそれでも生き続ける気配がある。何より勝手に首を繋げそうな気さえする。

ギュッと短剣を握りしめたスィークは、突如鼻を動かしあらぬ方向を見つめるラインリアの後頭部を見た。

一応全力で殴り飛ばしておく。

「ぬお~! 目の前がチカチカとする~!」

頭を押さえて化け物が転がり回る。

普通なら頭部が損壊するほどの一撃を食らってだ。

「ってスィーク!」

痛がっていたのは一瞬で、ラインリアはほっと掛け声一発で起き上がった。

「エクレアちゃんが戻って来るみたいだからお屋敷を急いで掃除して頂戴」

「……」

ポンと顔の前で手を叩き笑う相手にスィークは片膝を着く。

「私はお風呂と着替えを済ませて……あ~。エクレアちゃん。待ってるわ~」

ゴボゴボと血を吐きながらラインリアは浴場へと足を向ける。

その姿を見送ったスィークは、両膝を地面について声を上げた。

「動ける者は掃除をしなさい」

その命令を発し、流石の無敵な前メイド長も目を閉じ意識を失った。

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