軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

寝たらお姉ちゃんの好きにさせる

ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸

「あら?」

玄関前を掃除していたメイドはそれに気づいた。

猫ほどの大きさのリスが玉乗りをしながらやって来る。

器用なその姿に振るっていた箒を止め、メイドはつい見入ってしまう。

この屋敷の末妹であり、愛らしい少女であるポーラのペットが帰って来たのだ。

「ポーラ様も?」

慌ててメイドは辺りを見渡す。

けれどあの愛らしい小柄なメイド姿は見当たらない。

ガクッと肩を落とし、メイドはため息を吐いた。

こんな酷い話はない。

リスが帰って来てもその飼い主が戻ってこないのはイジメでしかない。

絶望の余りにメイドはその場で膝を着いていた。

それほどにも悲しいことなのだ。

屋敷で働くメイドたちは2つの派閥に分かれている。

女主人であるノイエ派と、彼女の義妹であるポーラ派にだ。

どちらも愛らしい女性だから、メイドたちは自然と二手に分かれ……どちらが愛らしいかで日々言い争っている。

他家では味わえない好待遇を得られるが、この屋敷ではその好待遇よりも2人の女性を愛でられるだけでも十分に幸せになれる。

故に一度就職した者は決して出て行こうとしない。強い団結力でメイドたちも結束しているので、2人に対する裏切り行為などもっての外だ。

何なら自分たちで裏切者が居ないか調査し、身の潔白を証明することも辞さない。

ただ最近例外として1人のメイドが加わった。

前メイド長である人物の強い推薦で強制的に加わった人物はあの鉄のメイドと呼ばれたメイド長だった人物の秘蔵の弟子だ。名をミネルバと言う。

最初メイドたちはミネルバを警戒したが、彼女は迷うことなくポーラ派に属しさらにポーラを生涯の主人と宣言し、彼女の為なら死することも恐れないと明言した。

ポーラ派は彼女を長として更なる結束を深めた。

そしてミネルバはその優秀さからノイエ派とも事を荒立てずに仲を取り持ち、メイドたちを纏める人物となった。

実質彼女がドラグナイト家のメイドを支配することとなったのだ。

けれど本人はあくまで2番手を自負している。

1番は主人でもある小さなメイド……ポーラなのだ。

故にドラグナイト家のメイドにとってポーラの存在は特別なのだ。

『なんでやねん』

「えっ?」

声がしてメイドが振り返ると、そこには緑色の球体が居た。

『なんでやねん』

「手紙ですか?」

線のようにしか見えない切れ込みに手紙が突き刺さっている。

咥えているようにも見えるが、メイドはそれを錯覚だと判断した。

手紙を手に取り書かれた文字を確認する。『ミネルバさんへ』と書かれていた。

「これは……」

ジッと見つめて確認する。

残念なことに筆跡からしてポーラの物ではない。

一瞬でやる気を無くしたメイドだが、もしかしたら中身がと気づいた。

「急いでミネルバ様に」

慌てて屋敷の中に戻るメイドを見送り……リスとロボは宝玉を押して移動を開始した。

リスの案内で夫婦の寝室へと窓を開けて突入し、宝玉を専用の置き場である座布団の上に並べる。

『なんでやねん』

仕事を終えてリスは寝床にしている木の籠に飛び込み、ロボは部屋の隅に移動し待機モードに移行した。

ユニバンス王国・王都地下隠し通路

「ノイエ……もう少しゆっくり……」

「はい」

姉の命令にノイエが足取りを変える。

何をどうしたらそんな動きが出来るのかと思うが、ゴツゴツとした足場の上をアイススケートの感覚でノイエが滑って行く。

背負われているアイルローゼは術式の魔女の面影もない。もう完全に荷物扱いだ。

「先生。次は?」

「右」

「はい」

先行するメイド……フレアさんはエクレアを抱えた状態ではあるが、アイルローゼの指示に従い迷うことなく歩いて行く。

時折爪先で足元を叩くのは、強化魔法で足元のトラップのスイッチを固めているからだ。

何かズルい。チートだ。

そのおかげで僕らは安全にこの隠し通路を進んでいる。

上級貴族で王家とも仲の良いフレアさんですら知らなかったこの通路は、王城から蜘蛛の巣の様に王都の地下に広がっているそうだ。

何でも王城に向かう通路は罠だらけで超ハードプレイの大冒険になるらしい。

ただ王城から王都へ進む道は罠が発動しない仕掛けだとか、アイルローゼが呆れながら言っていた。

何故そんな通路や罠の存在を彼女が知っているのかと言うと、それはアイルローゼが魔女だからだ。

彼女は王都の色々な場所を勝手に調査している。具体的に言うと王都の古い歴史書で怪しいと目を付けた場所は勝手に調べたそうだ。

理由は聞くまでもない。何かが眠っているかもしれないと言う好奇心からだ。

調査の結果、地下通路を発見したそうだ。

その他の調査結果は……口を閉ざして何も言わなかった。

絶対に何かを発見しているはずだが、彼女が言わないのであれば知り様がない。

その通路を使い僕らはまず叔母様の屋敷から逃げ出し、貴族地区のある場所に存在する古井戸の姿をした入り口から突入したのだ。

フレアさんを拉致したのはメイドとしての技術と強化魔法の使い手としての腕を買ってだ。彼女のおかげで足元に仕込んである罠のスイッチを強化魔法で固定し回避しまくった。

フレアさんからすれば貰い事故のような2泊3日だったかもしれないが、アイルローゼと色々な会話が出来たということでそれほど怒ってはいない。

問題は帰ってからラインリア義母さんが大暴れしないかを心配していた。エクレアと2泊3日の間引き離されたあの人が怒り狂っているはずだと。

そう言われても僕的にはあの義母さんはエクレアじゃなくても子供を与えておけばそこまで狂わないと思うんだけど……と言ってみたら、フレアさんが心底呆れて見せた。

何でもあの義母さんはエクレアと言う孫を得てから暴走が止まらなくなったらしい。

自分の姿を見せても問題無いとか勝手に言い出し、エクレアを愛でている。それに現在あの屋敷にはエクレア以外に乳飲み子が居ないのも原因らしい。義母さんの愛情を向ける先がエクレアのみなのだ。

僕はその言葉に納得はしなかったが、言っていたフレアさんの方が突然怯えだして辺りを見渡しだした。

何故震えるのかと思ったが、何でも『ラインリア様が追いかけて来そうで……』と言う。

流石にそこまで暴走するわけないと信じているが、そこまで孫馬鹿だとしたら今後はエクレアをあの人から引き離す行為は避けることとしよう。

「ノイエ」

「はい」

「揺らさないで」

「はい」

姉の我が儘にノイエはただ応じるだけだ。

妹に荷物の様に背負われて情けない姉に目を向けていたら、アイルローゼが視線に気づいて物凄く凶悪な目つきで睨んできた。

ふむ。完全にお怒りである。

だがしいて言いたい。あれは全て僕が悪いのかと?

昨日の朝の件はノイエの暴走だ。

僕が電撃系の魔法で伸びているところを強襲した彼女が、一度出て行ったと思ったらアイルローゼを抱えて戻って来た。そして僕に言うのだ。『お姉ちゃんは満足してない』と。

あれほど痛がっていたアイルローゼとの連戦はと思ったが、ノイエが姉を押さえ込んで脅迫して来た。あれは間違いなく脅迫だ。

『お姉ちゃんを満足させないならアルグ様が寝るまでする。寝たらお姉ちゃんの好きにさせる』と。

枯渇する恐怖から僕はノイエの言葉に従った。

嫌がる先生に無理矢理だ。あれはあれで新しい何が僕の中で芽生えそうになった。

どんどん僕の性癖が狂っていく気がするよ。

そして昨日の夜からアイルローゼは僕を睨んでくる。

昨夜はフレアさんと一緒に寝て……僕ら夫婦でエクレアのお世話をした。

若干ノイエがエクレアに恐怖を抱いていたようだが、夜泣きは仕方ない。赤ちゃんは泣くのが仕事だから好きなだけ泣かせれば良い。そうすれば疲れてぐっすり眠るのだ。

おかげで寝不足のまま僕らは地下室を出た。

理由は……流石に上の女子寮の人々が僕らの存在を怪しんだからだ。

毎日確実に子供の泣き声が響き渡り、食事が減って行くのだ。恐怖でしかない。

女子寮の方には後日何らかの方法でお詫びをしよう。

「先生。次は?」

「左に曲がって真っすぐ」

「分かりました」

僕を睨んだままの先生が確実に指示を出した。

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