作品タイトル不明
弟子への愛情なんだろうな
ユニバンス王国・王都王城内
「ポーラさまぁ~」
「放すです~! 今日の仕事が出来ないです~!」
ジタバタと暴れる少女のような存在を引きずり歩くメイド。
一瞬視線を向けた者たちはメイドの痛ましい姿に眉を顰め、ついで彼女が引きずっている存在に目を向け……二度見して確認を終えてから驚愕する。
メイドが片足を掴んで引きずっている存在はこの国の現王妃だった。
「ポーラさまぁ~」
「うにゃ~! 聞く耳を持ってないです~! 会話のできる人物を呼んで欲しいです~!」
引きずられながらも王妃はことのほか元気だ。
そもそも彼女は普段から結構な勢いでぞんざいな扱いを受けているが怪我をしたという話は聞かない。転んで顔面から床と衝突しようが額と鼻の頭を赤くするくらいだ。
「放せ~です~!」
ただ若干引きずられることに飽きたのか、王妃としての発言としてはどうかと思う口調で吠えていた。
「声が良く響くので見つけやすかったです。王妃様」
「レイザです~!」
「はい。ちなみにこれはお土産です」
「げふっ!」
至る所を革製のカバーで補修したメイド服を纏う長身のメイドは、引きずられている王妃のお腹の上に今回の仕事先で手に入れたお土産を乗せた。
布製の袋に詰まっているのは旅先で得た絵本だ。まだユニバンスに流れて来ていない共和国で販売されている物だから珍しいはずだ。
絵本に関しては文句などは言わせない。
「それとミネルバ様」
「ポーラさまぁ~」
心ここに非ずと言った様子のメイドに対し、レイザと呼ばれた長身のメイドは懐から預かって来た手紙を取り出そうとする。
生憎と片腕を革製のカバーで覆い吊っているので動かせず、もう片方の腕も動作が鈍くだいぶ怪しいので所作がゆっくりした物になる。
「お屋敷から貴女宛てにお手紙が届けられています」
「ポーラさま?」
「生憎とドラグナイト家御当主様からの物らしいですが」
「……」
ここまで人とは絶望するものだと言う見本をレイザは見た。
少しでも指で突っつけば死んでしまうのではないかと思わせるほどの落胆ぶりだ。
「ですがもしかしたら中身が貴女の望むっ」
一瞬で手の中から手紙が消えた。
流石のレイザもメイド長スィークの秘蔵の弟子たる人物の本気には目が追い付かない。
掻っ攫った手紙を開封したミネルバは、それを一気に読んだ。
「どうでしたか?」
読み終えて手紙をその手から落とし、ミネルバは何故かエプロンの裏側から包丁を取り出してフラフラと歩いて行く。
その姿を見送ったレイザは、床に落ちている手紙を手にして中身を読む。
要約すると、ポーラと呼ばれるあの小さなメイドはしばらくグローディア王女様の元に出向き屋敷の掃除などをしてから戻って来るとか。
確かにこの事実を知ればあのミネルバの落胆ぶりが良く分かる。
次いで『国王陛下に言っといて。ただ休みたいだけなんで追い回さないで欲しいって。そろそろノイエがドラゴン退治をしたがっているから屋敷に戻りますし、戻って1日程度休んだらちゃんとお城に行きますんで』と言うふざけた文章が飛び込んできた。
どうもあの御仁は緊張感と言う物が無いらしいと、レイザは深く納得した。
「王妃様?」
「お腹……なんか色々なあれが下から出ちゃうです~」
「それは掃除が大変なのでお止めください」
「だったらこの荷物を退けて欲しいです~!」
「全く……今回は任務で忙しいから買い物など難しいと言ったのに貴女が我が儘を言うから」
「謝るです~。発言を撤回してちゃんと謝罪するです~」
「まあ良いでしょう」
動く方の腕で袋を掴み持ち上げる。
が、グリッと肘から何かが砕けて王妃のお腹の上にまた袋は戻った。先ほどよりも勢い良くだ。
「何かお尻の方でピリッとしたです~!」
「その齢でお漏らしとは情けない」
「今のは絶対に不可抗力です~!」
泣き叫ぶ王妃にため息を吐き、レイザはこちらの様子を伺っているメイドたちに救いを求める。
もう完全に両腕が壊れてしまったらしい。
「お漏らし王妃様」
「何か言葉に悪意しか感じないです~!」
「これは失礼。久しぶりの実戦でどうもまだ気が荒んでいるらしく……何よりここまで壊されてしまった自分の不甲斐なさもあって王妃様を玩具にしたくなっただけです」
「なるほどです。って納得するか~です~!」
プリプリと怒る王妃のスカートの中身を確認したメイドが、安どの表情を浮かべる。
「どうやらお漏らしは回避したみたいですね」
「だからピリッとしただけと言ったはずです~!」
「そうでした」
うっかりその部分を聞き流していたレイザは、王妃の顔に向かってミネルバ宛の手紙を落とす。
「私は王妃です~! 偉いんです~!」
「ただの事故です。王妃様」
「嘲笑された感じがしたです~!」
「気のせいです。王妃様。はっ」
「今、絶対に笑ったです~!」
またジタバタと床の上を転げ回り、顔に置かれた手紙を読んだ王妃キャミリーはそのままの勢いで立ち上がった。
「シュニット様の元に向かうです。お土産は私たちの私室に運んでおくです」
「はい」
「たぶんアルグスタおにーちゃんの捜索は打ち切りになるので、お城の手の空いているメイドさんたちは捜索に向かっていた人たちの夕飯作りの手伝いに回って欲しいです」
「はい」
素早く控えていたメイドたちに指示を飛ばし、キャミリーは自分の護衛である長身のメイドに目を向けた。
「その様子だと護衛は無理そうです~」
「はい。ですからしばらくミネルバ様に」
「却下です!」
体全体を使い全力で王妃がその案を却下してしまった。
「任務の方は無事に終わったんです?」
「はい」
「実験の方は、です?」
「成功しましたが、ある意味で失敗しました。結果としてこの状態です」
「です~」
頬に手を当てて王妃は可愛らしく首を傾げる。
「分かったです。今回の私への迷惑料としてアルグスタおにーちゃんに話を通すです~」
「そうして頂けると助かります」
「任せるです~」
ポンと薄すぎる自分の胸を叩いてキャミリーは安請け合いした。
「ならばまずはシュニット様の元にです~」
長身のメイドを引き連れ……王妃は元気よく駆けだした。
ユニバンス王国・王都郊外共同墓地
「あら?」
主人である人物の手を借り馬から降りたフレアは、それを見つけ目を丸くする。
訪れる予定だったお墓は……白い雪で覆われているように見えたのだ。
近づけばその白さが全て花だと分かる。
よくもここまで集めたと思うほどに白い花がお墓に飾り付けられていた。
「何だと思う?」
「アルグの馬鹿の大暴走とノイエの怪力と」
馬を木に繋いでやって来た巨躯の主人は、呆れながらメイドの質問に対し答えとなる言葉を続ける。
「お前たちの師である人物の優しさなんだろうな」
「ええ。私もそう思う」
亡き2人の弟子の墓を埋め尽くすほどの白い花などそう簡単に集めることは難しい。けれど資金力においてこの国で有数のドラグナイト家が本気を見せれば赤子の手をひねる程度に造作もないことだ。
それにドラゴンスレイヤーである彼女は、どんなに山と積まれた花束でも1回で運べることだろう。
「でもこれって」
墓の前に膝を着いてフレアは添えられている花を1つ手に取る。
「1つ1つ飾られているわ」
「ああ。だからお前の師匠の弟子への愛情なんだろうな」
やれやれと頭を掻いて……ハーフレンはメイドに運んで来た花束を渡す。
「もう少し買ってくるか?」
「このままで良い」
受け取った花束をフレアはそっと白い花で飾られた場所に置く。
浮き上がるように赤い花が映えて見えた。
「やっぱり先生の色は良く目立つわ」
「そうだな」
2人で手を合わせ……ハーフレンはしばらくフレアを1人にさせた。
きっと旧友と語らう時間を欲しているだろうと思っての行動だ。
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