軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アルグスタの馬鹿

「ししょう」

「何よ?」

フラスコの中で尻を掻く……もう色々とその姿に諦めた少女は何となく手にしたガラクタを拾い上げた。

まだ真新しい作り掛けの良く分からない物体だ。バネと革のベルトで作られている不思議な物体だ。

「これは?」

「それ? 超戦士養成ギプスよ」

「……」

「それを纏って修行すると、バネの力で動きが制御されその効果が何倍にもなる予定で作ってたんだけど……バネが硬すぎて身につけたら最後、全く体が動かせなくなるのよね」

「そうですか」

何となく理解できた。

ただ飽きっぽい相手の性格を少女は良く理解していた。

「これ。あたらしいですね」

「そうね」

「ししょうはいつもどこでどうぐをつくってるんですか?」

「適当にその辺で」

「そうですか」

あっさりと興味を失う弟子の様子に、師匠としての威厳に不安を感じた女性が慌てて振り返る。

「もちろん私の秘密工房よ。そこで作ってるのよ」

「そうですか」

「……どこにあるか興味湧かないの?」

「どこですか?」

幼子と会話するような慈愛に満ちた表情を浮かべ、少女は女性に問うた。

「ふふふ……実はあの術式の魔女が魔法学院に秘密の地下室を作っていたのよ! その存在を知った私はその場所で新しい魔道具の開発に勤しんでいるのよ!」

「すごいです。ししょうはりっぱです」

「ま~ね。貴女も私の凄さを理解してきたようね」

「はい」

掃除の邪魔をされない程度に相手との会話をしながら少女はゴミを片付ける。

そもそも自分の体を使って好き勝手に動き回る師である。その活動の一端を見ている少女としては全部では無いがそれなりに把握している。

今質問したのも沈黙が長いと師である相手が何か余計なことをし始めるから、それを回避するための予防線でしかない。

「ししょう」

「何よ?」

「ししょうはてんさいですね」

「ま~ね~」

横になりながら踏ん反り返って胸を張る師匠に対し、弟子である少女はこれで時間が稼げたと理解して掃除に没頭した。

ユニバンス王国・王都魔法学院女子寮地下

「負けられない」

「静かに」

「何故出ない」

「ノイエ様は出産してませんから」

「出産」

Tシャツに下着姿のノイエが小さく首を傾げる。もう完全に寝間着姿とも言えるラフさだ。

対するフレアさんはメイド姿でエクレアを抱いている。『離しませんから』と言いたげなほどにガッチリと自分の娘を抱きしめている。

「ふぁっ」

「っ!」

エクレアが小さく声を上げるとノイエが驚いて動きを止めた。

アホ毛を奇麗な『!』マークにさせている。

執着する割には、エクレアのリアクションにビックリしまくっている。

未知との遭遇な感じで、見ててとても微笑ましい。

「エクレア? お眠ですか?」

「あ~」

「そうですか」

柔らかく笑いフレアさんがこちらに頭を下げて自分が掃除したペッドームへと入って行く。

ただ僕と先生はその背後を影のように従うノイエの姿を見た。

無音で親子の後を追いかけて消えた。

「ノイエ様?」

「私にもできる」

「そう言ってさっきエクレアの首を絞めてましたよね?」

「大丈夫。この子は強い」

「……ノイエ様?」

物騒な気配を感じ僕が慌てて開いたままの扉を閉じると、先生が早口で言葉を綴って閉じた扉を指鉄砲で狙い撃った。

「これでノイエ以外では開かないわ」

「マジで?」

軽く扉のノブを捻って……足をかけて全力で引っ張るけれども開かない。

流石アイルローゼだ。鍵の魔法とかマニアックな物も覚えている。

「弟子~」

「ほい?」

呼ばれて机に戻ると、何故か先生がワイングラスを取り出していた。

グラスがあっても……ワインもあるのね。まあ付き合いましょう。

グラスにワインを注いで挨拶もなく飲みだす。

おつまみはフレアさんが準備してくれたチーズだ。

お掃除と料理要員として拉致られてきたフレアさんは……現在メイドだから扱い方としては間違っていない。

ただエクレアを狙うノイエのおかげで集中できなかったっぽいけど。

「先生ってワインとか飲むんですね」

「何よ?」

「いいえ。何か飲まない印象が」

「よく言われたわ」

自覚があるのか先生が苦笑した。

「でも水代わりに口にするでしょう?」

「ですね。この世界に来てビックリしたのは、井戸水もろ過しないと飲めないことですからね」

「それが普通だと思うわよ」

そうですか? 日本は湧き水とか結構普通に飲めちゃう国でしたので。

グラスを両手で持つ先生が少しずつ中身を飲んでいく。

その様子は何処か可愛らしくて……知らない間に先生も丸くなったものだ。

しばらく黙ってお互いにワインを飲み続ける。

グラスが空になったら注ぎ足して……ワイン瓶が一本空になった。

「あら? もう終わり?」

「あれ?」

フレアさんが隠し通路を使って女子寮の厨房から盗んできたワインは確か3本のはず。

視線を巡らせるとソファーの方に置かれていた。

普段先生って椅子に腰かけることが多いから、ソファーが置かれていることに驚く。フレアさんが置いたのかな?

ふらりと立ち上がった先生がソファーに向かい歩き出す。

その足取りは何処か軽くて不安定だ。見てて危ないので僕も立ち上がって先生の後を追う。

「何よ? 私が転ぶとでも?」

「先生って運動の方は全くですから」

「あん?」

怒った様子の彼女が手を伸ばして来て僕の手を掴むとそのままソファーへと倒れ込む。

引っ張られた格好の僕は咄嗟に先生の上に乗らない様に手足で踏ん張る。

危なかったわ~。もう少しで先生の平らな胸を押し潰すところでしたよ。

危機を回避したので離れようとしたら、先生の手が僕の首に回って来た。

絞めますか? そのままギュッとしちゃいますか?

「ねえ弟子」

「はい?」

「……私って絶対につまらない女だと思うの」

それはどんな意味でしょうか? 面白いつまらないで言うのなら先生は結構面白い部類だと思いますよ? 何よりとってもスリリングですしね。

「色気は無いし」

「でも奇麗ですよ?」

「……胸は無いし」

「あの馬鹿従姉よりかはあります」

「…………完璧を演じて可愛く無いし」

「最近の先生は凄く可愛いですけど?」

先生がプルプルと震えだした。

「何で全部肯定するのよ! 貴女は相手が女だったら誰でも良いの!」

顔を真っ赤にした先生に怒鳴られた。

「誰でも良いって言うのは違いますよ。少なくとも先生とは出会ってからの積み重ねがあって色々と知ってますから。先生が信じられる人だって知ってますから」

「……もう嫌!」

今度は泣きだして僕のことを叩いて来た。

「何でそう全部受け入れるのよ! 私は殺人を犯した咎人よ! 自分の弟子を殺したのよ!」

「……はい。でも大切な人が死ぬ姿を見たと言うなら僕にも経験はありますから」

僕が殺したわけではないけれど、衰弱し死んでいく母さんの姿をずっと見ていた。

日に日に細くなっていく母さんを見ていたあれはある意味で人殺しよりも酷い行為かもしれないと思う時がある。

見るに耐えられなかった。本当に辛かった。

「大切な人を殺したことは辛いと思います。その死にざまを見ていたことも辛かったと思います。だって先生はノイエの姉たちの中で群を抜いて優しい人ですからね」

叩いてくる相手に手を伸ばしてギュッと抱きしめる。

優しく頭を撫でてあげたら……先生がすすり泣くような声を発した。

「……ねえ馬鹿」

「はい」

しばらくして先生が口を開いた。

「私は何もできないし、何も分からないし……他の子たちみたいにきっと満足なんてさせてあげられないと思う。それでも私が望んだら抱いてくれるの?」

「はい。先生が相手なら喜んで」

と言うか何をしなくても僕は頑張ってしまうと思います。

「ならお願い。でも……」

「はい?」

「痛いのは嫌なの。それに声とか聞かれたくない」

注文の多い先生だな。

「だったら。ほいっ!」

「ちょっと!」

ソファーに居る先生を抱え上げる。

お姫様抱っこからの……目的地は浴場だ。

「もう」

少し怒りながら先生が僕の首に腕を回して抱き着い来る。

「ねえ弟子」

「はい?」

「……今から『先生』って呼ばないで」

「はい?」

どんな縛りプレイですか?

ただ先生は僕の胸に顔を押し付けて来る。

「……今から私が貴方に教えられるわけだから」

「ならアイルローゼも『弟子』は禁止で」

「……アルグスタの馬鹿」

浴場の扉を開け、2人で入ると……閉じた扉にアイルローゼが魔法を使った。

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