軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

……煩い

ユニバンス王国・北西部新領地領主屋敷

「ホリーは……無事なことを祈ろう」

もうそう言うしかない。

ファシーも最近は少し丸くなってから壮絶に色々と狂ってしまったから大丈夫だろう。

『何が?』と問われると答えに困るがファシーの本質は優しい子のはずだ。たぶんきっと。

「で、魔眼の中は?」

「ん~。みんな疲れて眠ってる感じ?」

「それなのに君は外に出て来たのね」

「だって~。みんな休んでてつまらないしね。何より出れなかったのに急に出れたんだよね」

「はい?」

レニーラの言葉に何か引っかかるものが?

「だから出れなかったの。いつも座って『出ろ~』と念じてたんだけど出れなくて、だから椅子にしてずっと座ってたら突然凄い音がしてね、何となく『出れないかな~』と思ったら出れた」

「もう少し詳しく説明してください」

「え~。したよ? したよね?」

「……まあ分かりはしたわ」

「流石アイルローゼだ。どこかのお馬鹿君とは違うね」

「その喧嘩買った」

「ふぇ? ふなぁ~!」

レニーラの顔を両手で強制的に変顔にする。

今僕が遊んでいるのはレニーラの顔です。レニーラの顔なのです。

色々と顔の形を抱えて遊んでいると、コツコツと先生が机を叩いて……機嫌が悪そうなので大人しく椅子へと戻る。

「とりあえずホリーは五体満足なのね?」

「うん。自分の髪の毛で首を絞められて気絶してるか、軽く死んでるかもしれないけど無事だね」

死んでいるのが無事って言葉がちょっと良く分からないです。

「まあそれなら些細な問題ね」

些細なんだ。どうも僕には魔眼内の魔眼言葉が理解できません。

「ならノイエが元に戻ったか確認したいから、レニーラは戻ってくれるかしら?」

「え~! 折角外に出たんだからっ」

ガシッとアイルローゼがレニーラの首を掴んだ。

「ノイエの体ならこれで魔法を使っても無事だと思うの。ちょっと実験しても良いかしら?」

「……ふぁ~い。戻ります」

相手の本気を感じ取りレニーラが大人しくなった。

その証拠にノイエから色が抜けて……無事に元に戻った。

「ノイエ」

「……」

しかし返事が無い。どこか遠くを見つめて、

ガラガラガラガラ……

何か盛大に鉄の缶をひっくり返したような音がした。

間違いなくノイエの方からはっきりと。

「ノイエ?」

流石に色々と心配になったのか、アイルローゼも椅子から立ち上がろうとして途中で動きを止めた。

まだ両足の筋肉痛が抜け切っていないらしい。

そんなに非力なのに帝都であんなに大暴れするから……まあ少なくとも僕らを救おうとしての無理だから直接文句は言えないけれど。

「ノイエ大丈夫?」

立ち上がろうとした姿勢からまた椅子に戻り、若干涙目で震えている先生に変わり僕がノイエに声をかける。

クルっとアホ毛を回したノイエがこっちを見た。

「やる」

「突然何ごと!」

「やると言った」

「言ったね。確かに」

今度はノイエが立ち上がろうとして動きを止める。

何ごとかと思えば先生の手がノイエの首を掴んだままだ。

「ノイエ」

「はい」

ポロっと痛みで涙を零したのであろうアイルローゼが、妹に対し厳しい視線を向ける。

「もう少し恥じらいを持ちなさい」

「……」

そうです先生。もう少し貴女の妹にはっきりと告げてください。

「そう『したい』『やりたい』なんて、夫が相手でも言うべき時と場所を考えるものよ。分かる?」

「……煩い」

「えっ?」

その言葉にアイルローゼが凍り付いた。

まさかの妹の反抗を想定していなかった感じだ。気持ちは分かる。僕も内心でビックリしている。

「お姉ちゃんの嘘つき」

「なっ何を言っているの? ノイエ?」

首を掴まれたままで見つめて来る妹の視線にアイルローゼがあからさまに動揺している。

「お姉ちゃんの嘘つき」

「何を……」

ノイエの首から手を放し、アイルローゼがオロオロとしだす。

反抗期の妹にどう対処したらいいのか分からずに怯える姉のようだ。

「お姉ちゃん……もっと凄いことを」

「言わないでノイエ~!」

突然ヒステリックに叫んだアイルローゼが全力でノイエに飛びつく。

何かしらの言葉のスイッチだったのか、先生がここまで慌てるのも珍しい。

ただし机がひっくり返り、回避が間に合った僕を除いて……床に倒れ込んだ2人の上から紅茶が。

「……」

借り受けたバスタブにアイルローゼはその身を沈める。

もう色々と限界だ。自分の中の何かが吹き飛んで壊れてしまいそうだ。

「お姉ちゃん」

「……」

体を洗った妹がバスタブに近づいて来るが、アイルローゼは鼻から下を湯の中に入れて押し黙る。

反応のない姉を気にせず、ノイエは足を動かしバスタブを跨いで湯の中に入った。

2人で入るには狭いが、身を寄せ合えば難しくはない。

ノイエは何処か嬉しそうにアホ毛を振って自分の姉を正面から抱きしめた。

「お姉ちゃん」

「……ばりおっ」

湯の中から聞こえてきた言葉にノイエは小さく頷く。

「ここが苦しそう」

伸びて来た手がアイルローゼの胸の中央を軽く押す。

確かに苦しい場所だった。

それを嫌というほど痛感しているアイルローゼとしては、何も答えられない。

「どうして嘘吐くの?」

「……」

「嘘はダメ。カミューが怒る」

ノイエの姉の1人であったカミューは妹の嘘を見抜く天才だった。

どんなに完璧に嘘をついても姉は気づいて叱られた。

「カミューが居れば嘘は吐けない」

「あれは……」

湯の中から顔を上げアイルローゼは何とも言えない表情で妹を見た。

あれはノイエが全て悪いのだ。

食べかすを口の周りにつけて『食べてない』と嘘をつけば……カミューだって気づいて怒る。

「どうして嘘吐くの?」

「嘘なんて」

「またここが苦しそう」

ポンと妹に押された箇所が、確かにギュッとしてアイルローゼは苦しく感じた。

「……好きなの」

「はい」

「たぶん好きなの」

「はい」

「でも色々と怖いの」

「はい」

一度口を開いたらアイルローゼの言葉が止まらない。

溜まりに溜まった胸の内を解放したかのように……妹に言葉を向ける。

「私はノイエより胸なんて小さいし」

「はい」

「そこは頷くところじゃないでしょ?」

「嘘はダメ」

「この妹はっ!」

妹の胸を掴んでみたら……ウルッと涙が込み上がって来た。

「私はこの体が嫌いなの。凹凸が少ないから」

「金髪のお姉ちゃんより大きい」

「あれと比べないで。あれとは」

アイルローゼとしては妹の比較対象に文句を言いたくなった。

自分は確かに小さいが、小さいのであって無いわけではない。ただあっちはその……比較される方が色々と切なくなる。

「少なくともシュシュぐらい欲しかったのよ」

「でも大丈夫」

「何がよ?」

スッと手を伸ばしてきた妹が自分の両眼を掌で隠した。

「こうすれば平気」

「何が?」

「あとはアルグ様がしてくれる」

「何を!」

「……子作り?」

「はっきりと言うようになったわね! この子はっ!」

妹を捕まえ、アイルローゼはギュッと抱きしめる。

「……怖いの」

呟かれた姉の言葉にノイエは何も答えない。

「私は馬鹿な魔女で、人をたくさん殺したの」

「はい」

「そんな人殺しが幸せになるとか……幸せになろうとすることが凄くいけないことに思えて……怖いの」

「はい」

抱きしめられるがまま、ノイエはただ頷いていた。

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