軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

チューチューしてる

「弟子!」

「……はい」

ビシッと向けられた指に、フラスコの中のポーラはビクッと震えた。

「頑張っている師匠を讃えなさい!」

「……ししょうはすごいです」

「もっとよ!」

「ほんとうにすごいです。かっこいいです」

「ちが~う!」

回答を間違えたらしい。

「私は女よ! 女性よ! ウーマンよ! それなのにカッコイイとか違うでしょ!」

「……」

「何よ? その残念な生き物を見るような目は?」

「……ししょう。あきずにそうじしてください」

「い~や~だ~!」

ゴロゴロと床を転がり、師と呼んだ女性が子供のように駄々をこねる。

「飽きたのよ! 私は掃除とか大っ嫌いなのよ!」

「ならししょうがかわりにこっちに」

「囚われるのは掃除よりも嫌いなのよ!」

「……」

「何よ? その我が儘な子供を見つめるような目はっ!」

「ならそれで」

「あん?」

パチッと指を鳴らすと、フラスコの中にプルンとした液体が姿を現し少女を襲う。

「ふみゃ~!」

「今度は体内に入らない様に改良してみたわ」

「だからそっちは! 絶対にダメです!」

「……必死になり過ぎて舌足らずの口調が崩れているわよ?」

「ふなぁ~!」

もう一度指を鳴らすと、フラスコの中で少女が横たわり息絶え絶えな姿を見せる。

「と言うか、もうその舌足らずの幼い振りを止めたら?」

「……ちがいます。これがふつうです」

どうにか体を起こして少女が本気で怒り出す。

「にいさまはこのほうがかわいいといいます!」

「まああれはロリっ気があるけど……でも貴女が幼く振る舞うから手を出さないのかもよ?」

「……違います。兄様は私のことを大切に思っているんです」

「ちょっと図星かなって思って舌足らずを止めてみたでしょう?」

「違います。師匠しか居ないからです」

ペタンと女の子座りをしたポーラがプンプンと怒る。

「そうやって自分を偽っていると、どこかの魔女みたいに後々面倒なことになるわよ?」

「大丈夫です。私は最初から兄様のことが好きで、ちゃんと意志表示していますから」

「そうね。少なくともあの魔女よりかはマシね」

積み上げたガラクタに寄りかかり、女性は少女を見つめる。

腕を組み、怒った様子で顔を背ける少女の様子は愛らしい。

「でもその口調は何かイラっとするわね」

「師匠?」

「元に戻れ~」

虚空に文字を綴りそれを押して魔法とする。

女性が放った魔法はフラスコの中で逃げ場のない少女を直撃した。

内容は強制的に舌足らずにする魔法だ。

「……ひどいです」

「小悪魔的な弟子とか可愛くないのよ」

「ししょうよりかわいいです」

「何ですって?」

弟子の言葉にイラっとした女性は、寄りかかっていたガラクタをお尻で押して……ガラガラドゴンとガラクタが発したとは思えない音を聞いた。

「あっ!」

「……ししょう?」

「大丈夫よ。大丈夫」

若干声が裏返りつつも、女性は慌ててガラクタを拾い集めだした。

ユニバンス王国・北西部新領地領主屋敷

「先生。今……はい?」

頬を赤くする先生に対して開いた口が、言葉が疑問形になった。

なんか今、ドゴンと鈍い音がノイエの方から。

どうやら空耳ではなく先生に同じ音が届いたのか、2人して慌ててノイエを見る。

咥えていたパンが消えていた。

一息でパンを食べたらドゴンと音がするのか? そんな訳はない。

視線を向けたらノイエの両足が持ち上がっていた。

腹筋だけで両足の足の裏を天井に向けて持ち上げている。腰も浮いて凄いな。

「ほっ」

「「ほっ?」」

元気な声を上げてノイエが起き上がった。

アクション俳優が見せるような動きで足を前に投げ出しつつ頭の横に置いた手で体を起こし……奇麗に立ち上がった。

朱色の髪をしたノイエがだ。

「ちょっと旦那君? 誰がノイエに悪影響ですって?」

「……何でレニーラ?」

予想に反してのレニーラだった。

いつものパターンだと『お姉ちゃん頑張ったでしょ?』と言ってホリーが出て来てこんにちは。アルグちゃん一緒に遊びましょうと……ベッドに運ばれ玩具にされるはずなのに。

「ホリーは?」

「あん? 何よ? そんなに巨乳が良いの?」

「何でそうなる? 何よりノイエの体だと等しくみんな同じ乳だ」

「あはは~。確かにね~」

クルクル回ってレニーラがポーズを決めた。

「何かファシーが襲い掛かってるんだよね」

「はい?」

「だから戻って来たファシーが緑色した顔のままでホリーに襲い掛かり、魔力が残り少ないホリーは抵抗空しく……」

ごめん。その顔色の部分はツッコミ待ちなのか? いつから魔眼の中はゾンビ系の世界に変化したんだ?

だが大人の僕はここではツッコまない。

「何でファシーがホリーを?」

そっちの方が重要だ。

基本人見知りなファシーがホリーとの接点とか少なそうだしね。

「そこの魔女が命じたっぽいよ」

「……先生?」

レニーラの指摘に、椅子に腰かけていた先生が全力で顔を背けていた。

「先生?」

「……何よ?」

「ファシーに何を言ったの?」

「……ただの事実よ」

「事実?」

諦めた様子で先生がこちらを向く。

レニーラとなって色を変えたノイエは、突然のことで驚愕しているメイドさんに紅茶を頼むと椅子を拾ってきてこっちに来た。

というかまた後始末が……ノイエの姉たちはもう少し自重を覚えて欲しいです。

「ホリーが何の説明もしないでファシーを外に出したのよ。貴方たちの命が危ないっていう部分を伏せてね」

それは間違いなくあの猫が暴れるはずだ。

「きっと外に出てもすぐに戻ることになるから、ホリーはファシーへの説明を面倒臭がったと思うわ。でもそれで仮にファシーが暴走して外で笑いだしていたら?」

「目も当てられない大惨事?」

「そうね。下手をしたら全滅よ」

若干先生が視線を逸らしてそんなことを言って来た。

《あれの魔法は魔力の付与もあったからファシーの魔力が無くっても逃げられたけれど》

僅かに感じた罪悪感からアイルローゼは相手から視線をずらした。

「だから戻ったらホリーに罰を与えるように告げたのよ。当然でしょう?」

一つ間違えば全滅だったのだ。

彼もそれを理解しているのか、半笑いで頭を掻いた。

「それでレニーラ」

「何よ。アイルローゼ」

「ファシーは何を?」

一応ユニバンスに戻っているが安全が確保されているわけではない。

この屋敷の当主も元は帝国の人間なのだから。

だからホリーの知恵を失う訳にはいかない。

「うん。背後からホリーに飛びついて、その髪の毛で首を絞めて」

普通だ。それぐらいならまだよくある範囲だ。

「酸欠で倒れたホリーに追い打ちをかけてた」

「具体的には?」

笑いだして魔法を使っていたらバラバラになっている可能性もある。腕や足なら問題無いが頭部を破壊されていたら……宝玉ならば問題は無い。ただノイエの体を使って外に出るのは無理かもしれない。

アイルローゼは自分の実力不足を痛感させられた。これが刻印の魔女であれば、きっとバラバラでもドロドロの状態でも外に出れたはずだ。

「ん~。こうグイっとホリーの上着を開けさせてパクって」

「「パクっ?」」

うんうんと頷くレニーラは何処か生温かな目をした。

「乳飲み子のようにチューチューしてる」

「「……」」

余りの言葉にアルグスタとアイルローゼは言葉を失った。

「もう止め、ふぐっ」

首に巻かれている自分の髪が絞まりホリーは軽く意識を飛ばす。

胸に張り付いている猫が剥がれない。それどころか吸って来る。吸いついて来る。

何時間、何十時間と……その大きな胸を堪能したファシーはようやく口を放した。

「ちが、う」

立ち上がった猫の頭がクルンと巡り、気配を隠すように座っていた歌姫を見る。

猫的には何かが違う気がしたのだ。

大きくて吸い応えはあるけど何か違うのだと。

足元に転がっているホリーは惨状は余りに酷い。

暴漢されて打ち捨てられた死体のようだ。

「やっぱり、こっち」

「……良いわよ」

若干震えながらセシリーンは両手を広げて猫が飛び込んでくるのを待ち構える。

確かに彼の言う通りだ。

笑顔で猫の気まぐれを受け入れるのが一番の安全なのだ。

逆らってはいけない。

逆らえばホリーのようになってしまうから。

「にゃ~ん」

甘えた声を発し、猫がトコトコと歩いて来た。

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