軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ウチは宿ではないのだがな?

ユニバンス王国・王都王城内

「まだアルグスタたちは発見できないのか?」

「「……」」

招集された大臣や将軍たちに対し、国王であるシュニットの言葉は厳しく耳を打つ。

緊急に集められた者たちは皆直立し、一番高い場所に居る国王は腰を下ろしている玉座のひじ掛けを強く握りしめていた。

あの問題児な夫婦は、当初帝都で大魔法でも使用し吹き飛ばしたと陰で囁かれていたが……流石に5日も経過し、それでも姿を現さないと不安の方が先走りしだした。

怒りが先行していた国王ですら日が経つごと冷静さを取り戻し、別の意味で慌てて行方不明の夫婦の捜索を急がせる。

あの夫婦はこの国で欠くことのできないドラゴンスレイヤーなのだ。その2人が居なくなればこの国のドラゴン対策は根底から見直さなければいけなくなる。

正直に言えば何を何処から手を付ければ良いのかすら分からない。

それほどまでこの国はドラゴンスレイヤーに依存する対策ばかり執っていたのだ。

「大将軍」

「はっ」

呼ばれたシュゼーレは一歩前に出て説明を始める。

各所に派遣した騎士たちの報告では現時点であの夫婦は発見されていない。

一番隠れて良そうな北部の別荘に人影はなく、屋敷にも戻ってきていない。

こうなると本格的に帝都で一緒に……と不安が広まる。

「近衛団長」

「はっ」

次に呼ばれた近衛団長は、密偵の長も兼ねている。

この国で一二を争う諜報力を持つが、そんな彼らでも発見には至っていない。

「宮廷魔術師」

「はっ」

魔法の力でも捜索しているがどれも不発に終わっている。

こうなると本格的に……そう思った時にそれが来た。

「緊急につきご無礼を」

「許す」

駆け込んできた騎士の声に上段から国王が許しを与える。

ガシャガシャと鎧を鳴らし駆けて来た騎士は、玉座に座る国王を前に跪いた。

「北西部新領地、領主キシャーラ様よりご報告です」

ザワッと一瞬場が騒めいた。

帝都を失っても帝国にはまだ多くの兵が居る。

その兵が今現在のユニバンスに押し寄せて来たのかと不安に駆られたのだ。

「報告は何と」

「はい。帝都より避難して来たアルグスタ様たち御一同が」

『帝都より避難』という一文にその場に安どの空気が広まる。

「避難して来た3日目の早朝に何も告げずどこかへ消えてしまったそうです。残された書き置きには『僕には休養と休暇と休息が必要だと思うんだ』とだけ」

「「……」」

安どの空気が広まっていた場に……言いようの無い空気が広がる。

人はそれを殺意などと呼ぶらしい。

ユニバンス王国・王都下町

「ウチは宿ではないのだがな?」

「あは~。大半は怪我人ですよ?」

僕の言葉にキルイーツの先生が苦々しい表情を浮かべる。

「煩いわよキルイーツ。貴方が私にどれほどの恩があるのかもう忘れたのかしら?」

天敵らしい存在にキルイーツ先生の額に青筋が浮かんだ。

「……せめてあの口煩い魔女だけはどこかに捨てて来て欲しかったがな」

「煩いわよ。この覗き魔」

何か反論しかけたキルイーツ先生が……握りしめた拳を降ろして病室を出て行く。

アイルローゼにどれほどの弱みを握られているのか知らないが、キルイーツさんの背中が一気に老け込んだように見えたよ。

「面白いです」

「……」

その声に視線を向けると、医者見習いのナーファが楽しそうにノイエの口に果実を運んでいる。

飲むように食べて行くノイエを見ているのは確かに楽しいが、その楽しさをその齢で理解するとは中々の人物だ。きっと将来大物になるだろう。

「こっちにも酒を」

「お前は寝てろ」

「ひどっ」

元祖売れ残りの小さい方はようやく両腕の痺れが取れたらしくてもう好き勝手している。ただ食事を買いに行かせる必要があるので解放はしていない。

「食事を買いに行く時に好きなだけ買って来い」

「うっひょ~い」

喜んでいる馬鹿は無視してもう1つのベッドを見る。

眠らされているのはリリアンナさんだ。今はだいぶ落ち着いた感じで寝ている。

ただ昨夜は大変だった。

ここに術式の魔女が居たことを存在していない神様に感謝したほどだ。

彼女が慣れた様子でリリアンナさんに魔法を使ってくれる。睡眠魔法を的確に使ってくれたのでキルイーツ先生の治療中、リリアンナさんが激痛で暴れることは無かった。

治療を終えたキルイーツさんが言うには、しばらく治療が続くらしい。と言うかもっと早くに連れてこいと叱られ、彼女がリグの従姉だと知ると説教が長々と追加された。

納得がいかない。僕らが帝都に行ってなければ彼女は死んでいたかもしれないのにだ。

しばらく治療と経過観察が必要と言うことでこの治療院で預かってもらうことになった。

ついでにベッドを借りて僕らも全員休息を取っている。

ノイエが回復したら次は別荘に逃走予定だ。

意外と根が真面目なキシャーラのオッサンが陛下に報告することは目に見えて明らかだ。ので、僕らはノイエの魔力に任せて転移魔法を使用した。人はこれを逃走とも言う。

僕らの大脱出は無事に成功したのだが……何故か転移先は王都の北にある別荘ではなく下町のキルイーツ先生の治療院の傍だった。

『何の間違い?』と先生を見れば、彼女は全力で首を傾げていたのでどうやら不可抗力だったらしい。

王都に逃げては来たのだからまあ問題は無いはずだ。

「アルグスタ様」

「ほい?」

ナーファの声に顔を向けると、彼女は空になった木製の籠を僕に見せて来た。

「無くなりました」

「早いな」

「面白くて」

犯人はこの中に居ます。と言うか君だ。

「強制的に予定変更です。ミシュ~」

「へい」

売れ残りがニョキっと湧いて来た。

「ここに小銭がある。ワインは好きに買え。だが分かっているな?」

「果実を買って来ます」

「行って来い!」

窓の外に指を向けたらミシュが全力で走って行った。

今日で二度目だがまあ問題はあるまい。

ミシュが言うには王都内の密偵の多くは出払っているらしい。

何でも僕らが行方不明だとかで全力で捜索中とか。つまり行方不明を継続しろと言う何かしらのお告げだろう。

ミシュを見送ったついでに外に目を向けると、リスとロボが近所の子供たちの玩具になっていた。

ニクことリスの方は、女の子たちに抱きかかえられてクシャクシャとかき混ぜられるように撫でられている。あれはあれでハーレムだ。男だったら羨ましい展開だ。

ロボことロボの方は、男の子たちに蹴られて転がっている。『きっとこれがこの世界のサッカーの始まりになるのだろう』と、心の中でナレーションを入れておいた。

ちなみにオーガさんは置いて来た。魔力が足らない。何より今回もギリギリだった。

アイルローゼも転移と治療の手伝いで、魔力の出し過ぎてベッドの上の住人だし……ノイエは早くご飯と言いたげに口をパクパクしている。

ある意味で平和だ。

「弟子~」

「はいはい」

ベッドの上で足を伸ばして座っている先生に呼ばれた。

両足の痛みはもうだいぶ回復したらしい。

というか僕の見立ては間違っていた。インドア過ぎた先生はしばらくぶりに歩き回った結果、両足の筋などを痛めていたとか。

キルイーツ先生が『少しは歩け。運動をしろ』と彼女に警告していた。ただアイルローゼも負けていない。『だったら女風呂でも覗きに行くほどの体力でもつけるわ』とカウンターが。

怒った素振りを見せるキルイーツ先生もどこか嬉しそうで……それを見ているだけで2人の力関係が分かって僕はほっこりとしてしまった。

「で、先生。何でしょう?」

「困ったわ」

「はい?」

何故か先生が自分の手を見てから僕に視線を向けた。

「転移魔法に使う魔道具がもう無いの」

「はい?」

そう言えば今回使用していたのは全て使い捨ての物で……。

「で、この周りを何かしらの勢力が囲っているみたいなんだけど?」

「はい?」

つまり逃げられないと?

ノイエはガス欠。アイルローゼもガス欠。ミシュは外出中。

「ちょっとファシーでも出て来てみようか?」

最終手段でノイエに顔を向けたら、彼女はパクパクを止めてスヤスヤと寝ていた。

どうやら僕らの逃走は終わりらしい。

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