軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お空はお肉だよ

「殺す。絶対に殺す。腸を引きずり出して、それで首を絞めて殺す」

「おっ落ち着いてグローディアっ!」

魔眼の中枢に突入しようとする元王女の腰にしがみ付いてレニーラは必死に踏ん張り続ける。

確かにこの王女様だったグローディアの胸は薄い。薄いがほのかに膨らみはある。地平線で言えば石程度に、水平線で言えば波程度に膨らみはある。誤差の範囲にも見える程度だけれど。

「放してレニーラ。あの2人を自分の生き血で溺死させてやるんだから」

「だから処刑の方法が恐ろしすぎるから!」

伊達に殺戮姫とは呼ばれていない。

言ったことを実行しようものなら看板に偽りなしだろう。

必死に踏ん張り頑張るレニーラの目には、フワフワと蠢いているホリーの髪の毛が見える。

このままでは間違いなくあの殺人鬼の間合いに侵入してしまう。

完璧主義のホリーからすれば今回の展開は不本意だらけのはずだ。絶対に機嫌が悪い。

自分が計画したことがこうもひっくり返され続けているのだ。これでグローディアが邪魔でもしようものなら自分ごと首を刎ねられかねない。そう自分ごと。

自分が相手を守る必要が無いことに気づいたレニーラは、迷わず手を放した。

突然抑えを失ったグローディアは前のめりで魔眼の中心へと駆けこんでいく。

青い何かがグローディアの首を上から下へとすり抜けた。

「本当にやったよ」

「ん?」

ここに来てようやく気が付いたらしいホリーが振り返る。

何故か自分の傍で元王女が寝ていた。不思議な寝相だ。首から頭が分かれている。

「こんなところで寝ないでくれるかしら? グローディア?」

「うわっ! ホリー」

「何よ?」

呆れ果てる様子のレニーラにホリーは面倒臭そうに視線を向けた。

「たった今、自分で首を刎ねた相手にそこまで言う?」

「誰が? 私が?」

心底『心外な』と言いたげな表情でホリーは死んでいるグローディアを見た。

奇麗に首を断たれている。死因は間違いなくこれだろう。

「……犯人は誰よ?」

「だからホリーだって」

「冗談でしょ?」

「その言葉が冗談にしか聞こえない」

全身を脱力させてレニーラは渋々転がっているグローディアの元へ向かう。

作戦は成功だ。たぶん必要な戦力であればホリーはその首を断たなかったはずだ。

けれど彼女は迷うことなくグローディアの首を断った。本人曰く無意識らしいが。そして無意識のままにイライラを解消したホリーはこうして会話できる程度に精神を回復した。

つまり自分が殺される可能性はグッと減ったのだ。

内心で安堵するレニーラは、慣れた手つきでグローディアの頭部を掴むと傷口を確認する。

本当にこの殺人鬼の殺しは鮮やかだ。迷いが一切なく奇麗に肉と骨が断たれている。

人を殺すことにここまで躊躇しない……何より無意識でそれをする人間をレニーラは他に知らない。

「奇麗に斬れてるから、繋げれば半日で話せるぐらいになるかな?」

「知らないわよ。経験者でしょう?」

「あ~。何かあの頃よりも回復が早いんだよね」

「そうね。あまり面白くは無いけど」

「そうなの?」

倒れているグローディアの体を引っ張り壁にもたれ掛かるように座らせ、レニーラはそっと頭部を首の上に置いた。感覚で微調整をし、グローディアが着ているドレスを裂いて包帯を作るとそれを首に巻いて……どうせ死んでいるからきつく巻いても問題無しと判断し実行する。

「くっ」

「ん?」

相手の肩に足を乗せ、ギューッと包帯を絞めていたレニーラは手を緩めた。

「くる……しい、わよ」

「うわぁ~! もう生き返った」

ゆっくりと目を動かしたグローディアにレニーラは反射的に足を動かす。

ゴロッと……床にグローディアの頭部が転がり落ちた。

「死んでるよね?」

一度離れてから再度近づき指で突っつく。

反応はない。ただの生首のようだ。

「今の何だったんだろう?」

気持ち悪く思いながらまた頭部を掴んでレニーラは首の上に置く。

位置を微調整して……

「けら、ない……でよ」

「やっぱり動いた!」

間違いない。生きている。

慌てて離れ、レニーラはここで最高の攻撃力を持つ殺人鬼に対し恐怖の余り抱き着いた。

「あっ柔らかい」

全力で抱き着いたらレニーラの顔が柔らかな感触に包まれた。

安心できる柔らかさだ。心地の良さを覚えるほどにだ。

「触らないでくれる? その首を捩じ切るわよ?」

「失礼しましたっ!」

自分の首に触れた感触に恐怖しレニーラは慌てて離れる。

やれやれと肩を竦めたホリーは、自分の胸元を軽く払ってから壁にもたれる元王女を見た。

「回復力が強まっている?」

グローディアの様子からそう推測するしかない。

腕を組み顎に手を当てたホリーは僅かに考えると苦笑した。

「そう言う仕組みなのね」

本当にあの刻印の魔女は『嘘つきだ』と再確認をした。

「異世界人ってどうしてこう個性的なのかしらね?」

鼻で笑いホリーは視線を外へと向ける。

ようやくローロムが仕事を開始し始めた。

ブロイドワン帝国・帝都上空

舞い上がった空は変わりない。いつも通りの世界だ。

ただ下に目を向ければ初めて見る街並みだ。

円が幾重にも連なり拡張したような……平地と言う立地を最大限に活用して広がりを見せる年輪のような作りの都だ。

美しいとさえ思う。

きっとこの都を作った人は上空から見られることなどは想像していなかったはずだ。

それでも帝国の都は美しく作られている。

決められた大きさと高さで建物が建築されているのか、一定の間隔で奇麗に立ち並ぶ街並みが本当に素晴らしい。

ここで自分たちの家族が過ごしていたと思うと胸の奥がジーンっとなる。

《ありがとうノイエ。私の夢は叶ったよ》

いつだったか……そうあの施設でのことだ。

ただ空ばかり見上げ寝っ転がっていた自分の傍にやって来た我が儘娘。何かにつけて自分を枕にしようとする少女を捕まえては投げ飛ばし排除していた日々だった。

『どうして空を見てるの?』

『どうしていつも寝ているの?』

『どうしてそんなに辛そうなの?』

遠慮など知らないのか質問ばかりしてきては、また枕にしようとしてくる。

何日も抵抗しいたが……段々と面倒になり止めた。

『この枕低い』

『この枕硬い』

『横になったら枕が消える』

甘やかしたら本当に遠慮がない。

もう少し努力して抵抗を続け……少女は不満を言わなくなった。

『お空が好きなの?』

慣れ親しんだ頃に言われた言葉がそれだ。

『分からない』

『どうして?』

『ならノイエは何が好き?』

『お肉とお姉ちゃんたち』

『そっか。なら野菜は嫌い?』

『好きじゃない。でもお肉が無いから食べる』

『そうだね。私の空もそれと同じかな』

それしか無かったから空を飛んでいた。

自分にはその魔法しかなかったから、その生き方しかなかったから……すると小さな手が頭の上に置かれた。

少女の小さな手だ。

『大丈夫だよお姉ちゃん』

『何が?』

『お空はお肉だよ』

『……凄く怖いんだけど?』

『でもお肉だよ。お姉ちゃんのお肉だよ』

つまり少女はこう言いたいのだ。『空は私の大好きな場所だ』と。

苦笑し、遂にローロムは認めた。

自分にはそれしか無かったが、そのたった一つが決して嫌いでは無かったことを。

ただ空を飛べなくなってこうして腐っているだけだと。

『また飛べるかな?』

『飛べるよ』

『そっか』

少女が言うとその気になる。

『その時はノイエと一緒に飛んであげる』

『……落とさないでね』

とりあえず捕まえて投げ飛ばしておいた。

「願いは叶ったよ。ノイエ」

自分は空に居る。両親の故郷の空に居る。

「ここからは本意じゃないけど……一緒に飛ぼう。ノイエっ!」

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