軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

グローディアの胸と同じ

「分かったよ。分かりましたよ。飛べばいいんでしょ? 飛べばっ!」

若干涙目で開き直るローロムに誰も同情などしない。

唯一その性格から弁護に回るであろう歌姫は、ホリーから伝えられた侵攻ルートの再確認を頭の中で実施している都合沈黙したままだ。

「でも愚痴ぐらい言っても良いでしょう? アイルローゼの依頼が貴女たちの追加で3倍になっているのよ! 3倍も!」

ただ両親の故郷である帝国を見たかった、その空を飛んでみたかったローロムからすれば、この強欲の化身である者たちの命令は素直に頷けない。

何よりローロムはそれほど魔道具に興味がない。

魔道具と関わる機会が少なかったから、その利便性を良く知らないのだ。

「さっきから寝言を言ってる? ローロム。寝ているの?」

「えっ?」

襲撃して立ち去った魔女の拘束から解放されたホリーが、立った状態で腕を組み……冷ややかに相手を見下していた。

その気配に何かを察した全員が壁による。何故ならワラワラと有名な殺人鬼の長い髪が生き物のように蠢いているからだ。

返事を間違えれば殺される……少なくも戻って来てから殺されると、ローロムは察した。

「これはノイエとアルグちゃんの助けになるのよ? それを邪魔するなら殺す。蘇る度に殺す。刻んで少しでも形を成す度に刻む」

「心から全力でこの依頼に臨みたいと思いますっ!」

深々と頭を下げてローロムはやる気を見せた。

何より相手は本気だ。それがホリーと言う女だ。

彼女は狂っている。狂っているから殺人鬼なのだ。

「ならさっさと外に出て回収作業をしてきてくれるかしら? 数が多いのでしょう?」

「畏まりましたっ!」

反射的に床から生えている椅子のような存在に抱き着いてローロムは心の底から望む。

『外に出して欲しい』と。

ブロイドワン帝国・帝都帝宮内

「怖かった~!」

「のはっ!」

「んっ!」

不意打ちの咆哮に驚いて強めに握ったら、何故かシュシュがビクビクと震えた。

驚いた。ちょびっと心臓が止まるかと思ったよ。

視線を巡らせるとノイエが黄緑色に染まっていた。

で、空に向かっての咆哮からの一時停止をしていた。

何しているの? ノイエの中の人たちは。

「んんっ! ……あれ~? その色はローロム?」

僕の腕の中に居るシュシュが居住まいを正し、色の変わったノイエに質問をした。

彼女があのローロムか。

確かノーロープバンジーの世界に連れて行ってくれる人だよね?

「シュシュ~!」

咆哮からの再起動を果たしたローロムが、今度はシュシュを見て……目を点にした。

「昼間っからそう言うのはどうかと思うんだけど?」

非難がましくシュシュと僕の交互に視線を向けて来た。

「揺れていたら動きを止められたんだぞ。不可抗力だぞ」

「揺れるとシュシュは言葉が間延びするからね」

「止めると延びないんだ。知らなかった」

何かを悟ったようにローロムが僅かに目を開く。

2人の会話に僕も参戦する。

「で、君がローロム?」

「ええ。初めまして」

軽くスカートを摘まんで彼女が挨拶して来た。

一応それなりに礼儀作法を身につけているらしい。

ああ。彼女の家族は中級貴族に仕えていたんだっけ。納得だ。

「で、何で外に出て来たの?」

彼女が勝手に出て来るとかはたぶんない。きっと何かしらの使命を得ているはずだ。

当初は僕の逃走用に準備していると聞いたが、先生が出て来た時点で僕らの負けはたぶんない。

「あの強欲魔女の依頼」

クイクイッとローロムが顎で指し示す。

どうやら強欲魔女と言うのはアイルローゼのことらしい。

アイルローゼってそんなに欲深いって印象はないんだけどな。

「この帝都にある名立たる魔道具の回収を命じられたのよ」

「やっぱりだ~」

腕の中でシュシュがモゾモゾと蠢く。

自分の予想が当たって喜んでいる。

「で、狙いは帝都の宝石?」

「それもよ」

「それもって……他には?」

「沢山よ」

何故か抱きしめているシュシュの体が熱くなって来た。

「ねえねえ。イプロキシの網も?」

「……ホリーに聞いてよ」

「欲しいの!」

どうどう。落ち着けシュシュよ。

ローロムに迫って行こうとするシュシュをガッチリと抑え込む。

「だからホリーに……」

不意にローロムが口を閉じて、何故かため息を吐いた。

「ホリーが追加するそうよ。良かったわね」

「ホリー! ありがとうだぞ~」

腕の中でシュシュが大喜びだ。

ここまで喜ぶとはシュシュも欲しい物があったということか。

「問題はそれらの魔道具って隠されているんじゃないの?」

「ええ。そうよ」

「で、どうやって見つける……納得」

ローロムがツンツンと自分の耳を指さすことで理解した。

あの歌姫さんの耳も絶対にチートの類だと思います。それかバグじゃないの?

「何でも魔道具って存在しているだけでも音がするとか」

「あの歌姫さんの耳って狂っていると思います」

「……泣くわよ? 彼女?」

「ウチのお嫁さんは僕の暴言を笑顔で受け流し、その仕返しをベッドの上で3倍返しして来る人たちばかりですから」

「何それ怖い」

ローロムが引いた。

だがそれが事実だ。僕の言葉に間違いはない。

我が家のお嫁さんでベッドの上で豹変しないのはシュシュぐらいだ。

最初からアクセル全開で貪欲な人たちも居ますけどね。

「でもそれって魔道具の在処かが分かるだけで何が何処にあるのって運任せだよね?」

「……一応展示されている魔道具もあるらしいわ」

展示されていない物もあるんですね。

「ここで使われている物は?」

「それはアイルローゼの担当よ。私はここに無い物を回収して来るのが仕事だから」

「で、それって火事場泥棒じゃないの?」

僕の辞書を用いると、その言葉でしかローロムが行おうとしていることを表現できません。

「グローディアが言うには『保護』だそうよ」

「あの水平線胴体はっ」

胸が平らだからって使って良い言葉と悪い言葉があることを知らないのか?

これは保護ではない。決して保護ではないぞ。

「……ちなみにどうして水平線なの? 地平線でも良い気がするんだけど?」

ローロムって実は良い人なのかもしれないな。

「ローロムさんや」

「はい?」

「地平線だと山とかが視界に入るかもしれないでしょう? 僕は嘘が嫌いだからね。だから水平線で良いんだよ」

「……それだと島とかは?」

決まっています。

「島と山なら島の方が排除しやすそうだから」

「……」

どうしてローロムさん。そんな奇怪な生物に向けるような目をしているの?

「僕は思う。先生の力をして島と山なら島の方が吹き飛ばすのが簡単そうでしょう?」

「アイルローゼなら~どっちも同じだぞ~」

「……」

だからローロムさん。その目は何ですか? その目は?

「でも島の方が吹き飛べばまっ平らだ」

「だぞ~」

「つまりグローディアの胸と同じ」

「だぞ~」

「……」

何故悟りを得たような目をしているの? ローロムさん。

「で、1つ聞いても良い?」

「何かね?」

ローロムが口を開いて大変穏やかな声を発した。

「そこまでグローディアのことを悪く言ったら後で大変だと思うのだけど?」

「チッチッチッ」

真面目か。

「僕は嘘を言えないだけなのです!」

だってあれが平らなのは事実だろう?

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