軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

やっぱり泥棒じゃん

ブロイドワン帝国・帝都帝宮内

ウチのお嫁さんは本当に唐突で困ります。

空を自由に飛べるなら……ノイエなら自力で出来そうな気もしなくはない。

「ノイエって飛べないの?」

「旦那様?」

僕の疑問にシュシュがツッコんできた。

気持ちは分かるだろう? だってノイエだよ?

「飛べない」

良かった。実は質問してから『飛べる』とか言われたらどうしようかと不安に……

「少ししか」

「出来るんかいっ!」

思わずハリセンを出そうとしたよ。

自分の言葉の意味を理解していないのか、ノイエは小さく首を傾げると……猫のように気ままに顔を動かし空を見る。

空を見上げだしたノイエは、まだ本調子じゃないのかボーっとしている。

アホ毛も普段より寝たままだ。位置が低い。

「お姉ちゃんが」

「はい?」

「赤い人が」

先生ですか?

「欲しい物があるって」

自然と僕とシュシュの視線がアイルローゼに向けられる。

相手との距離を保ちつつ時折散発的に攻撃し合うのみだ。

素人目に見て何をしているのか分からないが……お互いに何かを狙っている感じか?

ただノイエの言葉からするに、大きいのを狙っているのはあの人間辞めちゃってる人で、先生はノイエに何かしらの命令を下しているような……余裕だな。

「それで先生は何だって?」

ノイエに命令しても無意味でしょうに……覚えられないんだから。

「空から……ピカピカした……きっと飾られてて……何?」

「こっちのセリフですっ!」

我慢だ我慢。ノイエにハリセンを見せると『叩いて』とじゃれて来る。

お嫁さんはパシパシと叩く夫でありたくないのだよ。

「……長い」

「諦めたっ!」

ノイエに長文はダメ~!

どうしようかと悩み、こんな時は姉である人物にすがる。

「シュシュ」

「あ~。きっと~中の~人たちに~伝えて~いるんだぞ~」

「フワフワ禁止」

「ひどっ」

立ち上がり余裕が出来たことでシュシュがフワフワを再開した。

が、会話が間延びするので抱きしめてフワるのを無理矢理止める。

「で、何を伝えているの?」

「……旦那ちゃんは知らないのかだぞ?」

「何を?」

「……この帝国の帝都には有名な魔道具があるんだぞ」

「ほほう」

それは知らないね。だって僕には興味のない話ですから。

ノイエが欲するのであれば全力で強奪プランを考えるが、ノイエは基本物に対しての執着が薄い。自分から望んで得た物は寝室のベッドぐらいだ。

「たぶんアイルローゼはそれを狙っているんだぞ」

「ふ~ん。で何なのそれ?」

「……旦那さん」

「はい?」

何故かシュシュが心底呆れた表情を作り出す。

「胸を揉まないで欲しいんだぞ」

「事故です」

だってそこに山があれば登りたくなるのと一緒で、掌の中に胸があれば揉みたくなるのです。

偶然掴んだのであって故意ではありません。揉んだのは故意ですが。

「まあ良いけど……」

手を止めるからその全てを悟って諦めた声音は止めて。

「アイルローゼの狙いは『帝都の宝石』と呼ばれる大きな石だぞ」

「ていとのほーせき?」

残念ながら僕の記憶にそのような物は存在していません。

「だぞ~。大きさは人の……旦那様の頭ほどで、七色に輝いている石なんだぞ」

「ほほう」

「特徴としては、魔力を貯められるんだぞ」

「……はい?」

今何と言いましたか?

「だから魔力を貯蔵できるんだぞ」

「貯蔵だけ?」

「もちろん取りだせるぞ。ただ貯蔵より取り出す方が難しくて帝国でもその石を扱える人物がほとんどいないって言われているぞ」

「ふ~ん」

「噂だとその石を自在に使える魔法使いが帝国だと宮廷魔術師になれるとかで、みんな必死に勉強するそうだぞ」

「へ~」

シュシュの説明で納得した。

つまり先生はそんなお宝をどさくさに紛れて強奪する気らしい。それってつまり火事場泥棒だよね?

「先生の欲深さに引くわ~」

「だぞ~」

『煩い。後で覚えてなさい』

「「……」」

散発的とは言え戦っているのにこっちの会話も聞いている先生にビックリだよ。

「ってそんな便利な物があるならあの人間辞めちゃってる系の馬鹿が使いそうだよね?」

「……察してあげるのが優しさだぞ~」

何が?

「きっと扱えなかったんだぞ。自称魔女だし」

「納得」

何とも言えない気持ちになって僕はシュシュと一緒に残念な自称魔女を見る。

強い力を望んでも、それを扱えないのであれば意味がない。

実力って本当に大切なんだな。

「で、それをノイエに回収させると?」

「だぞ~」

それは良い。何故に空を飛ぶ必要がある?

「空飛ぶ理由は?」

「ん~。良く知らないぞ~」

「使えない解説役だな! 揉むぞ!」

「ぞ~! そんな鷲掴みで……んっ」

中途半端な解説役にお仕置きしていると、何故か先生から絶対零度の視線を向けられたような気がした。

気のせいですっ!

《後で……もうっ!》

一瞬頭の中で馬鹿な弟子へのお仕置きを考えたアイルローゼだったが、“その後”のことに気づいて止めた。ここで弟子に何かしすぎると後になって自分に全て跳ね返って来そうで。

無意識に頬を赤くして若干内股になったアイルローゼは、小さく咳払いをする。

『良い。ローロムに探させて確実に回収して』

命令は一方的だ。

だが“帝都の宝石”は確実に押さえたい。あれがあれば後々色々と役に立つ。

問題はあの宝石は隠し場所が特殊なのだ。

噂では数カ所の置き場を一定の期間で転移し巡っているという。せめてもの救いは転移範囲が帝都内だと言う。

《周回転移をさせている仕組みの方も欲しいけれど》

欲をかいても仕方ない。もしかしたら大型の魔道具の可能性だってある。

『それと……』

何かを企んでいる相手に視線を向けたままでアイルローゼは妹に言葉を飛ばす。

その耳からの情報をすべて聞いて居るであろう歌姫に対しての命令であるが。

「アイルローゼが元通りだね~」

魔眼深部の捜索を終えて戻って来たレニーラは、目を回している歌姫を見て笑う。

知らぬ間に外に出ていたあの魔女が魔女らしく振る舞っていたからだ。

最近はなりを潜め……まあ液体になっていたが、元々の彼女は暴君の1人だった。

自分の命令に従わない者へは魔法を振りかざし無理矢理従わせる。

今にして思えばその厳しい姿勢のおかげで魔眼の中の秩序が保たれていたのだと分かる。

そんな暴君が、久しぶりに暴君していた。

「アイルローゼは帝都の魔道具を全部盗む気なのかな~?」

「知らないわよ」

返事を寄こしたのは立ったままで壁に寄りかかる元王女だ。

その王女様とてアイルローゼの言葉からその意図に気づき……自分が欲しいと思っていた魔道具をこっそりと追加している。

「ちょっと待って! そんなに覚えられないから!」

「覚えるんじゃないの。頭の中に叩き込むのよ」

「無理だからっ!」

ただ暴君が暴君をすれば被害を被る存在が必ず生じる。今回はローロムだ。

運の悪い彼女はホリーに捕まり……襲撃先を叩きこまれている。

傍から見ていると強盗一味の事前打ち合わせにしか見えない。

「とうとうノイエに泥棒をさせるとは……旦那ちゃんが怒らなければ良いけど」

呆れて肩を竦めるレニーラに、グローディアはチラリと視線を向けた。

「何を言ってるの?」

「だって泥棒でしょう?」

「違うわよ」

元王女は小さく鼻で笑った。

「帝都が消滅するから貴重な魔道具の保護をするのよ」

「……分捕って持ち逃げするよね?」

「違うわよ。ユニバンスで一時的に預かるの」

「…………で?」

「帝国が存続するならいずれ返還交渉に応じれば良い。いずれね。でも存続しないのなら……引き取ってあげるしかないわよね?」

「うわ~」

相手の言葉を何となく理解し、レニーラは冷ややかな目を向けた。

「やっぱり泥棒じゃん」

「違うわよ」

薄い胸を張りグローディアは口を開く。

「あくまで保護よ。それで押し切れば良いの」

「そうですか~」

何事も言い切った者の勝ちだとレニーラは再確認した。

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