軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

空を飛びたい

《ふざけるな……》

心の奥底から湧き上がってくる感情に魔女マリスアンは自分を押さえられなくなっていた。

もう許せない。目の前の存在が許せない。

あれが居なければ自分が魔女になれたと思えば思うほどに殺意しか湧いてこない。

《殺してやる……》

自分の身がどうなろうが知ったことではない。

あれを殺せるのならばそれで十分だ。後のことなど今は知らない。

《全てを出し切って……》

自然と笑いだしていた。

マリスアンは自分の口を三日月状にして笑う。

「殺してやる」

ブロイドワン帝国・帝都帝宮内

動き出した自称魔女を見つめ……アイルローゼは萎える心に鞭を打つ。

出来たら本当に帰りたいが、諦めて息を吐く。

「そろそろ終わらせましょうか」

スッと視線を動かしアイルローゼは右手を前へと突き出した。

呼吸をするように魔法語を唱え放つ魔法は1つだ。

「腐海」

静かに放った言葉に変化が生じる。

真っ直ぐ自称魔女に向かい黒い線が生じる。石畳の上を這うように伸びたそれが、ゆっくりと広がり全てを腐らせていく。

終末魔法と呼ばれるアイルローゼが作り出した腐敗魔法だ。

彼女の魔法は進路上の全てを腐らせていく。

木製人形と化した人だったモノや自壊した魔道具の部品を飲み込み全てを腐らせる。

その流れが自称魔女に到着する寸前、マリスアンが動いた。

「爆ぜろ」

マリスアンの背後より蔦が生じ、蔦の先端から木の実が飛び出す。

腐海の先端部分に集中的に木の実が集まり石畳を破壊した。

行き先を失った魔法はその場で進行を止め、後からついて来た腐海の本体が全てを腐らせ……そして魔法の効果が切れる。

様子を見つめていたアイルローゼはクスリと笑う。

「自称魔女が魔法を使わないなんてどうなのかしらね?」

「……」

「それとももう使えないのかしら?」

悠然と佇み笑う術式の魔女に、マリスアンは何も答えない。

ただその口元に三日月の笑みを浮かべたままで自分の腕を動かす。

「爆ぜろ」

また蔦の先端から木の実が放たれた。

しかしそれを黙って見ているアイルローゼではない。

淀みない声が響いて魔法が放たれる。

「切断」

飛んで来た木の実が全て断たれて石畳の上を転がる。

「そんな攻撃で魔女である私を倒せるとでも?」

「……」

マリスアンは何も答えない。

ただ笑い続けているのだ。

「先生が腐海以外を使うのを初めて見たかも」

「ん~。確かに最近は腐海ばかりだぞ~」

だからそう言っている。

君もノイエも気を抜いて観戦モードすぎるだろう?

「昔の先生ってどんな魔法を使ってたの?」

「一般的な物ばかりだぞ~。発動速度を重視した軽い魔法が多かったぞ~」

「納得」

「でも~」

シュシュが僕の肩に頭を預けて来る。

「アイルローゼがあの魔法を使うとは思わなかったぞ~」

「なの?」

「うん。あれはアイルローゼの弟子の魔法だぞ~。確かファシーのお姉ちゃんと思われているミローテの魔法なんだぞ~」

「そっか」

軽くノイエの顎の下をくすぐりながら、シュシュの肩を抱いて引き寄せる。

「先生も少しは吹っ切れたのかな?」

「分からないぞ~」

「どうして?」

「だってアイルローゼは」

クスリとシュシュが笑った。

「弟子に対して優しすぎて甘やかせすぎる悪い先生だったんだぞ~」

「そっか」

「だぞ~」

それでも少しは先生が前を向いて歩いてくれるのならば僕は嬉しいかな。

「で、あの2人の戦いって何をどうしたら終わるのかね?」

「分からないぞ~」

ですよね~?

「まあ見てるだけで良いのなら楽だけどね」

どうせ先生のワンサイドゲームでしょう?

《少しばかり厄介ね》

相手の行動を見てアイルローゼは客観的に自分を見つめる。

魔力はまだ大丈夫だ。残り7割程度はある。

問題は相手だ。魔法を使っていない。

このままだと魔道具に費やしている魔力を考えると面白くない。

出来れば半分は残したい。最悪はノイエが居るから大丈夫だが……念のために保険は欲しい。

『そこの2人。これから魔法を使うのは禁止。魔力を温存なさい』

観戦を決め込んでいる2人に注意を飛ばし、アイルローゼはまた考える。

大魔法を放つ時間を作れれば良いがそれも難しい。腐海とて一方向に放つ簡易版が精いっぱいだ。

《厄介ね。余り本気は出したくないのだけれど……》

シュシュでは無いが余り本気を出したくはない。

彼が折角自分を戦場から遠ざけようと配慮してくれたのだ。それなのに自分が戦場で使えると見せつけてしまっては本末転倒だ。笑い話にもならない。

《嫌だけれども……》

それでも必要ならば全力を振るうことも考えなければいけない。

問題は……時間が分からない。

刻印の魔女が言っていた廃棄物を始末するために降り注ぐと言う消滅魔法がいつやって来るのか分からない。

それが今すぐにでも降り注ごうものなら、ノイエの魔力を使って緊急脱出するしかない。

あの自称魔女の始末は後回しにしても良い。必要なら今すぐ殺しても良い。

ただ結局最終的には魔法が降って来るのだから、この場から逃げるしかない。

《激しい嫌がらせしか感じないのだけど……》

心の内で呆れ果てアイルローゼは深く息を吐いた。

《あれ? つまり……えっ?》

アイルローゼはようやく気付いた。その事実にだ。

結果として確実にこの帝都は灰燼と化す可能性がある。

どんな魔法か知らないが、消滅魔法と言う物だと言うのだから規格外の大魔法に決まっている。

何よりあの魔女は手を抜かない。変な所でとにかく頑張る。

《今日でこの帝都は消え失せるのね》

一度は訪れてみたいと思った場所だ。

歴史は古く観光する場所は多いらしい。そう弟子の1人に聞かされた。

勿体ないと思うがそれは仕方ない。形あるものは全て壊れるのだから。

《全てが壊れる?》

ならば問題は無いはずだ。

『ノイエ』

ずっと彼に抱かれて横になっている妹に声をかける。

やる気が無さそうにフリッと触角のようなひと房の髪を動かした。

『動ける?』

フリフリと髪が左右に動いた。

拒絶しているようにも見える。

『ノイエ?』

ビクッとアホ毛が震えた。

『そろそろ起きないと貴女が大好きだったお勉強を、』

スタッとノイエが立ち上がった。

抱えていたお嫁さんが突然立ち上がった。

ビックリだ。不意打ちだ。驚きが止まらない。

「ノイエ?」

「もぐ」

そっと咥えていたパンを引き抜き、ノイエが軽く肩を鳴らす。

「アルグ様」

「はい?」

僕にパンを押し付けノイエが肩越しにこっちを見た。

「空を飛びたい」

だったらあっちに居る青い猫型ロボに聞いてくれるかな?

きっと空を自由に飛ばせてくれるさ。保証は無いけど。

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