軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

……もう帰りたい

ブロイドワン帝国・帝都帝宮内

《本当にあの2人はお気楽ね》

苦笑にも似た笑みを浮かべアイルローゼは魔道具の乗っ取りを続ける。

全体の3割はこちらの支配下に置いた。残りの敵戦力は5割ぐらいか。残りは部品となり石畳の上に転がっている。

《もう私の勝ちで良いと思うのだけど……相手はそれで納得しないわよね》

納得してくれれば楽だが、目を向けて様子を見ればそれが無理だと理解できる。

自分が自己紹介をしただけで相手は怒りに身を震わせている。

事実自分の腕を掴み激しい憎悪を宿した目で睨みつけている。

別にあの自称魔女に何をしたということはない。

けれど相手が自分のことを激しく恨んでいることをアイルローゼは理解している。

自分が術式の魔女だからだ。

この術式の魔女と言う存在が厄介な所は、アイルローゼの知らない所で勝手に敵を作り出す。

今までにも何度も一方的に術式の魔女を恨み魔法学院にやって来た魔法使いを知っている。抗議や苦情、殺害予告などの手紙など弟子のミローテが勝手に焼いて処分していた。毎日だ。

なんでもこの術式の魔女は、魔法使いたちの前を歩きその道を照らす存在らしい。良くは知らないが周りの国々ではそう称されていた。

勝手極まりない悪口だ。

自分はただ研究を続けたかった。だから頼まれた魔道具を作り続けた。

時には国からの依頼で武器を作り、時には貴族からの依頼で生活用品を作り、時には金持ちの依頼で良く分からない物を作らされた。

自分が優れているというのならば、依頼された魔道具をどうにか注文の品に近づけて作る才能があったことぐらいだ。それだけだ。

真の天才と呼べるのは魔剣を作り出すエウリンカの方だろう。

自分にはあの魔法を真似ることも出来ない。

極めた者と言うのであればシュシュがその代表例だろう。

自分とて簡単……上級ぐらいの封印魔法を使うことはできるが、最上級の物は扱えない。たぶん何年と練習を続ければ扱うことも出来るだろう。けれどアイルローゼはそれを是とはしない。

1つの魔法を極めるのならば、複数の魔法を扱える方を望む。

そっちの方が新魔法を作り出すための基本となりえるからだ。

《それに……》

思えば周りの仲間たちが祝ってくれた。だからあの時は虚勢を張って受け入れたのだが……実際アイルローゼからしてみれば魔女の名は重荷でしかなかった。

自分はどんなに背伸びをしても刻印の魔女の領域にはたどり着けないと分かっていた。

残された歴史書や現存する魔道具などを見れば明らかだ。本物の天才とは彼女のことを言う。

たぶん幸運なことに……そんな人物の魔法を目の前で見る機会を何度も得た。

悔しいことに自分との実力差を知らされる結果になっている。

自分が今まで出した結論に間違いは無かった。やはり彼女の領域には手が届かない。

《分かってるわよ……》

悔しいとは思う。けれど絶望は感じない。

いくら自分が天才と呼ばれていてもアイルローゼは知っていたからだ。

自分以外の天才たちを。何より可愛がっていた妹など才能の塊だった。

比べることが馬鹿らしい。比べたところで何が変わる?

本当に変えたいのであればやることなど1つだ。

どれほど頑張って自分自身を変えられるか……それに尽きるはずなのだ。

その努力を怠り安易な道を選べばどうなるか?

代表例が視線の先に居る。

憎悪まみれの目で睨んでくるあの人間を辞めた弱い存在だ。

《私とあれと……何が違ったのかしらね?》

たぶん向学心で言えば相手の方が何倍も優れているだろう。

自分はただ趣味の人だ。趣味に必要だから学んだだけだ。

しいて言えば物覚えは良い方だが、それだってちゃんと学び覚えれば誰でも知識を蓄えていける。ほんの僅かな優位でしかない。少しすれば追いつかれてしまう程度の優位だ。

自慢するほどのことでもない。

結局のところ違ったところは……環境なのだろうか?

違う。自分の環境とてそんなに良い物でも無かった。なら何が違う?

《生まれ持っての資質よね》

結論としてはそれしか無い。

どんなに環境が良くても、どんなに裕福でも、どんなに恵まれていても……その人間の内側が腐っていればどんな植物とて腐ってしまう。

《ああ。だからあの植物は腐っているのね》

納得した。

「で……そこの腐った植物は、まだ魔道具に頼るのかしら?」

最初から腐った植物がちゃんと育つわけがない。

運悪く生まれ落ちた時からあの植物は腐っていたのだから仕方ない。

だから自分の負けを受け入れられずに足掻こうとしているのだ。

無様で惨めで……そして滑稽でしかない。

「もう飽きたからそろそろ本格的に制圧を始めて良いかしら?」

返事はない。

憎悪にまみれた視線を向けて来るだけだ。

「……そこまで行くと哀れね」

告げてアイルローゼは両腕を広げる。

纏めて魔力を飛ばし大量に魔道具を支配下に置く。

それを数度繰り返せば、戦力差が傾いた。

魔道具の支配数でアイルローゼは相手に勝った。

「これで貴女の優位は消えた。まだ続けるの? 自分の惨めさを晒すだけよ?」

「……」

優しさから告げた言葉に相手が反応した。

ゆっくりと口が開き三日月のような形を作り出す。

この場において笑いだした相手に……アイルローゼは支配した魔道具たちに、支配していない魔道具たちの制圧を命じる。

こんなつまらなく繰り返すだけの作業など早く辞めて別のことをしたい。

出来たら発掘の魔道具……特にプレートなどがあれば嬉しい。それを読み解く時こそ現実を忘れられるのだ。

「……もう帰りたい」

『……もう帰りたい』

何故に?

優位に立つ先生の言葉に僕らは一斉に首を傾げる。

そろそろ『圧倒的じゃないか!』とかバリバリフラグが立ちそうな言葉を発してやろうかとタイミングを計っていたのにだ。

出鼻をくじかないで欲しい。僕が何をした? ただお約束をしようとしただけだ。

「あ~。アイルローゼの悪い癖が出ているぞ~」

「はい?」

悪い癖って何ですか?

「アイルローゼは飽きっぽいんだぞ~」

「シュシュと一緒か」

「……このっ。このっ。このっ」

叩くな叩くな。そして拗ねるな。事実だろうに?

「だからたぶんもう色々と飽きたんだぞ~」

「酷い話もあったもんだ」

どうしてノイエの姉たちはこう個性が強すぎるのだ?

「ノイエさん」

「もぐっ」

「……そろそろそのパンを食べてしまいなさい」

「もごご」

若干パンの位置が下がった。

普段なら一気飲みするはずなのにどうしたノイエ? 君の実力はこんな物じゃないだろう?

「あ~。旦那ちゃん」

「はい?」

「ノイエ……たぶん満腹だぞ」

「はい?」

ノイエの辞書に“満腹”なんて言葉はあったの? 載ってたらそれは誤植じゃない?

「む~」

「これこれノイエさん。そのやる気のないアホ毛攻撃は辞めなさい」

「も~」

「牛かい」

頭を上下に振ってアホ毛で攻撃して来る。

ちょっとイラっとしたからノイエのアホ毛を掴んだら、ビクッ全身を震わせて……ノイエが増々トロトロになってしまった。

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