作品タイトル不明
姉様が凄いです
「ん」
少しだけ相手が動いた気がして確認する。
体を起こしてその美しすぎる顔を覗き込み……色々我慢できずに頬擦りをしてからキスをした。
たっぷりの時間を費やして相手とのキスを堪能し、ようやく『確認』を思い出す。
解く変化は見られない。預けられた時から変わらずに美しいままだ。違う。眠ったままだ。
おかげで全身隈なく隅々まで観察することが出来た。ホクロの数から古い傷痕まで、その全てを網羅し把握している。
きっと寝ている本人よりもその体のことを知っていることだろう。
《あは~。ノイエのお姉さんを独占出来るだなんて~》
また相手の横に横たわり、抱き枕感覚で抱き着く。
至極の時だ。このまま幸せを嚙みしめて死にたい。
相手の頬を舐めながら彼女……ミャンはトロンとした表情で薄く笑う。
《幸せだわ~。本当に幸せだわ~》
幸せを噛みしめ……彼女の発情期はまだまだ終わりそうにない。
ブロイドワン帝国・帝都帝宮内
「だだだだだ旦那様っ! もうそこまで来てるんですけどっ!」
「シュシュ。『ぞ』を忘れてるぞ」
「のぁ~!」
ドームの外まで来ている敵に流石のシュシュも頭を抱えて暴れ出した。
「シュシュさんや。こんな時はひとまず落ち着いて」
「落ち着いて?」
その場に座って横になる。
「……寝るか!」
「現実逃避だぞ~」
足を上げて踏んでくる彼女の攻撃から全力で逃れる。
「シュシュ。女性であるならそうスカートを捲し上げるような行為は避けるべきだと思います」
「なら旦那さんは上の子を叱るべきなんだぞ!」
ドームの上に立つポーラは良いのです。何故かスカートの中身とか足のこととかを触れると僕が自滅しそうな気がするので絶対に触れません。
チラチラとポーラがこっちに視線を向けて来るけどスルーです。
「そろそろ本格的に大問題だな」
「どうしたらそんなに落ち着いていられるんだぞ?」
「決まっているだろう……これはきっと悪い夢なんだよ」
「目を覚ませだぞ~」
シュシュが拳を握りそれで攻撃して来るので目を覚ますことにした。
「うむ。ならば奥の手だな」
「本当にあるのかだぞ? そろそろ私も本気で怒るぞ?」
絶対に怒っているであろうシュシュがそんなことを言ってくる。
「ノイエ~」
「なに」
一応攻撃しているけれどあまり効果を得られていないノイエは、ドームの壁の上の方で座っている。
恐ろしいほどにマイペースなお嫁さんだ。
「まだ僕はノイエの本気を見せて貰っていません」
「……良いの?」
若干その言葉に恐怖を感じるが仕方ない。
「シュシュが守ってくれるって」
「守るぞ~! お姉ちゃんに任せるんだぞ~!」
「……分かった」
スッと立ち上がりノイエはそのまま一歩前へと足を動かす。
飛び石感覚で鎧騎士たちの頭を踏んでドームから離れていく。
「お姉ちゃん」
「何だぞ~!」
振り返ったノイエがクルンとアホ毛を回した。
「アルグ様を守って」
「ほ~いだぞ~」
シュシュの返事を待ってノイエが踏みつけている鎧騎士の顔を……はい?
ズンッと重い衝撃が僕らの体に響いて来た。地震とは違う衝撃波だ。
原因は分かっている。ノイエだ。
そして彼女の一撃を受けた鎧騎士は地面の上に広がる鉄屑と何かしらの液体で作られた染み。
地面の上に戻ったノイエがゆっくりと動き、スローモーションな感じで鎧騎士を殴った。
「はい?」
ズドン! と言う音と襲撃が僕らを襲う。
「……シュシュさんや」
「……旦那ちゃん」
「「あれ、何?」」
互いに目の前の現象が理解できずに……とりあえず抱き合って震える。
ノイエがまだあんな奥の手を持っているとか知らないんですけど!
《師匠。今大丈夫ですか?》
『……もうダメ。おうちに帰ってゴロゴロしたい』
《大丈夫ですね》
容赦のない弟子の声に師である魔女はため息を吐いた。
《姉様が凄いです》
『あら?』
ようやく外の様子を確認し魔女は苦笑した。
『聖女の力ね』
《聖女ですか?》
『そうよ。あの子はどうもあの力を嫌っているみたいだけど……』
ただし魔女としてもあんなに攻撃に特化した力は見たことが無い。
攻撃こそが全てだと言いたげな恐ろしいほどの威力だ。何をどう間違えたらあんな風になるのだろうか?
『狂ってるわね』
《師匠?》
『たぶんあの子にあの技を伝えた何かが狂っていたのでしょうね』
一族伝来の~とか言って口伝で伝える弊害とも言える。伝達ミスか、あるいは故意か。
『良いんじゃないの? あの攻撃に魔力は関係ない。しいて言えば神通力かな? 聖女というより仙人に近い形態だからそっちの方がしっくり来るわね』
《師匠?》
『ただの独り言よ。気にしなくて良し』
気にされて質問される方が辛い。
『簡単に言えば、貴女のお姉ちゃんは強いってことよ』
僕とシュシュは何故か体育座りでノイエの姿を見ていた。ぶっちゃけ怖いです。
ノイエさんが言う『アルグ様を守って』と言うのは、どうやら流れ弾から僕を守ることらしい。
恐ろしいソニックブームで吹き飛ばされた鎧騎士がドームに直撃して血肉の花を咲かせた。
あれの直撃を僕が食らおうものなら一緒に奇麗な花になっています。
「シュシュさんや」
「何だぞ~」
「ノイエって何でもありなんだね」
「だぞ~」
恐ろしい速さで共和国軍の数が減っている。
文字通り擦り減っている。ちょっとだけ彼らに同情を覚えるほどだ。
「あ~」
「どうかしたのかだぞ?」
惨劇を眺めていた僕はそのことに気づいた。
「あの中にもしかして共和国の国家元首が混ざっているとか無いよね?」
「どうしてだぞ?」
「だってほら……だいぶ僕が遊んであげたから、その逆恨みで一緒になって来てるかもしれないじゃん。ミシュ~」
振り返るとどこぞの売れ残りは寝てやがった。
「おいコラそこの売れ残り」
「「はうっ」」
狙い定めた言葉の刃が、何故か隣に居るリグの従姉にまでダメージを。
そう言えばリグの従姉という時点で彼女は年上なんだよな……南無南無。
「共和国の国家元首って来てるの?」
「知らん。見てない。会ってない」
「おひ」
「でも共和国の人間だったのが居るんだから、もしかしたら居るのかもね」
投げやりすぎるだろう? 減給するぞマジで?
迫り来る恐怖に彼はなす術が無かった。
体は勝手に動き化け物に向かい歩みを止めない。
また1人。そして1人と……化け物の攻撃によって吹き飛び血肉色した汚物と化す。
あそこまで砕かれてしまうと流石にもう身動きは取れないらしい。
それを見つめ理解していても、彼は勝手に動く足を止められない。
《嫌だ!》
こんな終わりなど望んでいなかった。
自分は選ばれた人間であって、こんな場所に居るべき人間では無かった。
ただ不幸が……全てはあの夫婦が悪いのだ。
自分の前に姿を現し、一方的に不幸を押し付けて行ったあの夫婦が悪いのだ。
それなのに、それなのにだ!
相手の間合いに入り彼は自分の全身が総毛立つのを感じた。
もう逃げられない。逃げることなど最初からできない。
「……お腹空いた」
彼が聞いた言葉はそれだった。
前に居た鎧騎士と一緒に後方へと吹き飛ばされた彼の意識はそこで潰えた。
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