作品タイトル不明
どんな性癖だぞ?
「あの~アイル?」
「何よ! 私だって馬鹿なことを言ってるって自覚はあるわよ! でも怖いの! 痛いのは嫌なの!」
「……」
終末魔法と呼ばれる大魔法で自殺した人物の発言とは思えない言葉に、リグの目から光が消えた。
たぶん違う。それを理由に別のことを誤魔化しているのだと……長年の付き合いからそう推理する。
「アイル」
「何よ!」
「子供が生まれ出る場所だからそう簡単に裂けたりしない。出産で少し裂けることもあるけれどそれだってちゃんと治る。手当てすることを忘れなければだけど」
「……」
医者である相手の言葉にアイルローゼは口を閉じた。
何処か慌てている様子から……リグは全てを悟った。
「大丈夫アイル。アイルは美人だから」
「なっ何よ!」
「胴体にシーツをかけて隠せば見られない」
「っ!」
激しく息を吸い込む音をリグは聞いた。
どうやら正解だったらしい。
「大丈夫。彼はアイルに胸の大きさは求めてないから」
「……」
こちらに指先を向けわなわなと震える魔女に対し、リグは努めて優しく言葉を紡ぐ。
「彼はアイルの足を褒めている。ボクから見てもアイルの足は凄く奇麗だと思う」
「でもこんな足ぐらいでっ!」
「それは違う」
「違う?」
「うん。アイルがその足で彼を満足させられないなら、彼がその足で満足できるように手助けすれば良いんだよ」
光を失った目でリグはそう助言する。
自分はいったい何を語っているのか……もう正直何も分からない。
たぶん頭の悪いことを言っているのは間違いないと自覚はしているが。
リグの内心など理解していないのか、アイルローゼはそっと自分の足を動かす。
唯一完全に回復しているのが2本の足だ。スラリとした長くて傷1つ無い足を膝を曲げて自分の方へと寄せた。
「この足を彼の好きに?」
「うん。それで良いと思うよ」
気を抜くと棒読みになりそうな言葉にリグはどうにか感情を乗せる。
ただ乗せている感情がどんな物なのかは考えないことにした。気持ちが折れそうだからだ。
「それに元々彼は胸なんて気にしない。気にしているのはアイルの方」
「でも」
「彼はファシーの大きさでも満足する」
「あれは……ファシーが一方的に襲っているからで」
何故だろう。リグは相手の言葉を否定できなかった。
「大丈夫。仮にグローディアぐらい胸が平らでも彼は嫌ったりしないはず」
「あんなに平らでも?」
「うん。まっ平らでも」
「……そう」
何か危ない橋を渡った気がしたがリグは忘れることにした。
今は目の前の魔女と仲直りする方が先決だ。
「それにボクもアイルの足は好きだしね」
「本当に?」
「うん。セシリーンのも悪くないけどアイルの方が慣れ親しんでいるから枕にすると凄く落ち着く」
『あらあら』と笑う声が聞こえてきたがリグは反応しない。今は色々と我慢だ。
「ボクは子供の頃からアイルの足を枕にしていたしね」
「そうね」
クスリと笑いアイルローゼはそっと自分の足の上に手を置く。
ポンポンと軽く叩くとそれを合図にリグが近づき、座り、太ももの上に頭を預けて来た。
「滑々してて気持ちいい」
「そう」
静かに伸びて来た手がリグのお腹に触れる。
「ごめんなさいね。リグ」
「もう平気」
「いつもこうしていたのに」
「もう大丈夫」
リグが痛がっていたその場所を撫でるのが、ある意味アイルローゼのいつもだった。
学院に居た頃は頻度も多く、それこそ数日間隔で撫でていたのにだ。
「リグ」
「なに?」
「許してくれる?」
「……うん」
熱くなって来た頬を隠すようにリグは魔女の太ももに自身の顔を押し付けた。
「アイル」
「なに?」
「ごめんなさい」
「……ええ。こちらこそ」
「落ち着こうかグローディア? 今あの2人は良い雰囲気で」
「あん? それと私の胸に対する暴言と何か関係あるの? 無いでしょう? あん?」
怒れる元王女を羽交い絞めにしながらローロムは深いため息を吐く。
最近こうして深部から出てきて理解したことは……中枢に居る人間ほど始末に負えない人が多いという事実だ。
よくもこんな面子で今までの困難を乗り越えて来たものだと感心すらしてしまう。
「殺す。あの2人を纏めて」
「……本当に落ち着こうか?」
羽交い絞めしていた腕を動かしローロムは相手の首に腕を回す。
軽く締めていたら相手の全身が硬直して弛緩した。
我を失っている人間相手なら絞めて落とした方が手っ取り早い。
魔眼の中だと絞殺しても勝手に生き返るのだから。
「こんな空気は嫌いじゃないけど……私には付いて行けそうにないかな」
さっさと自分の仕事をしてローロムは戻ると決めた。
ブロイドワン帝国・帝都帝宮内
「正しいゾンビの倒し方! ノイエ~」
「はい」
「ちょっと頭を掴んでグリって回してみようか」
「はい」
ゴキッ
「……旦那ちゃん?」
「うっほ~い」
もう笑うしかない。
僕の言葉の何が悪かったのだろうか?
そしてノイエは何をどうあの言葉を受け取って暴走したのだろうか?
だって普通、頭を掴んでグリッと回すと聞いたら、180度に回転でしょ? そうだよね?
しかしノイエの場合は鎧騎士の頭を掴んで、どんな物理力を発揮したのか謎だけどグリっと回した。掴んだ頭をそのままで、相手の体がグリっと一周したよ。それも横回転ではなく縦回転でグリっだ。
首から下の体が首を支点に回る姿を見ることになろうとは……それは良い。予想以上に相手に大ダメージだ。
「で、何で生きてるの!」
「知らないぞ~」
僕らの想像以上にダメージを受けたはずの鎧騎士はまだ動く。
ノイエを相手に拳を振り回し攻撃している。超近接戦闘で回避しているノイエも凄いが。
「無理~! あんなの倒す方法とか無いやん!」
何をどうしたらあんなビックリ生物を退治できるのか説明してくれ。
「分かったシュシュ」
「何だぞ?」
「シュシュの魔法で全て封じて」
「それで?」
「後は頑張れ」
「酷い丸投げだぞ! 何一つ解決していないぞ!」
少なくとも短い時間かもしれないが僕らの安全は確保される。
ただし時間切れと同時に死ぬほどの恐怖と僕は握手さ!
「良し。燃やそう」
「火の魔法は弾かれるぞ~」
「だから何故燃えない! その辺の説明を詳しく!」
「……アイルローゼに聞いて」
目から光を失い顔を傾けてシュシュがそう言った。
今にも唾棄しそうな雰囲気から、これ以上このネタでイジメるのは止めようと思います。
「そもそも勝手をしているアイルローゼが悪い! 今度出てきたら一晩中あの太ももを撫で回す!」
そんでもってああしてこうしてそうして……ふはははは~!
「……どんな性癖だぞ?」
妄想を口走っていたのかシュシュの目がとても冷たい。
と言うかノイエ以外の女性陣の視線が氷河期のようだ。
冗談だよ。素で質問するなよ。ただの悪ノリだよ。
「それぐらい怒っているということです!」
「だぞ~」
僕とシュシュは怒りの余りに拳を空へと突き立てる。
何故かこっちを見ていたノイエも拳を空へと突き上げた。
「誰かこれをどうにかする方法を教えてください!」
結構ピンチな状況で僕は全力で叫んでいた。
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