軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

密偵衆を牛耳るのよ!

ユニバンス王国・王都ユニバンス

「ん~」

「あ~」

「は~」

「ふ~」

掃除したてで湯を張られた広い湯船の中で、車座に近い形でそれぞれが息を吐く。

無事に各自報告を終え、再度集結した4人は迷うことなく風呂を求めた。

風呂は命の洗濯と三大魔女の誰かが言っていたらしいが、その言葉に反論する者は誰も居ない。何故ならば全員が疲れ果てた体を癒しているからだ。

落ち着いてのんびりしだせば後は自由だ。

各々が好き勝手を始めた。

「イーリナ。その溺死体のように浮かぶのは止めて」

「今の私は全身で湯を感じている」

「あっそう」

「ネルネ。そこまで丁寧に洗わなくても……きゃん」

「仕方ないのよレイザ。私は可愛い者は自分の手で隈なく洗いたい人だから」

「本当に君たちは仲が良いな」

「リディももうその仲間の1人よ」

ネルネの声に騎士は頬を真っ赤にして湯の中へと沈んで行った。

「それで各自……上司から何と?」

4人のリーダー格に納まったネルネが仲間たちに話を振る。

「自分は何故か報奨を貰った。後は感状か」

「リディは今回の北東部の異変に気付いた功労者だもの。当然ね」

「私は……陛下から感状と修理費のいちぶっひょっ」

ビクッと跳ねてレイザはグッタリとした。

「まあ王妃様のメイドをしているレイザはそうなるわね。で、イーリナは?」

「上司夫妻が帝国ですっごいことをした。自分の耳を疑った。心的疲労も酷いので、もう10日は休みを続行してゆっくりしようと思っている」

「報奨的な物は?」

「金や手紙よりも休みが欲しい」

「ある意味イーリナね」

溺死体のように浮かぶ幼馴染は流れて行った。

「それでネルネは?」

「私?」

リディの問いに裏方に徹した女性は、美味しそうに出来上がっているレイザを優しく抱きしめた。

「部下たちには報奨を。私には何も無いわね」

「何もとは?」

「だから今回の独断専行のお咎め無しと引き換えに、ご褒美も無しってことね」

少なからず部下たちに報奨が出たのでネルネ的には十分であった。

「そんな馬鹿な話があるか!」

ただ1人……根が真面目なのかリディだけがそれを許さない。

ザバッと湯を波立たせ彼女は立ち上がる。余波を食らったイーリナが転覆し溺れかかった。

「ネルネが先行して情報を集め自分たちを確実に配置したから無事に終えたんだ。それなのに咎めが無い代わりと言うのは理不尽だろう……何だ? ネルネ?」

「ごめんなさい。この国にも真面目な人が居たんだと知ってちょっと泣きそうになっただけ」

「自分は間違ったことは言っていないはずだが?」

その正論を論ずる者が少ないのが、このユニバンスという国なのだ。

「良いのよ。私は別の意味でご褒美を頂いたし……ある意味ではこの中の誰よりもスッキリしているわ」

「誰よりも?」

「そう」

ニタリと笑いネルネは上唇を舐める。

「30人も屈強な男を相手に全力で凌辱してあげたの」

「……」

「もう全員が子供のように泣き叫びながら『もう許して! 死んじゃう!』ってね。本当に美味しいご褒美だったわ~」

「そうか。それで良いなら」

自分の分からない、深く関わってはいけない話にリディは静かに湯の中へと戻った。

「それでレイザは修理が終えたらお仕事復帰?」

「はい。でも困ったことに肘部分の修理が出来る職人が居なくて、ハーフレン様が『あの人』に聞いてくださると言ってはくれたのですが……イーリナ。本気で怖い」

キスする勢いで顔を寄せて来た相手にレイザは恐怖する。

「会う時は一緒に」

「……無理かもしれないわ」

「そこをどうにか」

「……一応聞いてみるわ」

グイグイと額を押し付けられてレイザは痛みの余りに屈した。

「イーリナの馬鹿はいつも通りか」

「失礼な。今回は褒美の休暇だ。だから私は惰眠を貪る」

「言ってなさい。それでリディは?」

「ああ。『休暇だというのに仕事をしているなら働かせてやる』と大将軍から命じられ、次は今回行った北東部の新領地をしばらく回って来る」

「……本当に真面目ね。大丈夫? 怪しい薬とか飲んでない?」

「真面目なら問題無いと思うのだが?」

ネルネの反応にリディは首を傾げた。

「まあ王都に戻ってきたらこの店に来なさい。リディならいつでも無料で入れるようにしておくから。もちろん私の友人だけの特権だから」

「それは良いな。凄く良い」

うんうん頷く相手にネルネは生温かな目を向けた。

「ただ時間を間違えると営業時間になってしまうから……その時は適当な男を相手に遊んで行っても良いわよ? 給金も出すし」

「……遠慮する」

また顔を真っ赤にしてリディは湯の中へと消えて行った。

「で、ネルネは?」

「私?」

軽く自分の胸に手を置いてネルネは妖艶に笑う。

「決まっているわ。帝国から戻って来る馬鹿な暗殺部の売れ残りと全面戦争よ」

グッと拳を握ってネルネは宣言する。

「あんな馬鹿が密偵衆を支配しているから色々と緩んでいるのよ! 処女の癖に! 分かるかしら?」

「緩いのは無くないね。うん」

本気でやる気だと察し幼馴染のイーリナは相手の言葉に頷き返す。

飛んでくる火の粉は振り払っておく方が良いに決まっているからだ。

「あの売れ残りに天罰を加え、私たち諜報部が密偵衆を牛耳るのよ!」

王都内・酒場ヘムテ

「バニッセとエレイーナは? 戻って来てるんでしょう?」

「エレイーナは全身筋肉痛でベッドの上」

「バニッセは?」

「尻が痛いとか言ってベッドの上」

「……何してたのよあの2人は?」

「さあね?」

給仕をしている若い娘の2人は、そんな話をしながらも店内に目を走らせる。

この酒場は密偵衆が根城としている店舗の1つだ。

酒場は古来より情報収集の場として活用されるので、こうして怪しい動きをしている人物が居ないか常に見張っているのだ。

「一番美味い酒を持ってこ~い!」

店の戸が開いて小柄な馬鹿が飛び込んできた。

「上等な酒を求む!」

「……いらっしゃいませ~」

一応客として来ているから出迎えなければいけない。

いけないのだが……給仕の娘は何処か納得がいかない表情をしていた。

「それと果物を求む!」

「それは果物屋にでも行ってください」

「え~。面倒じゃん」

「知りません」

客が相手でもこれぐらいの言葉は許されるだろうと、給仕ははっきりとそう告げるのだった。

王都内・貴族区

「ただいま」

「おかえりなさいませ~。ネルネねえさま~」

とうっと掛け声一発……抱き着いて来た従妹にネルネはため息を吐きだす。

年の頃は自分よりも遥かに若い。というか幼い。今年で4歳となったばかりだ。

少女は一番近い血筋の自分の後継としてネルネが呼び寄せた人物でもある。両親の許可を取り義理の妹として引き取った。

ネルハ・フォン・ハーミットが“今”の彼女の名前だ。

「ネルハ」

「は~い」

元気に手を上げる妹にネルネはその頭に手刀を叩きこんだ。

「いたいです。ねえさま」

「……」

「なんですか? おこってますか? キスしたらゆるしてくれますか? ならいただきます」

『ん~』と言って迫って来る馬鹿の顔を掴んで全力で握る。

結構本気で痛がる妹への罰はそれで終えることとした。

「それで私に言うことは?」

「なにをですか?」

「私が気づかないとでも?」

「あはは~。うまくごまかしたのに~」

クルリとその場で1回転したネルハは、姉に対して改めて顔を向ける。

けれどそれは先ほどまでの顔とは違う。身長も服装も違う。

だがネルネはその顔の人物を知っていた。

「エレイーナに化けて何をしていたのかしら?」

「おしごとです? ねえさまがさきにいってしまったから、わたしがうけました」

『エッヘン』と胸を張る馬鹿の頭をネルネは全力で叩いた。

「ねえさま……ちかちかします……」

「そうなるように叩いたのよ。全く」

優秀なのか馬鹿なのか良く分からないが、ネルハには優れた能力がある。

人を真似ることがとにかく得意なのだ。

そしてそんな彼女はある魔道具を得てこう呼ばれるようになった。『百面相』と。

「貴女の仕事の内容を言いなさい」

「え~。しゅひぎむというのがあって~」

「なら2度と一緒にお風呂に入ってあげない」

「いまからいっしょにはいるなら、はなうたかんかくでいっちゃいます!」

「……実は湯上りなんだけれども?」

「それならおふろをあとにして、いっしょにべっどでなかよく!」

「……要求は絵本かしら?」

「わ~い」

喜び駆け回る妹に呆れながらもネルネは全てを聞きだしてから……無茶をした次期当主にきついお灸をすえるのだった。

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