軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

それとも立派な飼い犬になりますか?

ユニバンス王国・北東部新領地(旧共和国リーデヘル地方)

振るわれるメイドの腕を掻い潜り、ハルフーンは相手との間合いを詰める。

魔剣の魔法を叩き落とすあの腕は注意すべ武器だと理解した。

何よりあのような動きをする化け物だ……まだ武器を隠しているかもしれない。故に注意が必要だ。しすぎるぐらいの注意がだ。

「避けてばかりですか?」

「ああ。隙を伺っている」

「そうですか。なら」

鞭が伸びて来た。

ハルフーンの目にはそう映ったが、事実はメイドの手の指が伸びたのだ。

「化け物だな」

「いいえ。ただの人形にございます」

「そうか」

ニヤリと笑いハルフーンは剣を振るう。

わざとらしく大きく振るってその刀身に鞭の様な指を絡めた。

「武器を取り上げる機会を?」

「いいや」

笑い続けて彼は念じる。

「ぐっ」

苦痛に満ちた声を上げたのはレイザだ。

魔剣に巻き付けていた指からは白い煙が立ち上り、その煙は右腕の肘からも上がっていた。

「刀身に魔法を宿したのですか?」

「正解だ」

魔剣を振るい、巻き付いていた人形の指を床へと払う。

シュルシュルと音を立ててレイザの右腕が元の形へと戻った。

「どうかね? 宿した魔法を直接流し込まれた感触は?」

「……全身が痺れてもう少しで大変な粗相をするところでした」

「あはは。そう言うな。誇っても良い。これを食らい失禁しなかったのはお前が初めてだとも」

「それはどうも」

痺れる……と言うよりも動作が怪しい右腕を諦めレイザは左腕を振るう。

内心では王都に戻ってからの修理代金が頭の中をよぎり悲しくなっていく。この嫌な気分はまたあの王妃に仕事という苦痛を与えて発散すると心の中で誓って誤魔化した。

「良いのか? 左腕も貰うぞ?」

「くっ」

相手の声にレイザの気持ちが一瞬揺らいだ。

大きく振り放とうとした左手の動きが弱まり、その攻撃をハルフーンはたやすく掻い潜った。

後は迷うことなく前進し、その剣先がレイザの胴へと突き入れられる。

「残念。実は回復待ちで微弱な魔法しか放てない」

「くっ!」

咄嗟に膝蹴りを放とうと身を捩じるレイザだが、一歩遅かった。

「きゃぁぁぁあああ~!」

胴体を微弱な雷撃が襲った。

ハルフーンは剣を引き抜くとガクガクと震えながら床に両膝を着くメイドの違和感に気づいた。

突いた場所から出血が無い。それに剣先もまた血で濡れていない。

その2つの違和感から彼はメイドを蹴り倒し、その服に手をかけた。

「なるほど。人形師の正体はこれか?」

「……かふっ」

剣先は偶然回避できたが、雷撃を直で食らった胴体の中身が全身を震わせていた。

ハルフーンは相手の頭を掴みメイドの胴体から強引に引き抜く。

「あがぁ~!」

「何だ? 何かの仕掛けでもあったか?」

だが相手に苦痛を与えられることを至高の喜びとするハルフーンとしては、その悲鳴は小鳥の囀りにしか聞こえない。

ポイっと中身を床の上に叩きつけ、彼はその剣先をレイザの右手に押し付けた。

掌から焼けるように痛みを感じ少女の様な存在が泣き叫ぶ。

心地の良い声にハルフーンは激しく興奮し、何度も何度も相手に刃を突き立てた。

もう何度目かは分からない。けれど決して少なくない回数を終え……ハルフーンはようやく手を止めた。

何度突いても、どこを突いても相手は何も言わない。ただの躯だ。

「もう少し楽しめば……ん?」

彼は再度の違和感を覚えた。

生々しい少女の叫びでそれを見逃していた。

否。悦に浸り完全に忘れていたのだ。

相手が……出血していない事実にだ。

「何故血を流していない?」

「答えは簡単です」

ふと頭を何かに掴まれたハルフーンはグリッと回された。

自分の背後へと強制的に顔の正面が向くようにだ。

そこには胴体の部分を空にした人形が立っていた。

「それも人形なのです」

「……」

「今回は私の『遠隔で操作できるのか?』の実験を兼ねていたので、本体は王都の自室に居ります」

首を捩じられ絶命している相手を投げ捨て、レイザはバラバラにされたもう1つの人形を見た。

「実験としては成功なのでしょうが、ここまで弱体化してしまうのは失敗だと思います」

せっせと壊されたパーツを集めて適当な袋に入れると、それを胴体に押し込んだ。

「こんなに弱くなってしまっては……メイド失格な気がします」

何よりユニバンスのメイド長はメイド道に対して真摯で厳しい人だ。弱体化など微塵も許してくれない御仁だ。

「これは魔法学院に対して『再検証』と報告することとしましょう」

そう決めてメイドは破かれた服を手早く直すと、その場から消え失せた。

「それで? 誰の差し金かしら?」

団体客を従業員総出で出迎えたネルネは、捕縛された相手の顔を踏みつけながら問う。

だが相手も金で雇われた類の者では無いのか決して口を割らない。

「あら? この私を相手に頑張るのね? 良いわよ?」

クスクスと笑い、ネルネはゆっくりと身に纏っているドレスを脱ぐと……自分の腹の傷に手を触れた。

「私はね? 『毒蛇』と言う二つ名を割と気に入っているのよ」

ペロリと上唇を舐め……ネルネは嗤う。

「だから全員私の毒を味わってもらう」

捕縛されている者たちは総勢30人程だ。

その全員が妖艶に笑う女性を見つめ……恐怖で縮み上がった。

「安心しなさい」

震え上がる相手を前にネルネは嗤う。怪しく嗤う。

「死ね程の快楽と一緒に死を与えてあげるから……気持ちよく人生を終えられるわよ?」

事実その場に居た30名は……夜明けを迎えることなく全員が絶頂のまま絶命した。

ユニバンス王国・北東部新領地(旧共和国リーデヘル地方)

「報告はまだか!」

焦った風で膝を揺らし彼は部下からの報告を待っていた。

共和国の首都から流れて来た者たちが完璧なまでに準備を整えた。このまま自分を旗印に彼はユニバンス王国から独立し、共和国へと戻って国家元首になる予定なのだ。

その第一歩が今宵始まった。始まったのだ。始まったはずなのだ。

何一つとして報告は届けられていないが。

「どうなっている!」

声を荒げる彼に対し、秘書官たちは何の返事も出来ない。

彼らとて同じ部屋に居て報告を待っている身なのだ。

「失礼しま~す」

「何だ?」

ドンと元気よくドアが開いた。

それを食い入るように見つめた彼は、首を傾げる。

「誰だ?」

「はい。どうもです。初めまして」

深々と頭を下げたのは緑色の髪をした女性だ。

この部屋に居る者たちは彼女の正体を知らない。けれど彼女はユニバンス本国から送り込まれた使者である。

「私はエレイーナと言います。と言っても偽者ですけどね」

「何を言っている?」

「あはは~。本当ですよ? 本物は今頃全力疾走で王都に向かっている頃です。迷うことなく一目散って本当に伝令としたら優秀ですね」

その場でクルっと回って見せたエレイーナの手から刃が放たれる。秘書官たちの眉間に刃を突き立て彼女はまた相手を見た。

新領地の領主となっている飼い犬をだ。

「で、私の用事は貴方ですよ。御当主様?」

クスクスと笑い偽者を自称する女性が歩み寄る。

慌てて逃れようとした彼は椅子から転げ落ち腰をしたたかに打ちつけた。

そんな相手を女性の足が容赦なく踏みつける。腹の上をだ。

「シュニット陛下は大変悲しんでいらっしゃいます」

「……」

「ハーフレン様は『殺せ』と仰っています」

「ままま待て。待って欲しい!」

「ですが」

相手の声を遮り女性は道具を取り出した。それは首輪にも見える。

「この首輪を自発的に嵌めるなら一度だけお許しになるそうです。どうしますか?」

禍々しく見える首輪に彼……ウシェルツェルは震えながら相手を見た。

「今死にますか? それとも立派な飼い犬になりますか?」

凄みのある笑みに屈して……彼は自発的に首輪を巻いた。

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