軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

私は何も聞いていないぞ!

ユニバンス王国・王都王城内国王執務室

「アルグの大馬鹿野郎は居るかっ!」

これまた礼儀を忘れた巨躯の男が政務室に飛び込んできた。

椅子に腰かけちょっとした休息を得ていたシュニットは、怒れる弟に目を向ける。

「あれならもう逃げ出したぞ?」

「アルグスタ~!」

余程の怒りなのだろう。珍しく略称ではなく本名で名を叫んでいる。

怒り狂う弟に同情しつつも、丁度良かったとばかりにシュニットはその顔を相手へと向けた。

「まあ良い。時に近衛団長」

「……はい。陛下」

パンと頬を張って表情を正した弟が机の前へと来た。

「もしアルグスタが帝国を打倒した場合の手筈は?」

「現状5割方が完了しています。ですが一番の問題は」

「キシャーラが応じないか」

「はい」

亡くなった皇帝の弟であるキシャーラは、何度手紙を出しても良い返事をしてこない。

彼は帝国に戻り皇帝になる気が微塵も無いのだ。

「そうなると現状は、次の物を進めている感じか?」

「はい」

恭しく頷くハーフレンにシュニットは軽く頷いた。

もし帝国が倒れることとなった場合……ユニバンス王国としては余計なことはしない方向で2人は決めていた。

『国土を増やせ! 領土を増やせ!』と叫ぶ貴族が現れることは分かっている。

けれどこれ以上の拡大路線は、人的資源の少ないユニバンス王国にとって致命的になりかねない。故にこれ以上の拡大を王家としては望んでいないのだ。

「ただ西部の貴族たちが騒いでいるとか?」

「はい陛下」

近衛団長でもあり密偵の長も務めるハーフレンは素直に認めた。

「彼らはアルグスタの実力を高く買っています。故に帝国を打倒、もしくは一撃を与えると信じているのです。そして大樹として存在する帝国の根底が崩れたら……」

「出兵して領土を拡大する。得た土地は全て自分たちの物にか」

「そう目論んでいるのだと思います」

「厄介だな」

そんな動きを見せれば他の貴族たちも動こうとし、貴族たちの考えが『出兵』に傾いてしまう。

「どうにかならないか?」

「……今回ばかりは難しいかと」

「何故?」

「主導しているのがブルーグ家ですので」

軽く頭を左右に振る弟に対し、シュニットもまた渋い表情を浮かべる。

ブルーグ家は目立つことを好まない確実で堅実な家風の上級貴族だ。

着実に自分の力を増やして伸ばし……東の雄であるクロストパージュ家の次に『兵力』を所持している。

「何か方法は無いのか?」

「あるにはありますが……厄介な方法になります」

「つまり現当主の?」

静かに頷く相手にシュニットは押し黙る。

それは最終手段だが、相手も暗殺の類は警戒しているはずだ。

「あの家にも祝福持ちが居たな?」

「はい。その能力は定かではありませんが3名ほど」

「そうか」

その3人の中に王都に居る『目』のような存在が居れば厄介だ。

「最終手段は使えないか」

「そう思います」

使えるのならハーフレンとしてはさっさと使ってしまいたい手段ではあった。

何なら帝国からミシュが戻ってきたら、そのまま派遣しても良いと思っている。出来ないと分かっているからの即断ではあるが。

「ならばどうする?」

「今は遠巻きに様子を見るしか」

「……そうか」

徒党を組んでアルグスタを警戒している割には、その能力を高く評価している敵は本当に厄介でしかない。感情に流されず落ち着いて状況の把握をしている証拠だ。

シュニットは今夜の妻との語らいが長くなると察して……色々と諦めることとした。

「……そうか。アルグスタが居たか」

「何がでしょうか、陛下?」

ふと何かに気づいた様子の兄にハーフレンは視線を向ける。

ニタリと笑う国王は、悪戯を閃いた少年のような顔をしていた。

「あれは優秀な参謀を抱えている。それに考えさせるのはどうか?」

「ですが彼女は」

「過去や経歴などは度外視で良い。何より彼女の能力はずば抜けている」

出来れば自分の部下として欲しいぐらいの才能を持つ存在をシュニットは知っていた。

『死の指し手』と呼ばれる殺人鬼である人物のことだ。

「あれにこの問題の解決法を押し付けることとしよう」

「宜しいのですか?」

「構わんよ」

背もたれに背中を預け、シュニットは薄く笑う。

「報告を忘れ温泉でのんびりした罰だ。許せんだろう?」

「ですね。なら賛成です」

流石の兄たちも仕事を押し付けて来る弟に対し腹を立てていた。

ユニバンス王国・王都内

「困ったな~」

「どうしましたか? にいさま?」

「ノイエが戻ってこないと帰れない」

「はい」

城を出てポーラと2人トボトボと歩いていた。

丁度城を出て行く時に馬鹿兄貴が鬼の形相で馬を走らせてきたから……良いタイミングで逃げ出せたのだろう。

あんな鬼と出会ったら仕事を押し付けられるに決まっている。

「これって便利なんだけど、周りの人がこっちを認識しないのって怖いね」

「はい。きをつけてください」

僕の手を引いて歩くポーラの姿もぶっちゃけ分からない。

光学迷彩の魔道具の弊害だ。僕もポーラも姿が消えるので互いを確認するのは声のみだ。ただしこれだって周りに人が居ると厄介である。『空耳か?』と耳をほじってくれればまだ良いが、たまに悲鳴を上げて駆けだして行くメイドさんとかも居る。

その様子から城内での不用意な会話は控えるようにした。

代わりに立ち寄った僕の執務室でケーキを食べながら仕事をしている不良娘が居たので、お仕置きをしておいた。透明人間の映画ばりに恐怖と言うものをポーラと2人で徹底的に教えてあげた。

泣き喚きながら謝り続けていたので、反省をしてくれたものだと信じている。

何より確実に今夜のクレアは、イネル君に抱き着いて離れることは無いだろう。

「にいさま。ばしゃです」

「ほ~い」

こっちは向こうが見えるが、向こうはこっちが見えない。

結果として乗り物の類は真っすぐ突っ込んでくる可能性もあるので、大きく迂回して十分な距離を取る。

「どうしようかな~」

「おみせにいきますか?」

「これで遊んでいると流石に大問題になりそうだしな~」

今回の一時帰宅はあくまで食料の補充と休憩である。

休憩なの。僕はリグの故郷でボロボロになったの。

「あっリグか」

「はい?」

「絶好な暇潰し場所を思い出しました」

こんな時はリグの親の顔でも見に行こう。

ユニバンス王国・王都内下町

「何故居る?」

「何故知っている?」

診察室に突撃したら休憩中の先生が呆れた顔を見せた。

「先日メイド長が来てな。『どこかの馬鹿が帝国に行ってとんぼ返りしているそうなのです』と」

「事実であるが理由もあります」

納得だ。犯人は叔母様だったか。

そんな訳で僕とポーラは王都内の下町に存在する治療院に来た。

中に入るやポーラが覚悟を決めた顔をしてナーファの手を引いて奥へと消えた。何を考えているのか知らんが、ポーラなら馬鹿なことはしないはずだ。

治療ではなくお喋りだと察してくれた先生が、とりあえず椅子を勧めてくれたのでそれに座る。

「実はリグの故郷に行ってきました」

「……そうか」

茶を啜り彼は深い息を吐いた。

「どうだった?」

「廃墟でした」

「そうか」

奴隷としてこの国に連れて来られたリグの状況から察していたのか……先生は納得した様子だった。

「ただリグの両親の遺骨などは見つけられませんでした」

ロボが言うには王家の者たちは首を刎ねられてからその遺体は帝都に輸送したらしい。本人かどうか確認する首実検と言うヤツだと僕は思っている。

「仕方あるまい」

「代わりにリグの叔母さんの遺骨は見つけられました」

「……本当か?」

驚いた先生がこっちを見る。

「はい。別の所に隠れてお亡くなりになっていたので」

「……何故その遺骨がリグの叔母だと?」

最もな質問だ。つまり先生は僕と一緒に地獄の道を進みたいらしい。

正直者の僕は包み隠さずリグの正体を彼に伝えた。

最終的に血の気を失った顔で震えだした先生は、『何も聞いていない。私は何も聞いていないぞ!』と叫んで逃げ出した。

気持ちは分かるが諦めろ。リグはあれでも王女様らしいんだから。

(C) 2021 甲斐八雲