軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

廃墟にしたら問題ってありますか?

ユニバンス王国・王城内国王政務室

ユニバンス王国の国王であるシュニットは仕事の手を止めた。

弟であるアルグスタたちが帝国へ向かい4日が過ぎた。

向かったということにはなっているが、昨日からはこの国のドラゴンスレイヤーであるノイエと思われる人物が、ひょっこりと顔を出してはドラゴン退治を行っている。

ほぼ間違いなくノイエであることは違わないのだが、断定されていないのは彼女が布で顔を覆い素顔を隠しているからだ。よって王家としては彼女を『ノイエに似た人物』として扱っている。

こういった政治的、貴族的な言い訳が出来るような配慮が出来る弟の機転には助けられるが、そもそもそれだったらこんな事態にせず一度城に戻り事情を説明すれば良いとすら思う。

「まだお仕事です~?」

パタパタと走ってやって来たのは王妃であるキャミリーだ。

何処か犬を思わせる愛らしい少女である。

「ああ。アルグスタのおかげで……時にメイドは?」

「あの冗談が通じない人は振り切ったです~。日に日に衰えているから簡単でしたです~」

「……」

それはそれで問題ありなのだが、城の中で王妃が襲われる事態はもっと問題だ。

ただこの城に仕えるメイドの半数は並の兵よりも強い者たちだ。メイド長の手で育てられたメイドは決して弱くはない。

何かあればメイドたちが王妃であるキャミリーを守ってくれるはずだ。

「よいしょっです~」

「まだ仕事中だが?」

「少し甘えていくです~」

椅子に腰かけている国王の膝の上に座ったキャミリーは、甘えるように自身の唇を相手の耳元へと運んだ。

「コホン。西部の貴族たちが少しずつ結束し始めています。現状は上級貴族だけですが」

「……似た報告が近衛からも上がってきている。事実か?」

「はい」

夫の頬にキスをして王妃は顔を離す。

「コホン。お仕事が終わったらご本を読んで欲しいです~」

「そうだな。今宵はのんびり過ごすとしよう」

「です~。ケーキも注文してあるです~」

もう一度キスをして王妃は彼の膝から降りる。

「ならもう少しお城り中を探検してお腹を空かせておくです~」

「ほどほどにな」

「分かったです~」

元気な返事と一歩目からトップスピードに乗ってキャミリーは部屋を出て行こうとした。

ただ部屋を出る寸前に急停止し、何故か宙に浮かんだ。

「王妃様まだお仕事が残っています戻りましょう」

「おおぅ……頭が~! 首が~!」

悲鳴を上げるキャミリーは必死に手を伸ばし自分の命を守る。

容赦無きメイドが頭を掴んで持ち上げるので首から鈍い音と痛みが全身に響き渡ったのだ。

ただ感情の無いメイドの淡々とした声が一息で続く。

「戻りましょう王妃様」

「手を放すです~! 首が、頭が、もげ~!」

悲鳴を残し王妃とメイドが去って行く。

全身から絶望感を漂わせるメイドは、メイド長の秘蔵っ子で若手メイドの鏡と呼ばれる存在だ。

そんな彼女は全体的にボロボロな感じを漂わせ、肩を落としため息交じりで歩いて行く。

周りのメイドたちはその様子に何も言えない。言うべき言葉が見つからないのだ。

「やれやれだな」

王妃とメイドを見送った国王シュニットは机の上で頬杖をついて嘆息した。

どうも弟の家、ドラグナイト家と関わると人がダメになってしまうらしい。

冗談かと思っていた言葉だったが、あのメイドの様子を見るに事実のようだ。

「アルグスタが悪いのか、彼女が主人と定めているアルグスタの妹が悪いのか」

「……5日ぐらいで精神崩壊するミネルバさんが悪いんだと僕は思います」

「そう断言するアルグスタがやはり一番……ん?」

違和感を感じシュニットは居住まいを正す。

開いていた扉が自然と閉まり、背後に控えている護衛が動き出した。

「ほ~い。慌てなくても大丈夫ですよ~」

「……そのようだな」

深いため息と共にシュニットは手を上げ護衛の動きを制する。

ピタリと止まったメイドたちがこれ以上動かないのを確認してから、シュニットが使用している机の前にその人物が姿を現した。

弟であるアルグスタと、彼の妻であるノイエの義妹であるポーラだ。

「今頃言い訳に来たのか?」

「あはは~。決戦前に英気を養ってました」

「本当か?」

「実は別件で」

「だろうな」

呆れながらシュニットは自分の額に手を当てた。

「それで何をしていた?」

「はい」

恭しく一礼をしてアルグスタは顔を上げた。

「帝国が滅ぼした国に出向いて魔道具の捜索をしてました」

「何か見つかったか?」

「武器として使えるような物は全く無く」

「……そうか」

その言葉にシュニットは苦笑交じりで深く頷いた。

こんな状況でも弟はまだ何か足掻いているのだと感じたからだ。

そうでなければ面倒臭がりの彼がわざわざ城に来ることは無い。回復なり補給なりが終わったら帝都に向かっているはずだ。

「それでどのような用件で私の前へと来た」

「はい」

礼儀を忘れた弟が、頭を掻きながら国王である兄を見る。

「……帝都を廃墟にしたら問題ってありますか?」

「……」

一瞬理解できずにシュニットは目を閉じた。

頭の中で数回反芻し、ようやく言葉の“意味”は理解できた。納得は出来ないが。

「済まんアルグスタ。もう一度言ってくれるか?」

「はい。帝国の帝都を廃墟にする方向で話が進んでるんですけど、やってしまったらどんな問題が起こりますか?」

どうやら相手の言葉が足らなかっただけで聞き違いではないとシュニットは理解した。

内容としては何ら変わらず最悪な物ではあったが。

「……大変な問題が起こるだろうな」

認めたくないが、この弟がそう言っているならそうなるのだろう。共和国とてこの弟を敵に回しただけで国力の半数を失い、現在は苦しい状況に追いやられているのだ。

それを踏まえてシュニットはゆっくりと言葉を選ぶ。

「帝都を失った帝国は国の中枢を失うことになる。つまりは指揮系統の消失だ。現在帝国は拡大路線の弊害から隣国全てを敵にしている。吸収し属国とした国々も帝都の崩壊を知れば反旗を翻す。よって大陸中央に存在する帝国を中心に大きく荒れることとなる。それを踏まえて帝都を廃墟にすると?」

真っ直ぐシュニットは弟を見た。

あはは。お兄様の視線が痛いです。

「物理的に廃墟にもするんですが、落ち着いて考えるとマリスアンって魔女は現在皇帝っぽいんですよね。それを討伐しちゃうと結果として帝国を打倒しちゃうのかな~って」

「……今更それを問うのか? お前は?」

諦めないでお兄様! ちょっと……本当にちょっとだけ、そう言った政治的なあれ~なこととかを忘れていたのです。

僕としては売られた喧嘩を買うって方向で動いていただけですしね。

後始末なんて普段から『他人に丸投げ』が合言葉ですから。

今回もそんな気持ちで居たのにウチの真面目なポーラが気づかせてくれたのです。お兄ちゃんとしては気づきたくなかったけどね。

『兄様。魔女を倒したら帝国ってどうなるんですか?兄様が皇帝ですか?』って、ポーラとしては本当に軽い質問だったんだろう。けれど僕は気づいてしまった。

やった後の面倒ごとにだ。

「どうしましょう? 魔女だけサクッと暗殺とか難しそうなんです」

どこぞの魔女はリグの故郷から奪って行った魔道具と一緒に帝都に居るっぽい。

手ぐすね引いて待っている以上、こっちも出合い頭に大魔法をぶっ放す覚悟だ。撃てる人が居ないけどね。その問題もクリアーせねばならん。頑張れホリー。

「だから帝都を廃墟にすると?」

「結果そうなりそうかなって……あはははは~」

笑う僕に対してお兄様が深く深くため息を吐きだした。

いつも済みません。本当にごめんなさい。ダメな弟を許してください。

疲れ切った感じの兄に対し、僕は心の中で全力で謝罪した。

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