軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

子供を傷つけることは許さない

ユニバンス王国・北部ドラグナイト家別荘

「おいしいです」

「お世辞でも嬉しいよ」

「ほんとうです」

頑張って精神を立て直したポーラが食事を口に運び褒めてくれる。本当にこの子は良い子や。

その隣に座り俯いたままのアイラーンは静かにフォークを動かしていた。

何故ポーラとああなったのかなんて聞く必要もない。

名探偵な僕の推理は完璧だ。

どうせポーラに縋り泣いていたら感情が高ぶって色々と何かを思い出したのだろう。

結果母性が止まらなくなってポーラを我が子の代わりにしてしまったのだろう。

と、ポーラに答え合わせをしたら『その通りです』と返事を頂いた。

「で、アイラーン」

「……はい」

「早朝からの首絞めの理由を聞いても良い?」

「それは……」

スッと彼女の顔が動いて横を見た。

「夫に告げたのです」

「何を?」

「浮気をしたら、他所で子供でも作ろうものなら……貴方を殺すって」

おおう。何故かキュッとお尻の穴が締まったよ?

「彼は普段から『絶対に浮気なんてしないから、何かあったら首を絞めても良い』と言っていたので」

何て勇者な旦那さんなのだろう。

あれ? 昔の僕ってば同じような志だった気がするのですが、気づけば今の僕は浮気王ですか?

否。断じて否だ。僕が悪いのではない。魅力的なノイエの姉たちが悪いのだ。

そしてそれを許してしまうノイエも宜しくない。むしろ浮気を勧めて来るから僕が止まれない。

……は~い。これ以上の自己弁論は恥ずかしいと思います。何より意志の弱い僕が悪いんだと思います。知ってたよ。

「それで魔眼の中で子供の泣き声が聞こえた気がして」

「子供の?」

子供っぽい背丈の人物なら何人か知っているが、魔眼の中に子供は居ないはずだ。

「探してみたら蘇生中のファシーがうめき声を発していただけだった」

それはそれでどうかと思う。

「それでまた元の場所に戻ろうとしたら、ホリーの姿を見つけて別の道を進み……気づけば中枢に。そこで子供の話を聞いてつい反射的に」

「納得した」

ならば仕方ない。

「ねえ? 教えて欲しいの」

「何でしょう?」

顔を上げたアイラーンが僕を見つめる。

「歌姫セシリーンを妊娠させたって本当?」

「ゴホッ」

咽た。気管に何かが飛び込んできたよ。

「本当なの?」

「……確認する手段が無いけど刻印の魔女が言うにはそうらしい」

故に僕はまだあの悪魔の嘘を疑っている。

決して『子供が出来てピンチ!』とか思ってはいない。本当なら産んで欲しい。

セシリーンとの子供なら……娘なら絶対に可愛い気がする。母親は美人だしね。

何よりノイエも喜ぶだろうし、歌姫の子守唄を独占できる子供も羨ましい。

「色々と疑わしい部分はあるけれど、産んで欲しいと思っているよ」

「……そう」

何故かアイラーンは目を細めて笑みを浮かべた。

そっと手を伸ばしポーラの頭を撫でると、彼女は頭を動かし隣に座るポーラの頬にキスをした。

「分かった」

「何が?」

「……本当は手助けする気は無かったけれど、手を貸してあげる」

もう一度ポーラを撫でてアイラーンは真っすぐ僕を見た。

「セシリーンの子供を殺させるようなことはさせない。だからノイエは必ず守る」

「それで良いよ」

「良いの? 必要なら私は貴方を見捨てる」

「構わない」

「……どうして?」

そんなのは決まっている。

「僕に何かあればノイエが悲しむのは分かってるんだけどね……それ以上に好きな人には一日でも長く生きてて欲しいんです。それだけ」

「……そう」

頷いてノイエから色が消える。

普段のノイエに戻った彼女は、とりあえず目の前に置かれている食事に手を伸ばした。

「味が違う」

「僕が作ったからね」

「……」

一瞬動きを止めたノイエが一気に食べ始めた。

「ノイエ落ち着け」

「無理」

「何故に?」

「決まってる」

ベーコンを咥えた彼女が僕を見る。

「全部食べる。アルグ様の料理を」

「はいはい」

全くこの子は本当に可愛いんだから。

その後何故かノイエ対ポーラのフードファイトになった。

「お帰りなさい」

「ええ」

ノイエの体を操ることを止めたアイラーンは、歌姫の声に応えながらゆっくりと立ち上がった。

彼女は華奢と呼ぶか、全体的に線の細い女性だ。詳しく確認すればその原因が痩せすぎだと分かる。

施設に居た頃は生きることに執着しなかったので食事など余り口にしなかった。それか原因で常に痩せた状態だったのだ。

ただある少女が食事を持って『一緒に』と甘えて来る時だけは、吐き気を我慢して料理を口にした。そのおかげでアイラーンはギリギリのラインで命を繋ぐことが出来たのだ。

頬などはこけているが、決して酷い顔立ちはしていない。

適正体重であれば間違いなく美人であろうことが窺い知れる顔立ちをしていた。

「アイラーン」

「だぞ~」

「……」

泣き出しそうな声2つにアイラーンは目を向ける。

その顔を血の色をした手形で汚したレニーラとシュシュが居た。

他にも彼女たちの衣服には赤い手形が付いていた。

「解除してよ~」

「だぞ~」

「……」

小さく息を吐いてアイラーンは2人を見る。

「もう歌姫をイジメない?」

「しないしない。絶対にしない」

「約束するぞ~」

「……」

どうもこの2人は言葉が軽すぎて信用できない。

けれどアイラーンは息を吐いて魔法を解いた。

ズルっと滑るように2人の衣服についていた赤い手形が形を失い床へと流れ落ちる。

「これで良いでしょ?」

「……ぬはははは~! 旦那君の子供を身ごもったセシリーンを許すことは出来ないんだ!」

「…………私は違うぞ! 絶対にセシリーンにも子供にも暴力を振るわないぞ!」

レニーラの反応はいつも通りだ。やはり言葉が軽い。

シュシュは鍛えられていることもあって勘が良い。見逃すことをしなかった。

「なに弱腰になってるの! シュシュも一緒に……あれ?」

レニーラもようやくそれに気づいた。シュシュの顔に赤い手形が残っているのだ。

それはつまり自分の顔にも残っている可能性が……。

「冗談! 本当にちょっとした冗談!」

慌ててレニーラは必死に自己弁論を始めようとした。

けれど遅い。アイラーンが静かに右手を肩の位置まで上げる。

「ごめんなさ~い!」

迷うことなく土下座するレニーラに、そっとシュシュは逃げ出す。

巻き添えを食らうのが嫌なのだ。

「子供を傷つけることは許さない」

「ごめんなさ~い」

ガシガシと床に額を打ち付けてレニーラは謝り続ける。

そうしなければアイラーンの魔法を食らうことになるからだ。

彼女の魔法は凄く痛い。それを知るレニーラは必死に頭を下げ続けた。

「レニーラは殺さないで」

助け舟は壁を背にして座る歌姫からだった。

「良いの?」

「ええ。私はレニーラが優しい人だと知っているから……ただたまに悪乗りしてしまうけれど」

「今回のこれもそれだと?」

「ええ。レニーラもシュシュもただ私に嫉妬しただけだから」

告げながらセシリーンは無意識に自分の手を腹の上に置いた。

「お願いアイラーン」

「……分かった」

この場での魔法の行使をアイラーンは止めた。

「でも効果が切れるまではその手形を残しておくから。理由は言わなくても?」

カクンカクンと2人は全力で頭を上下に振った。

「なら馬鹿なことはしないで静かにしてなさい」

気怠そうな眼差しを2人から離し、アイラーンは中枢を出るために歩き出した。

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