軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

折角なので詳しい話は湯船で

ユニバンス王国・王都内

「ネルネ……」

「何よ? 貴女が柱をぶち抜いたからこんなことになったんでしょう? 私は悪くないわ」

「……もう良い」

折角の非番と言うか、正式の公休である今日の朝一番で幼馴染の襲撃を受け、拉致され、そして出向いた先で全身を埃まみれにしたイーリナは、ジリジリと照り付けて来る太陽を恨みながら歩いていた。

頭からフード付きのローブを纏っているから心底暑いのだ。本当にこの季節は外に出たく無い。

隣で同じように歩くネルネの格好も酷い物だ。

高級品では無いが質の良いドレスが上から下まで埃まみれである。

これで仕事に失敗していようものなら幼馴染に八つ当たり確定だったが、今日の任務は大成功で終えた。これで密売をしている馬鹿な貴族たちに一撃を加えることが出来る。

真昼間の王都で埃まみれの2人が歩く姿は人目を引く。

一応2人で協力してはたき合って埃を払いはしたが、ネルネのドレスの方は洗濯をしても汚れが落ちるかは怪しい。生地の奥に埃が入り込んでしまった感じがする。

2人がこんな姿になったのには訳がある。頭の上から大量の埃を浴びたのだ。

「報告は後回しにするとして……まずはお風呂よね」

「着替えが必要では?」

「そっちは部下に言えば運んで貰えるもの」

適当な返事を寄こしながら、ネルネは時折自分の手を動かす。ハンドサインだ。

王都内には各派閥の密偵が居て、彼女は最近まで近衛の新人育成部門で働いていた。おかげで王都の内を歩けば、仕事をしている近衛派の見知った顔を複数発見するのだ。

「服の手配は終わったわ」

「流石だ」

「貴女の分も頼んだから」

「……フード付きの」

「普通にドレスよ」

言い放つ幼馴染にイーリナの足が止まる。

「ちょっとその辺の店で」

「却下よ却下!」

「止めろネルネ。引っ張るな」

「あら ?私みたいにか弱い女性に引きずられるだなんて」

「何処がか弱いだ。この筋肉馬鹿がっ!」

必死に声を上げるイーリナは自然と地雷を踏み抜いていた。

スルスルと幼馴染の腕が首や腕に纏わりついて来る。それはまるで蛇のようにだ。

「誰が筋肉馬鹿ですって?」

「締まる。息が……」

迷うことなく首を絞めてくる相手に、イーリナは相手の腕をタップして降参した。

「密偵として普通に仕事をしていれば人を絞め殺すぐらいの筋肉はつくのよ」

「……分かった」

ただ相手の尋常ならざる能力を知るイーリナが素直に引き下がっただけだ。

ネルネがその気になれば人の首を捩じ切ることなど簡単なのだ。必要ならば馬の首でも同じことが出来るだろう。

「さあお風呂よお風呂」

「……好きにしてくれ」

こんな時間からやっている風呂があるのか怪しいが、イーリナはそのまま荷物のように運ばれて行った。

「困ったな」

女性としてはだいぶ短い髪を掻いてその人物は辺りを見渡す。

お城へ行く前に汚れを落とそうと思い立ったのだが、時間が悪くどこの風呂屋も営業前だった。

このままお城へ……とも考えるが、登城し報告をすればきっと大将軍が出て来ることは間違いない。

やはり失礼な格好はダメだ。汗と汚れを落とし、着替えて登城するべきだ。

「だがどうすれば」

聞いた風呂屋は全て営業前だ。

特に今は雨期の後の乾期だ。日が長いし日中は暑いので誰も好き好んで真昼間から風呂など入らない。

「失礼します。どうかなさいましたか?」

「えっあっ?」

声を掛けられ彼女は振り返る。

そこにはメイドが居た。長身のメイドだ。

高身長の自分が見上げるほどの同性に会うのは久しぶりだった。

作り物にも見える整った顔をしたメイドは、ユニバンス色と呼ばれる金髪碧眼だった。

『貴族の令嬢か?』と訝しみながら、メイドに向かいゆっくりと口を開く。

「実は登城前に風呂を浴びようと思っていたのだが、時間が悪く」

「そうでしたか。でしたら良い場所がございます。ご案内しましょうか?」

「流石にそれは悪い。場所を教えて貰えれば」

メイドと言う職業柄か相手の申し出は自然だった。

けれどそこまで甘えることに抵抗が生じる。

「ご安心ください。私も今からそこへ向かうので。それにそこは利用者の紹介が無いと入れませんので」

「……そうか。ならば案内を頼む」

「はい。どうぞ一緒に」

慣れた様子でメイドの誘導を受け2人は歩き出す。

「案内感謝します。自分は王国軍所属のリディと申します」

「これはご丁寧に。私はメイドのレイザと申します。特務騎士様」

メイドの言葉にリディは微かに笑った。

「知ってましたか」

「はい。これでもお城勤めなので」

「そうでしたか」

ならばとリディは納得する。

ただ自分は地方巡回の都合あまり城には出向かない。それでも知っているとは余程高貴な相手のメイドをしているのかもしれない。

「失礼ながらレイザ殿はどちらで御働きに?」

「近衛で働いていましたが、能力を買われて現在はある高貴な方にお仕えしています」

「そうでしたか」

詳しいことを言わないのは守秘義務の関係だろうとリディは納得した。

「リディ様は地方巡回を終えて王都に?」

「はい」

リディとしては特に秘密にする事柄ではないので話すことはできる。

ただ仕事で得た情報を語ることはできないが。

「1年ぶりに王都に戻ってきました」

「それは長いご任務で。理由を伺っても?」

「いや……恥ずかしいお話、王都に居ると事務仕事が多くなるのでそれを嫌ってです」

「そうでしたか。流石は『虚空』のリディ様ですね。事務仕事よりも実戦を欲しましたか?」

スッと足を止めた騎士に数歩進んでからメイドは足を止めて振り返った。

「こちらの店が先ほどご説明した、」

「レイザ?」

言葉の腰を折られたメイドはクルっと首を回して自分の背後を見る。

丁度角を曲がってやって来たのは顔見知りだった。

「ネルネに、そのゴミはイーリナかしら?」

「そうよ」

「酷い有様ですね」

「ちょっと仕事で失敗してね。そっちもお風呂かしら?」

「ええ」

頷きネルネはクルっと首を回して頭を元の位置に戻した。

「折角なので詳しい話は湯船で」

「……そうしよう」

本能は『逃げろ』と言って来ていたが、リディは残ることにした。

何となくだが自身の戦いを嗅ぎ分ける嗅覚が、強い匂いをかぎ分けたのだ。

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