軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

親しき仲にも礼儀は必要だ

大陸の南東の位置に存在する国がある。

規模としては小国なのだが、立地に恵まれ地産地消で国家運営が成立する稀有な存在だった。

農地に向いた平地が多く、地下資源も豊富だ。周りの大国はその国を欲して何度と攻め寄ったが、守りに優れたその国はどうにか耐え忍んだ。

何より国家の最強の敵であるドラゴンが数を増やしたことも存続の一因となった。

戦線を長くすればドラゴンに食い破られ補給がままならない。結果として大国は兵を引いたのだ。

長い戦争で疲弊したその国は現在、一番厄介な問題を抱えていた。人材不足だ。

黄金の世代と呼んでも差し支えない一時代があった。ただある事故で優秀な人材を大量に失った。

次の世代と呼んでも差し支えない時代が来ている。問題は優秀だが性格に難の多い若者が大半なのが頭痛の種であるが。

と、このままであればその国は、次の世代と呼ばれる者たちにより繫栄するかもしれない。

ただ……あまり知られていない世代が存在する。

狭間の世代と呼ばれる、数少ない俊英たちが奮闘していた時代のことだ。

ユニバンス王国・王都北側城門

「これは特務騎士様」

王都の北門で警護していた若き兵は、訪れた人物が差し出した紋章を見て緊張し敬礼した。

相手が差し出したのはこの国に数人しか居ない大将軍が認めた特別な騎士だ。特務騎士と言う。

任務の多くは地方の巡回であり、剣の腕と事務仕事の両方に高い力量が求められる存在だ。

「1年の巡回を終え帰還しました。大将軍は現在?」

「はい。シュゼーレ様でしたら現在王都にて勤務中です」

「そうですか。なら通過の許可を」

門を過ぎ中へ入ろうとした騎士は足を止めた。

1台の馬車がやって来て、兵の確認も無く通過したのだ。

「今のは何故確認をしないのですか?」

「はい。ドラグナイト家は第三王子でしたアルグスタ様が当主を務める上級貴族なので」

「そうですか。あの馬車の中の御仁が有名なアルグスタ様ですか」

騎士は感心したように頷き、遠ざかっていく馬車を見送った。

「時間を取らせました。私も中に入りたいのですが宜しいか?」

「はいどうぞ」

兵の許可を得て騎士は門を潜る。

一度足を止めて大きく息を吐く。

「特務騎士リディ……ようやく戻ってきました」

王城に向かい挨拶感覚でそう告げた騎士……リディは真っすぐ歩き出した。

ユニバンス・王都貴族区

「……怠い」

「起きなさいイーリナ」

「全力で断る。私は永遠にゴロゴロしていたい」

「貴女は本当に変わらないわね」

クスリと妖艶な美女が笑う。

年齢は若くも妙齢にも見える。化粧と衣装が作り出すまやかしにも見えた。

対するイーリナと呼ばれた女性は、地面と仲良くしていた。

ゴロリと寝っ転がって横になっている。纏うローブのフードで器用に顔を隠し寝ていた。

「私はようやく最高の職場にたどり着いた。幸せなのだ。あの職場は良い。決められた分の仕事をすれば文句を言われない。賞味期限切れ間近の焼き菓子が山と積まれている。食べ放題なのだ」

「だから最近太ったのね」

『このっ! このっ!』と寝ているイーリナの攻撃を女性は回避した。

「私もゆっくりできる職場に移りたいわ」

「うむ。幼馴染の伝手で私の上司を紹介してあげよう」

「あら? 確か貴女の上司って『絶倫』で有名だった前国王の血を引いているのよね? 何でも前王は一晩で5人のメイドを抱いて腰を抜かせたとか」

「……そうなのか?」

ビクッと震えてイーリナは身構える。

異性と付き合ったことのない彼女は、処女でありそっちの話に免疫が無いのだ。

「貴女の上司は何人のメイドを腰抜けに?」

「……知らない。興味がない」

コロコロと転がり幼馴染が離れていく。

「イーリナ? そんなことを言っていると永遠に処女よ? あの有名な売れ残りの称号を継ぎたいの?」

「それは絶対に嫌だ」

コロコロと戻って来たイーリナが必死に主張して来る。

「あの売れ残りの称号は彼女だけのものだ」

「このままだと継ぐことになるわよ?」

「……本当に嫌だ」

本気で嫌がっている幼馴染の横にしゃがみ、顔を隠している相手のフードを捲る。

童顔で丸顔の愛嬌のある愛らしい幼馴染の顔が姿を現した。

「何をするっ!」

「あら? 私と貴女の付き合いでしょ?」

「親しき仲にも礼儀は必要だ」

「そうね」

クスクスと笑いフードを被り直した幼馴染の肩を叩く。

「そろそろ時間よ。起きてくれる?」

「……怠い」

「起きなさい」

無理矢理手を伸ばし女性はイーリナを起こした。

渋々立ち上がった相手のローブに付いている埃を叩いてやる。

「ネルネは本当に気が利くね」

「ええ。そういう女は異性にモテるのよ?」

「……まだしているのか?」

「ええ。ただ最悪な職場だったから全然羽が伸ばせなかったわ」

「職場は仕事をする場所のはずだが?」

「それを貴女が言うの? イーリナ?」

「失礼だな。私は勤勉だ。決まった仕事をする間は」

「少しは真面目に働きなさい」

「それを君が言うのか?」

「あら? 私はとても勤勉よ?」

ネルネと呼ばれた女性は妖艶に笑う。

「異性を骨抜きにして必要な情報を吸い取る。私ほど働く女は居ないわよ」

「そうか」

苦笑する幼馴染にネルネも笑い。

「君はつまみ食いが多すぎる気もするけど?」

「あら? それは勘違いよ」

「何が?」

「私はね……食卓に置かれている食事は全て食べないと気が済まないね。お残ししたら勿体ないでしょう? それだけよ」

ユニバンス王国、王城内

コツコツとその人物はわざと足音を立てて歩く。

今の仕事は過去とは違い警護と観察が主だ。警護の方は本当に必要なのか怪しくなる。

現在の主人は基本城から出来ない。おかげでずっと観察が出来る。

はっきり言ってあれは珍獣だ。見てて楽しい。愛らしい。

小動物を家で飼って可愛がる貴族の気持ちが良く分かる。見てて癒されるのだ。

「失礼します」

「は~いです~」

ゴロゴロとソファーに横になっている主人が居た。

公務の時間なのにそんなことなど気にせずソファーで横になっている。

「王妃様。お仕事は?」

「嫌です~。したくないです~」

「それは困ります」

「困ってもしたくないです~」

「そうですか。でしたらこのことをシュニット陛下にお知らせ……何か?」

慌ててソファーから立ち上がった主人が駆けて来て腰に抱き着いた。

「それはダメです~。また絵本を読んでもらえなくなるです~」

「でしたら働いてください」

「仕方ないです~。渋々です~」

本当に渋々と言った様子で“王妃”様が机に向かって仕事を始める。

暫くその仕事をする様子を眺めていたが、『紅茶が飲みたい。ケーキが食べたい』と我が儘を言いだす。

ケーキは別口なので仕方なく紅茶だけは準備をする。

「終わったです~」

「おや? また右から左へですか?」

「ちゃんとしたです~。頑張ったです~」

「そうですか」

王妃の前にティーカップを置いて、メイドは砂糖をスプーンで入れる。

一杯二杯と回数を重ねてカップの半分に匹敵する量を入れた。

「どうぞ」

「お仕事の後にはこれです~」

ティースプーンで砂糖をかき混ぜて溶かし、それを王妃は一気に煽った。

「くぅ~! この一杯に生きてるです~!」

ソーサにカップを戻し、王妃は椅子から立ち上がった。

「今日はこの後はお兄ちゃんの部屋に居るです~」

「畏まりました」

迷わず壁に向かい突進する王妃は、壁を押しのけて向こう側に存在する通路を歩いて消えて行った。

「さて。今日の仕事がお休みになりましたか」

クルっと首を180度回してメイドは壁掛けの鏡を見る。

「折角のお暇ですし、この体でも手入れをしますか」

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