作品タイトル不明
叔母様の顔が能面のように!
ユニバンス王国・王城内アルグスタ執務室
「おにーちゃん。流石の私でも怒るのです~。ガオーです~」
「何だケーキか? そっちの残り物で良いなら勝手に食べなさい」
「食べるです~。でも今はお話が優先です~」
と言いながら君はどうして迷わずケーキの元に? 話しはどこに行った?
「甘さの限界の遥かなる向こう側が無いです~! 誰が食べたです~!」
ケーキを見つめるチビ姫が憤慨した。
僕の視線はケーキの皿を抱えて机の下へと沈んでいくクレアの姿を見逃さない。と言うかその聞いただけで口の中が甘くなるケーキは何だ? 前に聞いた甘さ限界系の新バージョンか?
「仕方ないです。質より量です~」
残りのケーキをすべて回収すると、チビ姫は僕らが居るソファーへと来る。
僕の向かい側に移動し、ケーキの皿を持ったままで背後から腰の横の辺りを掴まれて無事に座った。変な言い方だが間違っていない。ただ座ったのがソファーの上ではなくてセシリーンの足の上だ。
「ん~。歌姫さんは優しいから大好きです~」
「あらあら。光栄です。王妃様」
「気持ち良いです~」
甘やかされ王妃扱いをしてくれる。どうやらチビ姫からするとセシリーンは理想的な椅子らしい。
ボチボチ天敵を呼んで、この世の地獄がどんな味だかを思い出させてやろうか?
「おねーちゃん。おにーちゃんから嫌な気配を感じるです~」
「アルグスタ様。小さな子をイジメるのは良くないと思いますが?」
「です~です~」
本気でイラっとして来た。
セシリーンは基本小さな子の味方をする。それと母性が強すぎるのか、チビ姫を子供のように抱き上げては我が子をあやす母親のように振る舞う。それは良い。良く似合っているから大目に見よう。
だが決して忘れてはいけないことがある。あのチビ姫は見た目があれだが実年齢は、
「不穏な空気がプンプンとするです~」
「こらチビ姫! 木の実を指で弾くな!」
「ダメです~。口封じです~」
チビ姫のくせにケーキの上に乗っているアクセント用の砕いた木の実を指で弾いてきやがった。
食べ物を粗末にするな。そんな無礼は年齢を暴露することよりも罪が重いと知れ!
「ポ~ラ~」
「はい。にいさま」
「あの馬鹿の始末を任せた」
「かしこまりました」
まずチビ姫からケーキのお皿を没収し、ついでセシリーンの足の上から床の上へと叩き落とす。空いた席には自分が腰かけ……ポーラが歌姫に甘える状況となった。
「ズルいです~。その胸は私のクッションです~」
「こればかりはおうひさまでもゆずれません」
「あらあら。うふふ」
復活したチビ姫がセシリーンの足の上を奪い取ろうとし、ポーラが迎え撃つ気配を見せる。
けれどそこは歌姫と呼ばれた人物だ。2人を抱き上げて平等にあやしだした。
意外と動じないな人なんだよね。
「で、バカ姫?」
「チビ姫です~」
自ら認めるか。チビを。
「話し合いはどこに行った?」
「はっ! またおにーちゃんに弄ばれて忘れていたです~」
人聞きの悪い。君が勝手に遊んでいただけだろう?
「ノイエおねーちゃんの件です~。もう本番は明後日です~」
「知ってるよ。だから楽曲も決定しただろう?」
当日ノイエは3曲だけ歌うことが決定している。念の為にセシリーンが4曲ほどリストアップしたが、1曲だけは少し怪しいから次点にしたという。その辺の判断は彼女任せだから問題は無い。
問題は僕はまだノイエの歌を聞いていない。
毎晩セシリーンが基礎錬をして燃え尽きるのが、彼女のパターンと化していた。
流石に怖くなって来たからセシリーンに『大丈夫?』と尋ねているが、返事は『ノイエは貴方の自慢のお嫁さんなのでしょう? だったら信じていなさい』と軽く叱られてしまった。
こうなると僕はノイエを愛し過ぎている夫だ。『信じて待とうじゃないか!』となる。
「本当に大丈夫ですか~? です~」
「今の君の状態よりかは遥かに大丈夫だと思っているよ」
セシリーンの胸に頬を寄せて全力で甘えている王妃とか……この国は本当に大丈夫なのか?
「それに舞姫さんの方はどうなんです~?」
「あっちは勝手に準備して当日を迎える人間だから問題ありません」
僕は信じています。悪友が確りと仕上げていることを!
「本当です~? 信じて良いんです~?」
「信じなさい。こっちが信じなければ向こうも信じてはくれないのです」
決まった。何か凄く良いことを言った気がする。
「ん~。普通のことを普通に言われた気がするです~」
何おう? 名言を普通とかぬかしたか? もう許さん。
パンパンと手を叩いたら、チビ姫がブルッと全身を震わせ顔色を悪くした。
「大丈夫です~。あの御婆さんなら今日はお城に」
「お呼びでしょうか? アルグスタ様」
「居たです~!」
慌ててセシリーンの腕から逃れ逃亡を企てたチビ姫だったが、叔母様ではなくミネルバさんの手により捕獲され……この国一番の最強メイドに引き渡された。
「離せ~です~。何で婆が、」
スィーク叔母様に猫持ちされたチビ姫が突如静かになった。
たぶん叔母様が小うるさい存在の意識を奇麗に狩り取ったのだろう。奇麗すぎてその様子が僕の目には映らなかったけれどもね。
「これの後始末を命じるためにわたくしを?」
現王妃を黙らせたことなどどこ吹く風か、叔母様が僕を……ついでにポーラを抱きしめているセシリーンを見つめる。
「後始末と言うか再教育した方が良い気がするんだけどね。ハルムント家で再教育したら?」
「ご冗談を。このようなメイドの才能の無い者を教育するなど貴重な時間の浪費です」
「だったらどうした方が良いと思う?」
「そうですね。屋敷の裏庭の隅に穴でも掘ってそのまま埋めてしまった方が宜しいかと」
「それだと行方不明で面倒でしょう?」
「確かに。ならば事故死と言うことで処理しやすい、池のほとりで痺れ薬でも嗅がせて水の中に落としましょう」
「それが楽かな?」
「むはっ! 何だかとっても身の危険を感じるです~! 離せ~です~!」
暴れたチビ姫が叔母様の手を逃れ床に着地する。
急いで食べ途中のケーキの皿を抱えるとそのまま全速力で逃げてしまった。
「逃しましたか。まあ良いでしょう」
あっさりとチビ姫を見逃した叔母様は、ミネルバさんが運んできた椅子に腰かけた。
「で、アルグスタ? こちらが?」
「はい。噂で伺っていると思いますが、歌姫ことセシリーンです」
「初めまして。只今ご紹介に預かりましたセシリーンでございます。このような格好での挨拶をお許しくださいませ」
ポーラを抱きかかえたままで彼女は頭を下げる。
「アルグスタの知り合いにしては珍しく礼儀作法を知る者ですね」
あ~っはは~。笑っておくしかないやん。
だって仕方ないのだよ。ノイエの姉たちは基本自由人ばかりなのだから。何より目上の人に対して緊張するとかレニーラぐらいだしね。
「舞姫に次いで歌姫までも……アルグスタ。貴方はどれほどの人材を隠しているのですか?」
「残念ながらセシリーンはグローディアの手の者ですよ」
「そうなのですか?」
「はい」
驚いた様子で叔母様がセシリーンを見つめる。
歌姫さんのポーカーフェイスはノイエ並みだ。表情から心情を察するとかは不可能だ。
ただ何故かポーラがさっきからジッと僕のことを睨んでいるのだが……何か彼女を怒らせるようなことをしたか? 後で頭を撫でてご機嫌取りでもするとしよう。
「して歌姫。グローディアの所を出て何故王都に?」
「それは……」
叔母様の問いかけに一瞬セシリーンの顔が微かに上を向いた。
「正直に告げて宜しいのでしょうか?」
「ええ構いません」
「失礼な言い方になりますが?」
「包み隠さずに」
「なら」
クスッと笑ったセシリーンから若干の悪意を感じた。
「家出とも言えるのですが……あの我が儘王女の傍にいると息が詰まるので、気分転換に逃げてきました」
「……」
叔母様の表情が無に!
「あの人は我が儘が過ぎるのです。気が短いし、自分本位だし、何より思い込みが激しいので周りの者たちの気など知ろうともしませんし」
「……」
止めて~! 叔母様の顔が能面のように!
容赦ないセシリーンのグローディア批判に、僕以外の全員が叔母様から視線を逸らしていた。
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