作品タイトル不明
せんぱい。だいすきです
ユニバンス王国・王城内アルグスタ執務室
「ノイエが逃げ出すのは想定外だったな」
「あら? 私はそんな気がしていましたけど」
「そうなの?」
自分の執務室に戻りポーラがせっせとお茶の準備を進めている。
あ~もう面倒臭い。ポーラさんや? そこの書類の山を始末して貰っても良いですか?
陛下の呼び出しなどもあっておやつの時間なのに仕事が全く終わっていないのです。
僕が妹様に禁じ手をお願いしようかと思っていたら、何かを察したミネルバさんが咳払いをしてくる。
もう叔母様の所のメイドさんは真面目過ぎて困る。
「ノイエはとても臆病なんですよ」
「あ~。その気は確かにあるよね」
臆病と言うか慎重と言うか……で、許容範囲を超えるとパンクして目を回すのがノイエである。
「それに彼女が居た場所は役立たずから淘汰される場所だったから。私のような尖った能力があればどうにかなったのだけれども、ノイエは常に廃棄処分の憂き目に晒されていたから」
「とりあえず過去に戻ってその施設の関係者全員に生き地獄を味わせたいよな」
「ノイエの旦那様?」
「気にしないで。ちょっとした本音だから」
「旦那様?」
本音だから仕方ない。
あんな愛らしいノイエが常に死ぬことに怯えていたとか本当に許せん。
過去に戻る魔法とかありませんかね?
「にいさま。のみものです」
「ありがと~」
ポーラが紅茶をすすめて来たので我慢する。
セシリーンは紅茶を差し出してきたポーラの頭を撫でている。良く出来た妹でしょう? もっと褒めてあげてね。
「今日のケーキは?」
「はい。おみせでうれているものをあつめました」
「そっか。セシリーンは甘い物は?」
「人並みに好きです」
「そっか」
人並み以上にケーキを愛する馬鹿2人が早速漁っているのはいつものことだ。
ポーラが馬鹿2人の間に割り込んで……気のせいか拳骨を振り下ろして2人を黙らせなかったか? 頭を押さえて蹲る2人を無視してポーラがケーキを運んで来る。
あの2人はケーキの匂いを感じれば勝手に復活するから問題無いか。
僕にはいつも通りの小振りなオーソドックスな物を、セシリーンにはベーシックな物をポーラがチョイスした。
「おねえさま」
「あら? ありがとうね」
ケーキをフォークで割ってポーラがセシリーンの口へと運ぶ。
こう言う場面を見るとセシリーンが本当に盲目なのでと理解できる。
「ん~っ!」
「おいしいですか?」
「ええ。とっても」
満足そうにセシリーンがケーキを食べ続ける。
ポーラが一生懸命に差し出している姿が愛らしい。
「それでセシリーン」
「……何かしら?」
「陛下からの申し出はどうするの?」
「それね。正直どうしたら良いのかしらね?」
ですよね?
ただ保険を欲した陛下はセシリーンに対し鎮魂祭への参加を申し出た。
一応態度保留中だが……こればかりは断るのも難しい。一番手っ取り早い方法としてはセシリーンに魔眼の中に戻って貰うことだ。
それなら後で僕が怒られるだけで済む。
ケーキを食べるのを止めセシリーンは手にしているティーカップをそっと口へと運ぶ。
一度口の中をさっぱりさせてから彼女は僕に顔を向けた。
「ところで……私は戻れるのかしら?」
「帰れるんじゃないのかな?」
「どうなのかしら? 今回は正規の段取りを踏んでいないし」
「それは僕にも正直」
そっと両手を上げてお手上げのポーズをする。
宝玉を使わずに外に出て来たセシリーンは、今日の夜になると戻るのかすら謎である。
もし戻らないのであれば、陛下からの申し出は受けられるのだが。
「ノイエが歌えれば問題無いんだけどね」
「そればかりは私にも分からないわ」
ちょっとお師匠さん? そこは師匠として責任持ってよ~。
「でもあの子は頑張り屋だからどうにかするわよ」
「そう願います」
本当に頑張って。ノイエ。
ユニバンス王国・王都近郊上空
「ん~」
軽い発声から、足取りも軽くノイエは宙を舞う。
踊りの練習に歌の練習……時間が全然足らない。
だからいつものお仕事も『手抜き』だ。お腹が空くから仕方ない。練習の時間もない。
空中で舞いながらドラゴンを見つけては手刀でその首を刎ねる。
普段ならそこから裂いて捨て場に投げるのだが、今日はそのまま投げ飛ばす。
死体を処理する人たちは大変かもしれないが、お姉ちゃんたちと遊んでから頑張るから待ってて欲しい。
舞い踊るように体を動かし、ドラゴンの首を刎ねては頭部と胴体を投げつつ発声を続ける。
「む?」
ふと視線を向けたら彼と姉が居た。
2人でケーキを食べていた。あれはズルい。
「む~」
拗ねながらノイエはドラゴンの尻尾を掴んで捨て場に向かい投げつけた。小さなクレーターが出来たがノイエは気にしない。
やっぱり自分は出来ない子だから仕方ない。もっと頑張らないとダメだ。
「まだまだ」
宙を蹴ってノイエは次なる獲物に襲い掛かった。
ユニバンス王国・王城内アルグスタ執務室
ズズーンとお城が揺れた。
本日のノイエはちょっと荒れ気味か?
「セシリーンがノイエに厳しくするから拗ねてるのかな?」
「違うと思うけど」
耳を澄ました彼女が小さく笑う。
「発声しながら踊りの練習もしているみたい」
「それで退治されるドラゴンって?」
「気にしない方が良いと思うわ」
「確かにね」
ノイエの超機動を用いれば、そんな曲芸だってあっさりとやってのける。
本当に僕のお嫁さんは無敵だよな。
ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸
「きゅぅ~」
「……」
無敵だと思っていたノイエさんが本日も燃え尽きている。
セシリーンのスパルタ指導で完全に目を回している感じだ。
「ノイエ大丈夫?」
「無理」
「うんうん」
「寝る」
コテンと持ち上げていた頭を枕の上に落としてノイエは急速潜航した。
大丈夫か? 昨日今日とセシリーンが言うには基礎中の基礎でノイエが燃え尽きているぞ?
「間に合うの?」
「どうかしらね」
「お~い」
ベッドの上の住人であるセシリーンは本日も薄手の寝間着だ。
我が家所属のメイドさんは何ら疑問にも思っていない様子だが、ミネルバさんだけがセシリーンの服装に首を傾げている。
たった1人の不穏分子が叔母様印の武闘派メイドとか……どうすれば口を塞ぐことが出来るのだろうか? 最悪誰かに頼んで物理的に? それは本当に本当の最終手段だしな~。
何よりあんなにポーラが懐いている先輩さんを殺めるとかできない。別の方法を考えねば!
ドラグナイト邸・ポーラ自室
「せんぱい」
「なんでしょうか?」
「しばらくおやしきでみたことは、ひみつにしてください」
「ですがポーラ様。私は先生には」
ニコニコと笑みを浮かべて寄って来る小柄なメイドに対し、先輩である彼女は壁際へと追い詰められた。
逃げ道は無い。
ドラグナイト邸は有事の時に砦としての機能も兼ねているので壁が厚い。殴っても簡単には破壊することが出来ない。
「せんぱい」
「ですから私は」
「だめなんですか?」
「……」
笑顔が涙色へと染まっていく。
胸を引き裂かれるような罪悪感にミネルバは心の中で膝を屈した。
「しばらくですからね?」
「はい」
「後で報告はします」
「はい」
ニコッと笑いポーラは大好きな先輩に飛びつき抱きしめる。
「せんぱい。だいすきです」
「~っ!」
天にも昇る喜びにミネルバは反射的に相手を抱きしめていた。
これはあれだ。主人たるポーラが急に床に落ちたりしたら大変だからその予防策だ。
何度も自分にそう言い聞かせてミネルバはポーラを抱きしめ続けた。
ドラグナイト邸・夫婦寝室
色々な問題が残っているけど、まあ寝て起きてから考えよう。
「旦那様」
「はい?」
そっと手を伸ばしてくるセシリーンの白い手を掴む。
昔から室内に居ることが多かったらしい彼女は、日焼けとか無縁だ。奇麗で白い肌をしている。
「寂しいので手を繋いでてください」
「寂しいの?」
「はい」
ベッドで横になっている彼女が小さく頷く。
「皆が見える物が見えないのは独り取り残されるような気がして」
「そっか」
指と指との間に指を挟みこむ恋人繋ぎをして、セシリーンの横に寝っ転がる。
「僕とノイエにこうして挟まれていれば寂しくないでしょう?」
「そうですね」
また笑いセシリーンが……何故足を絡めて来る? どうしてゆっくりと僕の上に覆いかぶさろうとしてくる?
「セシリーン」
「はい」
マウントを制した彼女が僕に顔を向けて来る。
「せっかく外に出れているので存分に旦那様と愛を重ねようかと」
「やっぱりか~!」
確りと襲われた。
で、途中で起きたノイエも加わりがっつりと襲われた。
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