軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黄色いフワフワさん

ユニバンス王国・王都貴族区内王弟屋敷

「そうなの? 本来のディアちゃんは決してそんな子じゃないんだけどな~」

「ですが歌姫はそう告げていました」

冷ややかな相手の表情など目も向けず、ソファーに座る女性はマイペースだ。

ただ周りに居るメイドたちからすればたまったものではない。出来れば今すぐにでもこの場から逃げ出したいのが本音だ。

「ん~。だとするとディアちゃんが悪ぶっているのか、歌姫が嘘を言っているのか……スィークはどっちだと思う?」

「歌姫の言葉が正しいかと」

「あん?」

前王妃の睨みに前メイド長の背後に控えていたメイドたちが、我慢できずにサーっと蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

だが相手が誰であろうがメイド長の辞書に『撤退』の二文字は無い。

スィークは異形の姿をしている前王妃を見つめ返した。

「もともとグローディア様は甘やかされて育っていました。特に甘やかしていたのはどこぞの王妃だった人物ですが。結果としてあの方は性格に難のある育ち方をしたのだと」

「違います~。女の子は甘やかして育てた方が奇麗に美しく育つんです~。荒れ地に奇麗な花は育たないんです~」

拗ねに拗ねている人物を前にスィークは深いため息を発した。

「ラインリア様」

「何よ?」

「そんなに拗ねても鎮魂祭への参加は許されませんから」

「だからどうしてよっ!」

憤慨しラインリアは手近な場所に存在するテーブルを叩く。一瞬で粉々になったテーブルは決して古くなっていたり腐っていたりなどしない。けれど粉々に砕けた。

どこかの我が儘婆が駄々をこねるので、スィークは毎日のように王城に出向いては現国王に『ラインリア様からです』と粉々に切り裂いた手紙だったゴミを手渡すのが日課となっていた。

苦笑する国王からは何ら文句は言われない。前国王夫妻が顔を出すのは今回だけは避けて欲しいからだ。

それを理解しているはずなのに子供のように駄々を言う存在に、スィークは努めて冷静に口を開いた。

「今回の鎮魂祭は現国王夫妻……特に現王妃が主体となって執り行うものです。そこに隠居した爺と婆が参加するなど空気を読んでいない証拠です。

我が儘を言わずに屋敷で尻でも掻いて寝てなさい」

口調は冷静だが、内容は過激だ。

余程前メイド長が面倒臭くなってきている事実を痛感し、弟子であったメイドたちは身の安全の為に2人からより距離を取る。

「婆じゃないです~。今だってこの肌は水を弾くんです~」

「そうでしょうね。大半が鱗ですものね」

『はっ』と鼻で笑うメイド長だった人物に流石のラインリアもプチッと来た。

「ねえスィーク? 気のせいかさっきから喧嘩を売られている気がするのですが?」

「ええ。分かりますか?」

「分からないとでも?」

額に青筋を浮かべラインリアは立ち上がる。

その腕には孫にあたるエクレアを抱いているが、丁度良いハンデぐらいにしか思わない。

「私がエクレアを抱いているからって本気を出さないとでも?」

「ええ。出すでしょうね」

冷ややかに笑い、スィークは丁度良いリハビリ相手を挑発する。

ただ目の前の存在は正直化け物だ。人が勝つには難しい。

「命乞いするなら今なんだからね。鎮魂祭に行きたいのに……みんなから引き止められているこの恨み辛みを力に変えて八つ当たりしてあげるわ」

「そうですか。ならばこちらも本気を出しましょう」

スッと身構え、スィークは手にしている杖を両手で持つ。

「そうそうラインリア」

「何かしらスィーク?」

「その胸の子供の母親は……今の状況を見たらどうするかしらね?」

「っ!」

気づき視線を巡らせたラインリアはそれを見つけた。

紅茶の支度で離れていた2代目メイド長が……ティーセットをメイドに押し付け笑えない気配を発していることに。

「フレア!」

慌てて声を上げるラインリアだが、非公式の『娘』であるメイドは穏やかに笑う。

「……ラインリア様。スィーク様と戯れるのは構いません。ですがこれ以上続けると言うのであればエクレアをこちらに」

「嫌よ!」

ギュッと孫を抱きしめラインリアは吠える。

「鎮魂祭にも行けない私からエクレアまで奪うと言うの! 貴女たちはメイドの姿をした化け物よ!」

その絶叫にフレアの対応が決定した。

パンッとスカートの上から太ももを叩くと、特殊な形状をしているスカートが見る見る広がる。それは影を広げるかのように静かにだ。

「ラインリア?」

「何よ!」

エクレアを抱いて2人のメイド長に挟まれた前王妃は流石に焦りを見せる。

この2人を相手に容易に勝てるとは思えない。

相手の様子を手に取るように理解しているスィークは静かに笑った。

「今の貴女を見ていると歌姫の不満が事実としか思えないわ?」

「ちっ違うから! ディアちゃんは優しくていい子なんだから!」

「なら貴女は悪い子? 赤子を人質に我が儘ばかり言って」

「違うから~!」

その絶叫が開始の合図となった。

「何があったんだ?」

帰宅した王弟ハーフレンは、せっせとメイドたちが整地している中庭を眺めた。

「ラインリア様とスィーク様がまた」

「いつものじゃれ合いか」

じゃれると呼ぶには被害が酷い。

誰がこの修理費を捻出するのかと考え……いつもの2人の喧嘩なら、父親とハルムント家に請求を回せば良いと理解した。

「いつも通り請求書は」

「ハーフレン様」

「何だ?」

言葉を遮って来たメイドの様子にハーフレンは言いようの無い不安を感じる。

何故今日に限って自分の専属である彼女は出迎えないのだろうと……思ってしまった。

喧嘩はしていない。今朝はちゃんと起きて文句も言わずに仕事に向かった。拗ねられるようなことはしていない。

「今回はフレア様も一緒となって……」

「分かった」

額に手を当ててハーフレンは頭を振った。

人のことをとやかく言う割にはこうして自分も……と喉まで出かけた不満を飲み込んだ。

「それでフレアは?」

「はい。エクレアさ……エクレアを連れてお風呂に向かいました」

「そうか。それで喧嘩した2人は?」

「はい。『まだ終わりじゃない』と言って何故かハルムント家に」

「……好きにさせておけ」

ほとほと疲れた様子で頭を振って、ハーフレンは爪先を風呂場へと向けた。

「請求は3等分して各所へ」

「はい」

指示を飛ばしながら彼は服を脱ぎ捨てる。

「それとあの馬鹿を少し叱って来るから誰も近づけるな。良いな」

「畏まりました」

投げ捨てられる服を拾い集めながら、メイドは下着姿で脱衣場へ向かう主を見送った。

ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸

本番は明後日だ。こちらの予定は……まあ完璧だろう。

あとは当日にレニーラとホリーを呼んで完璧な舞台を執り行うだけだ。

問題があるのは僕だけだ。

流石に歌姫が居るのに舞台に立たせないことが問題になって来た。

暇な貴族たちが陛下に掛け合い明日は僕の大嫌いな呪われし場所、大会議室で行かねばならん。

まあ良い。ある種計画通りだ。残りの問題は……身内だけだ。

「ノイエ」

「……はい」

セシリーンと一緒に横になっていた彼女が起きた。

全裸なのはいつものことだ。セシリーンも全裸さ。最近ノイエが大人しくなったから2人を同時に相手しても僕が燃え尽きることは無い。全てはノイエ次第だけど。

余程眠いのかノイエのアホ毛に元気がない。へにゃっとしている。

「お願いがあるんだけど?」

「なに?」

目を擦り彼女は僕を見た。

「僕が今から口にすることを続けて言ってくれる?」

「はい」

「黄色いフワフワさん」

「黄色いフワフワさん」

「出て来ないと」

「出て来ないと」

「大っ嫌いになるぞ」

「大っ嫌いになるぞ」

「良く出来ました」

「良く、あむっ」

眠そうにしているノイエを抱きしめてキスをしたら……彼女の色が黄色くなった。

「酷いぞ旦那君!」

そして全力で泣き出した。

「確実でしょ?」

「だからって!」

「分かってます」

憤慨する彼女を抱きしめてそのまま押し倒す。

「……旦那ちゃん?」

怒っていた表情が真っ赤に染まり、彼女は恥ずかしそうに視線を彷徨わせる。

「お願いがあるんだ」

「……ズルいぞ」

「知ってる。でもお願い」

「……もう」

表情が緩んでシュシュがキスして来た。

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