作品タイトル不明
貴女はだんだん眠くな~る
「頑張って来なさい。ノイエ」
「はい」
ノリノリのノイエがアホ毛を揺らして部屋を出て行く。
それを見送ったホリーは、ノイエの姉のように立派に振る舞っていた。が、 解(げ) せない。
どうして僕がベッドの上で車のタイヤに轢かれたカエルのように伸びているの?
それはね……ホリーとノイエが2人がかりで僕に襲い掛かって来たからなんだよね。
どうしていつも通りになるの? 昨夜のホリーの反省は何だったの? お姉ちゃん宣言は?
よ~く思い出してみよう。最初ホリーは……ある意味理想的なお姉ちゃんでした。
僕の我が儘を優しく受け入れてくれるとても優しいお姉ちゃんで、全力で甘えていたら……もう1人ホリーを『お姉ちゃん』と呼ぶ存在が居たのです。ノイエです。
ずっと見学していたノイエさんは、目の前の展開が好ましくなかったのか、突然起き上がるとホリーに対して甘えだした。
『ノイエどうしたの?』『学べない』『何が?』『お姉ちゃんは教えてくれる人』『……』
僕の我が儘だけでなくノイエのリクエストにも応えないと、本当のお姉ちゃんじゃないとばかりに変なスイッチが入ったホリーは、最初『少しだけ……ノイエが満足したらすぐに止めるから』と言い出した。
ついつい応じてしまった僕も悪いんだろうな。
何より『少しだけ……』とか『一度だけ……』とかダメな人の見本みたいな台詞だよね。
結果として少しで終わらず、ノイエと協力して襲い掛かって来たのです。
空っぽだよ。真っ白だよ。
上機嫌でノイエを見送ったホリーがこっちを見て何故か不思議そうに首を傾げる。
見た限りは美人で愛らしくて胸の大きなエロい体をしているのに……その本性が貪欲すぎる底なしの肉食獣だ。やはりホリーは基本出て来て貰わない方が良いのかもしれない。
「グッドモーニング~! お兄様~!」
悩むホリーを尻目に元気よくポーラの姿をした悪魔がやって来た。
ひと目と言うか、その口調で分かる。何よりポーラは遠慮を知る女の子だ。
「って、何で轢かれたカエルみたいに?」
ベッドの横に立ち悪魔が驚く。同意見に僕も驚きだよ。
「全く……あれほど襲っちゃダメだと言ったのに」
「申し訳ありません。魔女様」
何故かホリーが土下座した。全裸土下座だ。
「どうして襲っちゃうの? やっちゃうの? 獣なの? 本能で生きてるの?」
「つい何かこう……飲み込まれてしまって」
「それがダメって言ってるの。このままだと本当に捨てられるからね?」
ガバッと顔を起こしたお姉ちゃんが、絶望の向こう側に到達したような表情を浮かべている。
ただし悪魔の言葉を否定できない。正直……もうあまり出て欲しくないかも?
「ごめんなさい! アルグちゃん!」
ガツガツとホリーが床に額を打ち付け謝りだす。
「何でもするから! だからお姉ちゃんを捨てないで!」
うわ~。完全に精神的に病んでる人のセリフだ。
「捨てないでじゃないの」
ギュムっと悪魔がホリーの後頭部を踏んづけた。
すげーな。魔女ってあんなことをしても許されるんだ。
「性欲ばかり前面に出して襲い掛かるから避けられるの! もっと自制心を育てなさい」
「……はい」
グリグリとホリーの頭を改めて踏んで、悪魔がその足を離した。
「見た目は良いんだし、胸だって大きくてエロイんだから……きっともう少し大人しくなれば、この馬鹿は貴女を呼ぶ回数が増えるわよ?」
「本当なの! アルグちゃん!」
と言うかノイエの体で出てきたら誰でも一緒なんだけどね?
ただ大人しいホリーを相手にするのは決して嫌じゃない。だって僕は健全な男子だしね。
「だからまず服を着ることから覚えなさい。直ぐに脱がない」
「はい」
「着替えは、これ」
「はい」
「仮縫いだから優しく着て」
「はい」
若干ノイズが走った気がする。仮縫いって何だろう?
悪魔から着替えを受け取ったホリーが立ち上がり着替えだした。
着替え終わった姿を見てビックリだ。最近来ている街娘風ではない。
全体的に黒くて……もしかしてあれは網タイツか?
「まさかっ!」
「うふふ。バニーガール風~」
そう。ホリーが着たのはバニーガール風の衣装だ。ただ全体的に作りが甘い。
「仮縫いしたのをお店から借りて来たんだけど……やっぱりもう少し胸の下をキュッと締めないとダメね。重さで零れそうだし、防御力が弱すぎる」
「うんうん」
「それにうさ耳が間に合わなかったのよね。私としては垂れ耳系が好きなんだけど、どうする?」
「流石師匠です。一生ついていきます!」
「うむ。共にコスプレ道を究めようじゃないの」
ケタケタと笑う悪魔はどうでも良い。ただ着替え終えたホリーがこっちをジッと見ている。
「ねえ? アルグちゃん?」
「なに?」
「こんな私でもこれを着たら興奮してくれるの?」
恐る恐るな問いかけは返事に困る。
ホリーは中身に問題があるだけで外見と言うか容姿などは一級品である。まあノイエの中の人たちは美人揃いなんだけどね。
「興奮はするかな? 良く似合ってるし……」
正直に告げる。似合っている物を違うと言うのはやっぱり変だしね。
ただ返事を受けたホリーの顔が見る見ると元気に、そして笑顔になった。
「……魔女様!」
「何かしら?」
ガバッとまた床に伏して、ホリーがバニー土下座だ。白い丸い尻尾がフリッと揺れた。
「私にもっとご指導を!」
「自制しなさい。以上」
「はは~!」
神のお告げを聞いたかのようにホリーが畏まる。
落ち着こうねホリー? この馬鹿の中身はただの問題児だ。で、腐女子だ。
決して崇めるべき存在じゃない。
「自制を思い出したら、まずベッドで伸びているこのお馬鹿の着替えを手伝ってあげなさい」
「宜しいのでしょうか?」
「宜しいかって……貴女はお姉ちゃんである前に、この馬鹿のお嫁さんなのでしょう?」
ハッと何かを思い出したかのようにホリーが驚く。そんな姿に僕も驚いたよ。
「そうだった……私はアルグちゃんのお姉ちゃんで、お嫁さんなのよ。お嫁さん……お嫁さん? うふふ……あはははは~」
「また変なスイッチが入ったわね」
呆れながら悪魔が宙に文字を綴ってそれを押す。
壊れたように笑っていたお姉ちゃんが、ビクッと全身を震わせて一時停止した。
「あ~。本当に面倒くさい」
「もしも~し?」
「気が散るから黙ってて」
スッとホリーの前に移動した悪魔がエプロンの裏から何かを取り出す。
五円玉らしきくらいの物に糸を括りつけた……まさか?
「貴女はだんだん眠くな~る。眠いでしょ? 寝ても良いのよ。ただし起きたら笑っていたことを忘れましょう。大丈夫。貴女は出来る子だから……はいっ」
「……はっ! 私は何を?」
「大好きな旦那様の着替えを手伝うの。着替えはあっちの棚の中」
「はい。待っててね。アルグちゃ~ん」
楽し気に部屋の隅に置かれているタンスへと向かうホリー。
フリフリと揺れる白くて丸い尻尾がエロイ。
ただ僕の視線はその誘惑から逃れた。
悪魔がいそいそと何かしらの道具を仕舞うのに気づいたからだ。
「なあ? 魔女さんよ?」
「何かしら?」
「ホリーに何をした?」
「……何もしてないし~」
クネクネとタコ踊りを開始して悪魔は逃げようとした。甘いっ!
腕に魔力を流し、魔法を発動する。
重力操作の魔法を食らった悪魔は、両足で踏ん張ってその場で耐えただと? 余計な場所で根性を見せるなよ!
「追加を食らいたくなければ白状することだな?」
「ふっ……笑止。私は決して他人からの脅迫に屈したりはしない!」
「ホリー? ちょっとそこのチビメイドを全裸に剥いて全身舐め回してあげて~」
「アルグちゃんがそれを見たいと言うなら!」
「嫌よ~! それは嫌ぁ~!」
あっさりと屈して馬鹿が壁際で膝を抱く。
「ちょっと精神を病みすぎているから催眠術で操ってるだけなのに……」
「その発想も十分病んでると思うぞ?」
「だって~」
拗ねたポーラがハタと気付いて立ち上がった。
「忘れてた。舞台の打ち合わせをするんだった」
「打ち合わせ?」
「そっ」
クルっと一回りして、ポーラの姿をした悪魔がポーズを決める。
「最高の舞台には完璧な裏方の進行が必要なの。全体の流れを把握して予定通りに進められる進行役がね」
クスッと笑いポーラは笑う。
「だって最高の舞台にするって言ったでしょう?」
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