作品タイトル不明
私はアルグちゃんのお姉ちゃんだから!
「ふあっ!」
大きく声を発してまた1人果てた。
拘束に使っていた長い髪を外して相手を床に捨てる。
ダメだ。もっと凄い物が作れそうな気がするのに……どうしてここに居る者たちは限界の向こう側を覗こうとしないのだろう? 仮にその先が深淵だとしても人の好奇心は止められないはずだ。恐れるな! 覗いた先に新たなる何かが存在しているのだ!
それなのに全員が手前で踏ん張る。
唯一少し耐えてみせたのはシュシュぐらいか。それだって直ぐに果ててしまった。
こんなのじゃ満足できない。乾ききった心が全然満たせない。もっともっと……心を満たして欲しい。全てを満たして欲しい。
「そんな禍々しい玩具……よく作ったわね?」
「……魔女か?」
ゆら~ゆら~と左右に体を動かしている存在は、どう見ても正気ではない。
日に日に常軌を逸していたようにも見えたが、ここ最近で一気に堕ちてしまっていた。
故に刻印の魔女は指を動かし宙に文字を綴ってそれを魔法とし、相手に向かい放つ。
逃れられないと理解しているのか、それともこの状況でも何か企んでいるのか……青髪の痴女、ホリーは魔女の魔法を食らい指先一つ動かせなくなった。
「で、どうしてそんなに精神を病んでしまったのか……お姉さんに話してみない?」
「病んでいる? 私は普通よ。それなのに周りの人たちが……」
ブツブツと痴女が不満を口にする。
「私はただアルグちゃんが好きなの! 大好きなの! 彼の為なら喜んで何でもするわ! だって私は彼が好きで彼も私が好きだから!」
「うんうん」
「それなのに周りのみんなは私のことを『病んでる』って! 違うの! きっとみんなもアルグちゃんの良さを知れば、彼がどれほどすごいのか分かるはずよ! だから私はこれを作ったの! 彼の物を正確に模倣して作り上げたの!」
作ったのがあの魔剣を作り出す変人だと魔女は知っていた。
ただこの手の人種は止めない方が良い。
支離滅裂でも、好きなだけ、気が済むまで吐き出させた方が良い。
「ようやく満足できる物が出来たの! だからみんなにアルグちゃんの良さを……良さを?」
完全に飛んでいた目に僅かだが光が戻った。
「アルグちゃんの良さを知ってもらいたかったのに……どうしてみんなこれを恐れるの? これは凄く良い物よ? これがあれば、アルグちゃんが居なくても……」
「そうかいそうかい。やっぱり貴女は賢すぎるのよ」
笑って魔女は拘束している魔法を解いた。
ガクッと崩れるように……相手は床に両膝を突いた。
「だって私はただただ彼のことが好きなのに! 大好きなのに!」
床を叩いて泣き出す。
「便利な女だって良い! 都合のいい時だけ使われる存在でも良い! だけどせめて私と一緒に居る時は私だけを見て欲しいの!」
「辛いわね」
「辛いわ! この胸が張り裂けそうなほど! こんな道具を作って自分を慰めようとしてしまうほど! 私はただ彼のことが好きなの! 大好きなの! 愛しているの! それなのに彼は違う相手を次から次へと……」
また思考が脱線を開始した。
完全に精神を病んでしまっている相手の闇が深すぎる。
「……そうよ。みんなを刻んで外に出れなくすれば良いのよ。私しか出れないのならアルグちゃんはいつも私だけを呼んでくれる。そうすればきっとアルグちゃんも私を愛してくれる」
「それはお勧めしないけれど?」
「何で? だって私しかいなければ……」
「貴女に対処できない問題が起きたら? 彼が苦しむ姿を貴女は望むの?」
「……望まない。だって好きだから……」
床に崩れ落ち涙する相手は、悲恋の末に苦悩する街娘にしか見えない。
奇麗だしスタイルも良いのに本当に残念だ。彼女用に飛び切りの衣装をデザインしたと言うのに……このままでは外に出せない。
「だから私は貴女に会いに来たのよ」
「どうして?」
「貴女は重要なことを忘れ、彼に接していると助言を与えるために」
「……重要?」
神にでもすがる様な目でホリーは魔女を見た。見上げた。
悪魔の笑みを浮かべる魔女をだ。
《なんで私が精神科医のようなことをしなくちゃいけないのよ》
ブチブチと胸の内で文句を言いながら魔女は魔眼の右目へと戻った。
ここは平和だ。誰も何も邪魔する者はいない。代わりに煩わしく思うものがたくさんあるが。
適当に腰かけて息を吐く。
《今回の舞台には全体の指揮を担う天才的な存在がどうしても必要。それを務めて欲しいだけなのに……何で精神を病んでいるのよ? 馬鹿なの?》
ただ中身は天才だ。精神が狂っているだけで。
「まあ良いわ。あとはあっちがどうにかするでしょうし……こっちは舞台の準備よ」
ノリノリで立ち上がり、魔女は改めて今回の舞台の設計を見直す。完璧のはずだ。
「歴史に名前を残すわよ~!」
これが刻印の魔女と言う人物でもある。
「アルグちゃん。聞いて欲しいことがあるの!」
何かちょっと呼び出そうかと思っていたお姉ちゃんが向こうから出て来た。と言うか勝手に湧いて来た。不意打ちだ。装填は終わっていない。援軍はまだか?
しおらしくベッドの上で女の子座りをしているが、中身はホリーだ。肉食系のボスだ。
「何でしょうか?」
余りの間に耐えられず恐る恐る質問をする。
けれど僕のことをジッと見つめている彼女は何故か泣きそうな顔をして顔を逸らした。
「本当なのね」
「何がですか?」
「アルグちゃん……私のことが怖いのね?」
ノーコメントで!
じゃなくて怖いと言うか、恐ろしいと言うか、生きた心地がしないと言うか……ホリーの愛が重すぎるのと貪欲すぎる肉食系が悪いのだと思います。
「そんなことは、」
「良いの! 分かってるから!」
「……」
何か本日のお姉ちゃん……ウザいな。
「私が悪かったのよね? アルグちゃんが気絶してても跨って……でも違うの! あれは本当にアルグちゃんのことを愛してて、ずっと一緒に居たかったのよ!」
一緒に居たいのなら跨らなくても良くないですかね? それを質問できない僕が悪いんですかね?
「でもお姉ちゃん気づいたことがあるの! 違う……刻印の魔女様が私に教えてくれたの!」
ちょっと待て? 今、誰に『様』を付けた? あの魔女……また余計なことを!
「分かっているわ。違う……ずっと前からアルグちゃんは私のことをそう呼んでいたのだから!」
「えっと……」
一方的に話が進んで怖いんですけど? 何よりずっと沈黙してこっちを見ているノイエさんも怖いんですけど? また新しい何かを教えてもらえるとか思って見学しているでしょうか?
これは反面教師にしないとダメな人だからね! 何よりこんなことでみんなして宝玉使わないで~! そろそろ鎮魂祭が近いから、時間調整に入ろうね~!
「さあ! アルグちゃん!」
バッと両腕を広げてホリーがウエルカム状態です。
「大丈夫! 私はアルグちゃんのお姉ちゃんだから!」
「……はい?」
何を言ってるんでしょうか?
「魔女様は言ったわ! アルグちゃんはお姉ちゃんに甘えたいのに……それなのに私が出る度にアルグちゃんに跨ってしまって甘えられなかったのでしょう? だから甘えられるリグとかを呼んでいたのよね? リグなんて胸だけの存在なんだから……それ以外で私が負けることは無いのよ」
笑顔だった表情が段々と無に。落ち着こうかお姉ちゃん?
「はっ! いけないわ……私はお姉ちゃん。アルグちゃんのお姉ちゃん。気持ちを大きくどんな無茶でも受け入れられる存在になるの。良し!」
心の声が丸聞こえだな!
「あの~ホリーお姉ちゃん」
「何かしら?」
「今夜はこのまま静かに過ごすと言うのは?」
「あんっ?」
一瞬ホリーの本性がその顔に浮かびましたよ?
「と言うか落ち着こうか? お姉ちゃん?」
「……そうよね。お姉ちゃんまた変な声出しちゃった」
ただ本性が出ただけですよね?
「甘えられるのは嬉しいんですよ。たぶん」
「うんうん」
「ただね……回数がね……」
「回数?」
首を傾げるホリーにそろそろ言うべきだ。
で、次はレニーラにも言う。最後はノイエにもだ。
「一回の回数が多すぎますから! 僕の体が耐えられないから!」
「……えっ?」
衝撃的な事実を告げられたような表情は何? ついでに奥に居るノイエも似た雰囲気を出してるし!
何なの君たちは! おかしいでしょう!
「お姉ちゃんに甘えたいけど、でも甘えたら枯れるまで求めるでしょ? あれが辛いからお姉ちゃんを呼ぶのを躊躇しちゃうんだよ!」
言った。ついに言ってしまった。これは逝ったか?
「……そうだったのね」
ただホリーが悲しそうに顔を俯ける。
「お姉ちゃん……ダメね。自分のことばかり考えてた」
「お姉ちゃん」
「うん。平気。これからは気を付けるわ」
顔を上げてホリーがニッコリと笑う。ようやく彼女に僕の気持ちが通じた!
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