作品タイトル不明
抵抗するな! ホリー!
もっと早くにおかしいと気づけ!
あれほど愛が深すぎて病んでいたホリーが短期間で回復するなんて有り得ない。
それこそユーリカの魔法でも使用しないとダメだ。ただ精神操作の魔法は失敗例しか聞かない。使わない方が良い気がする。
ならどこぞの魔女の催眠術は?
たぶんこれはあの五円玉の形をした何かしらのアイテムを使って無理矢理やっていると思った方が良い。
何故ならあの馬鹿は、先ほど舞台云々と言っていた。
鎮魂祭までホリーがある程度正気を保っていれば良いと思っているんだろう。下手をしたら反動で重度の病ん堕ちしたホリーを押し付けられるのか?
いつからこの 異世界(せかい) は精神と苦痛の部屋を完備した? 神様もビックリだぞ!
大変に拙い。宜しくない。
「どう? アルグちゃん。苦しくない?」
「あっ大丈夫」
「良かった」
甲斐甲斐しく世話をしてくれるホリーは……今のホリーは理想的なお姉ちゃんだ。完璧だ。涙が出て来る。
問題はその姿がバニーだ。少し動くと胸の部分から中身が零れる。それでも僕の着替えが優先だ。アカン……本当に泣けてくる。
どうすれば良い? どうすれば……助けてエロい人~!
「なら今日はお城に行って舞台演出の話し合いよ。私は準備してるからそっちは適当に服を着せてからお城へ向かいなさい」
ウインク一つ残して悪魔が消えた。
そしてウチの可愛い妹様が元に戻り、慌てて駆け寄って来るとホリーの中身が出ている胸を隠す。
「きがえてください」
「嫌よ。この姿だとアルグちゃんが喜んでくれるの!」
「……僕としては完成した服を見たいな?」
「もう。アルグちゃんったら……待っててね。何ならお姉ちゃんが全力で仕上げるから!」
落ち着けホリー。脱いで仕上げようとしない。君の腕ならば確かに仕上げることも可能だろう。
「今日はそっちの服を着て。お願い」
「もうアルグちゃんったら~」
甘えた声を出してホリーが脱ぎ散らかしている服を身に纏った。
街娘の完成だ。本当にホリーは外見だけなら完璧だ。これで中身が伴えば……ん?
ポーラが脱ぎ捨てられたバニー服を広げているのを見て気づいた。
カウンセラーが居た。本物が居た。荒療法になるかもしれないがこの手があった。
「ホリーお姉ちゃん」
「何かしらアルグちゃん?」
満面の笑みを浮かべてホリーが僕を見る。
愛らしい笑みなのに目が……その奥が死んでいる。厳密に言うと腐っている。病んでいると言う方が正しいのか?
「一緒にお城へ行って欲しいんだ」
「うん。良いわよ」
迷いがない。即答だ。
「もちろん僕の横に居てね? 腕に抱き着いててくれたら嬉しいかも」
「……良いの? こんなお姉ちゃんが抱き着いても良いの?」
「うん」
頷いたら感激のあまりに涙しながら、ホリーが僕の右腕に抱き着いた。
「でもホリーの正体がバレると大変だから……ちょっと変装してね」
「良いわよ。それぐらい」
嬉しそうに腕に抱き着いてくるホリーの胸がやっぱり凄い。リグより劣るがやはり大きい。
気のせいかポーラの目が死んでいるようにも見える。気のせいだろう。
「ポーラ」
「はい。にいさま」
「ちょっとお願いがあるんだけど……」
作戦を始めようか。
ふう……と息を吐いて私は仕事道具を机の上に置いた。
もう何日と仕事をしている。けれど終わる気配はない。周りが体調を心配して『休め』と言うけれど別に休みなんて要らない。休むぐらいなら仕事をしている方が遥かに良い。
下手に休みを得れば次に言われる言葉は分かっている。『毎日閉じこもっていると体に良くないよ?』だ。外に出たく無いからこもっているのだ。
日の光が恋しくなったら窓際で十分日の光を浴びる。
何より自分は外に出ない方が良い。
好きになれないこの容姿が……嫌でも異性からの視線を集めるからだ。
「仕事しましょう」
たぶんこれは天職だ。
服を作るのは本当に楽しい。何よりオーナーの妹が持ち込んでくるデザイン画が素晴らしい。この世の物とは思えない発想だ。あんな物を見せられれば職人魂に火が付いてしまう。
今日だってずっと新しい衣装を縫っていた。超特急の依頼だ。
鎮魂祭で使われるメインの踊り子が着る衣装だとも言っていた。
大変な名誉だ。手抜きなんてできない。ただどうして衣装が2着なのかは分からない。途中で着替えるのだろうか? それだと寸法が合わないが。
「コリーさん。居る?」
「あっはい」
ノックと共に外から気軽な声が聞こえて来た。オーナーの物だ。
彼は元王家の王子であり、今も上級貴族家の当主だと言うのに気軽さを好む。偉ぶる様子なんて微塵も無い。いつも気怠そうに笑い、時折ケーキを差し入れてくれる。本当に良い人だ。
ただ彼の視線が胸を見るのは仕方ない。男性とはそういう生き物だと理解している。
「暴れるな馬鹿。ポーラ。そっちを掴んで。……開けるね~」
「はぁ」
暴れる音が聞こえてから部屋の戸が開いた。
部屋と言っても店舗の裏手に存在する商品置き場だ。中古の服を直して販売しているので広い作業場が必要であり、広いからとその場所に住み着いただけだ。
服に囲まれて過ごすのは精神的に落ち着けるから嫌いではない。
ズルズルと人らしいものを引きずり入って来た人は、やはりオーナーとその妹だった。
「ごめんコリーさん。ちょっとお願いがあるんだけど?」
「はい」
良く分からずに首を傾げる。
彼は強引に自分の前に引きずって来た荷物を置くと、頭に巻かれている布を剥ごうと頑張りだす。
巻かれている布を必死に掴み抵抗するのはどうやら女性のようだ。
長い髪が……青くて艶やかな長い髪が溢れ出る様子に、私は自然と全身を振るわせた。
私と同じ髪質に見えたからだ。
「抵抗するな! ホリー!」
「……っ!」
声を発せず必死に抵抗していた女性の顔から布が剥がされ、慌てて彼女は床に伏して顔を隠す。
呆れ果てた様子でオーナーたる彼が……好きにしてと言わんばかりに手に持っていた布を床に投げ捨てた。
「ちょっと実のお姉さんに、この精神を病んでる娘さんをどうにかして欲しいと思ってね」
「……ホリーなのですか?」
呟き溢れ出る涙を止めることは出来なかった。
両膝を床に着いてコリーさんはただ涙を落とす。
最初は必死に声を我慢して……でも次から次へと溢れて来る涙が引き金になって、彼女は声を上げた。
女性がこんな風に泣く姿を見るのは失礼だと僕も学んでおります。
そっと回れ右をして背後に待機していたポーラを見る。
「にいさま?」
「姉妹の再会だ。あとで弟さんに声をかけるとして……今はまずお姉さんがあれを独占する時間です。邪魔は許しません。もし魔女が邪魔をするなら全力阻止してちょ」
「……ししょうはそんなにひどいことはしません」
静かに貰い泣きをするポーラはまだあの悪魔の本性を知らないのだろう。
あれは他人の不幸で白米を食する性悪だ。間違いない。
コリーさんだけだった泣き声が、気づけば2人分になっていた。
毅然とした感じで振る舞っていたというホリーだって、家族の前ではただの妹でしかないらしい。
まあホリーは家族大好きっ娘だからな。
ああそうか。僕に似てるのか。ホリーって。
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