軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔女なんてならなければ良かったわね

仮初の心を消すのは簡単だった。

魔剣の封印を解けば疑似的に植え付けられた心が消える。

故に少女にはそれが施され……そしてまた絶望の中で沈む存在へと戻った。

「エウリンカ」

「はっきり言えば専門外なんだけどね」

魔剣と言う領域を逸脱した注文に茂みの中から引きずり出された魔法使いが頭を掻く。

長い髪に枯葉や枯れ枝が付いているが気にする様子もない。美人なのに色々と残念な存在なのがエウリンカだ。

「なら出来ないんだな?」

「……出来ないとは言っていない。難しいが」

「難しいから出来ないのか?」

「だから出来ないとは言っていない。……出来るとも」

「それだったら頼んだ」

「全く……材料の問題があるのだがね」

ブツブツと文句を言いながら、エウリンカは材料を求めスタスタと歩いていく。

普段見かけない美人の登場に数多くない男性たちが色めき立つが……相手があのエウリンカだと知ると波が引いて行った。

あの奇人と付き合いたいと思う精神の持ち主はこの場には居ないのだ。

薄汚れた魔法使いを見送ったカミューは大きく息を吐いた。

腕や足の至る所が痛むが、日々それなりに回復はしている。全ては薬草を育て傷薬を作り続けるパーパシのおかげだ。

「カミュー。何してるの?」

「舞姫か」

「だよ~」

重い足取りでやって来た相手に、カミューはどう説明したものかと悩み頭を掻く。

「さっきエウリンカと話してたよね?」

「ああ」

素直に認め場所を移すことにする。

リグが寝床にしていた立木の下に座り、カミューは舞姫の問いに答えることとした。

今自分の行動は計画の範囲内であるが勝手に動いていることを自覚している。だからこそ説明する機会が生じることを理解していた。

故に舞姫への説明だ。普段の振る舞いから頭の中身が薄いと思われがちだが、舞姫たるレニーラは決して馬鹿の類ではない。

賢いのかと問われれば首を傾げてしまうが、それでも彼女は人並み以上に知恵が働く。

「ユーリカがあっさりとノイエに施した仮初の心を壊して見せたのか知ってるな?」

「うん。あんなに暴れていたノイエが……」

舞姫の言葉が続かない。暴れていた少女は落ち着きはしたが、代わりに魔法を施す前の状態に戻ってしまった。絶望の中に沈み人を殺すことを命じられるのを待つ少女にだ。

「仮にユーリカたちがノイエへの魔法を成功したとする。だがあのエウリンカの魔剣に何か不具合が生じたら?」

「……心が壊れる?」

「その可能性がある。だからエウリンカに命じて魔剣の強化と対策を命令したってところだ」

「ん~」

小さく首を傾げてからレニーラは大きく頷いた。

「本当にカミューはノイエが大切なんだね」

「……どうかな?」

「そうだよ。よっ! お姉ちゃん」

ぴょんと跳ねるように立ち上がり、レニーラは何処か楽しそうに走っていく。

その後ろ姿を見送ったカミューは……軽く顔を伏せた。

「私は結局誰も守れてはいないんだ。本当に情けなくそして……」

顔を上げカミュは苦笑する。

「薄情な女だよ」

これが上手くいってもこの場所の未来は明るくない。

だからこそカミューは考えていた。あの少女にどうやって未来を残すのかを。

「ノイエ」

「殺す。誰を殺せばいいの?」

「うん。分かってるよ」

ほとんど寝ずに色々と試行錯誤を繰り返したユーリカは、病的なまでに頬をこかしていた。

周りの者たちは『自業自得』と言っているし、ユーリカ自身も認めていた。

自分の命を賭してノイエを救う方法を必死に模索し続け、ようやく具体的な方法を決めた。

下手を打てばただの無駄死にになるかもしれない。

それでもユーリカは覚悟を決めていた。

「ノイエ」

「誰を殺せば」

「殺させてあげる」

口を閉じ少女が自分を見つめる。

その心を真っ黒にし絶望に深く沈んでしまった少女がだ。

「だから私の目を見て。お願い」

「……はい」

今までとは違う方法でユーリカは魔法を施す。

自分たちの妹は決して弱くないと信じて。

頑固で甘えん坊で……そしてとにかく優しいのが自慢の妹なのだからと。

「貴女が殺す相手は……この私よ」

「は、い」

「出来るかしら? 貴女に?」

「する。必ず殺す」

「そう」

弱々しく笑う。ユーリカは頑張って妹に笑いかける。

自分が全ての罪と絶望を背負い少女を助けると胸に誓い……笑いながら相手を優しく抱きしめた。

「どういうことだ?」

「決定事項だ」

「ふざっ」

激昂するカミューをその場に居た者たちが総出で制した。

中央の建物から出て来た男は事務的に口を開く。

「ユーリカのたっての願いにより、明日の正午よりノイエという少女との決闘を行う。以上だ」

告げられた言葉に何も知らなかった者たちが息を飲む。

無論少なからず話を知っていた者たちですら、王女や魔女ですら息を飲んだ。

「ふざけるなっ!」

レニーラやジャルスたちによって押さえつけられたカミューは吠えた。

「そんなことさせられるか!」

「お前に決定権など無い。それにこれは両者が行うと認めあった物だ」

冷たいまでにそう告げ男は中央に戻ろうとする。

「こちらもあんな使えない少女にばかり時間をかけていられ無いのだ。さっさと処分して戦える駒を増やさねばならない」

「ふざっ!」

増々激高し起き上がろうとしたカミューが沈黙した。

音もたてずやって来たカミーラが彼女の頭を蹴って黙らせたのだ。

手加減の欠片も見えない蹴りに、流石のカミューですら意識を失い沈黙した。

「明日だな?」

「……そうだ」

仲間を殺す勢いで蹴り飛ばした女性に対し、彼は完全に怯え逃げ腰になる。

ここに来てようやく自分が今居る場所の正体を思い出したのだ。

殺人鬼たちの巣窟だと言う事実をだ。

「明日の行いは決定事項だ。邪魔は許さん」

そう言い残し男は駆けて逃げて行った。

「ユーリカとノイエは?」

「てっきり仮初の心作りの方法を模索しているのだと思って……迂闊だった」

「過ぎたことね。仕方ないわよ」

一応見張りとして置いておいた魔剣使いの報告を受けた王女はため息を吐く。

あの魔法使いは見張りの隙を見てノイエを抱え中央の建物に駆け寄り、そして頼み込んだのだ。

自分とノイエの決闘を。というよりも失敗作の処分を自分の手で付ける申し出をだ。

ユーリカの才能を評価している者たちはその申し出に飛びついた。

早く失敗作を処分して次なる作品を……成功作を望んだのだろう。

「最低ね」

「ええ。そうね」

本を読んでいた魔女は手を止め、そっと顔を上げると視線を中央の建物へと向けた。

「馬鹿げた選択をしたとしか言えないわ」

「でも彼女はそれを選んだ」

「そうね」

言って魔女はまた視線を本へと向け直す。

「ただ私たちが思っている選択と彼女が選んだ選択が同じとは限らないかもしれないけれど」

「何よそれ?」

「ただの独り言よ」

告げて魔女は息を吐いた。

余りにも苦しすぎて胸が押し潰されそうになる。

魔女は知っていた。

ユーリカがどんな選択をしたのかを。

何故なら彼女の魔法の手助けをしたのが魔女だからだ。

だからこそ胸が痛む。激しく痛む。

結局魔女となり、罪人となり、死人となっても……誰も救えない自分の存在が小さく思えて。

《魔女なんてならなければ良かったわね》

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