軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

私はノイエに自分自身を殺させることを

「どうしてよ!」

ヒステリックな声を上げたのは舞姫だった。

可愛がっていたノイエが多少なりとも元に戻るかもしれない……その希望が打ち砕かれて耐えられなくなったのだ。

「何とか言いなさいよ!」

「なら端的に言ってあげる」

他者を拒絶するような厳しいいつもの雰囲気をさらに強めた魔女が静かに口を開く。

「魔法は成功した。ノイエの元々の心は魔剣に封じ込んだ」

「ならどうしてノイエがあんな風になるのよ!」

大きく腕を動かし舞姫が指示した場所に彼女は居ない。

代わりにあるのはちょっとした血だまりだ。魔法を施す際に少女を抱きかかえていた者の血だ。

「その理由が分からないから『失敗』なのよ」

「この~!」

激昂し魔女に飛び掛かろうとした舞姫が空中で動きを止めた。

ジタバタと激しく手足を動かすが……彼女が纏っている衣服が開けていくだけだ。

その場に居た男性たちは周りの女性たちの貫くような冷たい視線に気づき、紳士的に視線を逸らす。逸らさなければ物理的に色々と危ない場所だからと理解している。

「あのさ~。暴れるのは良いんだけとね? そんな八つ当たりしても解決はしないよ」

「煩い! この魔法を解け!」

「あはは~。これは魔法じゃないから」

笑いながらレニーラを拘束していた女性は自分が放った術を解く。

胴体に巻きついていた蔦が離れレニーラは地面へと戻った。

「正直私はノイエがどうなろうが……話を最後まで聞いて欲しいんだけど?」

全体的に緑色をした異世界人を先祖に持つ女性に凶悪な視線が集中する。

『今のは不用心だったな~』と内心で冷や汗を流しながら、女性は言葉を続けた。

「えっと私の場合は生まれと育ちのせいで普通の人と考え方が違うんだよね。ノイエは可愛いけど……でも私たちがその可愛さをずっと味わっていたいからって無理矢理生かすのはどうかなって思うんだ」

「つまり?」

「ん~」

レニーラの声に女性は頬に指をあてて一瞬考える。

「人は必ず死を迎える。どんな時、どんな場所、どんな状況かは人それぞれだけど、生まれて来た以上その絶対の法則から逃れることはできない。ノイエだってそうだと思う。あんな状態にして生かすなら……私はね、静かに終わらせてあげるのも優しさだと思うんだ」

シャーマンと呼ばれる一族の出である女性の言葉に誰もが口を閉じる。

あんな状態で生かすぐらいなら……その言葉が重く心にのしかかるのだ。

「お前の言いたいことは分かる」

「おっ流石ジャルスだね」

自分の意見に賛同する相手に体を向け、ガッチリと両肩を紫色した女性にホールドされた。

「だがノイエに対する言葉としては少し許せないな。あっちで話し合おう。拳を交えて」

「いや~! それって最初から拳しか使わない会話だから! 誰か~って全員無視っ! ちょっと酷くない? ここは自分の意見も言えないの!」

「当り前だろう? この場で発言したお前が悪い。エリスタ」

「いや~! 自然に還っちゃう~!」

エリスタと呼ばれた女性はズルズルと引きずられていき……遠くで悲鳴が途切れた。

しばらくするとパンパンと手を叩きながらジャルスが戻って来る。

「エリスタは?」

「ん?」

レニーラの質問にジャルスは軽く頭を掻く。

「自然に還してやったよ」

「具体的に」

「童心に帰って寝小便したんで放置して来た。生まれたままの姿で幸せそうに寝てるよ」

「……それはそれで色々とあれだね」

命を奪われなかっただけあのシャーマンは運が良かったとも言える。

一度息を吐いてレニーラは改めて魔女を見た。

「もうノイエは直らないの?」

「……ユーリカが確認しているわ」

ため息交じりで魔女が答えた。

「問題はあの獣と化したノイエが大人しくユーリカの言葉に従うかどうかだけど……」

「どうにかするんじゃないかな?」

ため息交じりでレニーラも答える。

「今のユーリカならノイエに殺されるって分かれば喜んで死にそうだもん」

「……そうね」

ただその覚悟を持つ者は意外とこの場には多い。

問題は『今』のノイエに対してその気持ちを維持できるかは……疑問が残るが。

「殺す殺す殺す殺す……」

「少し我慢しようか? ねえ……ノイエ」

フワっとしたいつもの感じをかなぐり捨てて全体的に黄色く見える魔法使いが、ボタボタとその頬に汗を滴らせる。

首に巻いた魔道具のおかげで自分の魔力が制御しきれない。暴れ馬のようにはしゃぐ魔力が恨めしく思えてならない。

それでも魔法を使うことを止めるわけにはいかない。

可愛い妹が……壊されてしまった妹が言っては欲しくない言葉を口にして暴れているからだ。

「もう限界なんだけど?」

「……分かっているわよ」

同じように魔道具を首に巻いた桃色髪の女性が、ようやく構築した魔法で少女の目を覗き込んだ。

ありったけの魔力を目から放つ。

「ころっ!」

ガクッと全身から力が抜けて少女は沈黙した。

「何をしたの?」

「許容を超えさせるほどの負荷をノイエの頭の中に掛けた」

「……つまり?」

「勉強のし過ぎで頭の中が破裂した感じよ」

「納得」

優秀なのに真面目にならない天才児がフワフワと揺れ動きながら何かを探す。

「これか?」

「おっとありが……大丈夫~?」

差し出された縄を受け取り相手を見た黄色……シュシュは、その痛々し気な様子に顔を顰める。

「どんなに腹が減っても人を齧るなって教え忘れていたな」

「普通~人を~齧って~食べないで~しょう~?」

「ノイエだぞ? 分かったもんじゃない」

苦笑してみせるのは気絶した少女が最も懐いている姉だった。

腕や足など至る所に包帯を巻いている。その全ての傷が妹が噛みついて出来たものだ。

「ねえカミュー?」

「何だシュシュ」

「……カミューならノイエを殴って気絶とか簡単に出来たよね?」

揺れるのを止めて問うてくる相手にカミューは苦笑してみせる。

「私に妹を殴れと?」

「愚問だったぞ~」

冗談や躾で出来ても本気の攻撃を繰り出すことが出来ないのはシュシュも同じだった。

シュシュの手を借りカミューは妹を縄で拘束する。何かの間違いで舌を噛む……噛んだところで治るだろうが、それでも念のために口の中に布を入れ、それが取れないように口を塞いだ。

「それでユーリカ。確認の方は?」

「これからよ」

暴れる少女に手を焼き確認の方は全然進んでいない。

桃色髪……ユーリカは改めて拘束されている少女の瞼に指をやり、閉じられているそれを開いた。

「魔力は足りるのか?」

「根性で絞り出すわ」

「そうか」

カミューの言葉に若干苛立ちつつも、ユーリカはどうにか構築した魔法を近いその目の奥を覗きこんだ。

ユニバンス王国・王都内スラム廃墟

「結果からすれば簡単なことだった。ノイエが心を黒く塗りつぶしたのは私たちが原因……その私たちが、私が作り出した仮初の心は最初から真っ黒だったのよ。だからノイエは暴れた。自分の心の衝動に従い暴れたの」

息を吐きユーリカはそっと涙を拭って亡者を袈裟斬りにする。

「それから私はどうすれば真っ白な心が作れるのかを考えた。考えて考えて……たどり着いたの」

軽く顔を伏せ、そしてユーリカは自虐的に笑う。

「私自身がある意味で純粋な気持ちになることを……死に際ならば流石に純粋に迷わず正直にノイエだけを愛して、彼女のことだけを考えられるだろうって」

深く深く息を吐く。

「だから決めたの。私はノイエに自分自身を殺させることを……黒い心がどれほど嫌なものかを彼女に知ってもらおうとね」

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