作品タイトル不明
ガインさんの実家
「準備はいいか?」
私たちは雪解けを待って、ガインさんの実家に行くことになった。
雪が解けたとはいえ、それでも外はとても寒い。朝はまだ息が真っ白になるくらいだ。
厚着をしてコートを手に持ち、おじいさまも一緒に家を出る。
ガインさんの実家は馬車に乗って、王都から半日もかからずに着くらしい。
「手土産は持ったか?」
「はい、おじいさま」
おじいさまと一緒の初めての旅。うふふん。
テッドさんが手綱を握り、道案内の為にガインさんはテッドさんの横に座る。
私はウキウキして馬車に乗り込んだ。
「おじいさまぁー。寒くないですかぁ?」
「なぁに、このくらい。それよりお菓子を持ってきたから、後で食べような」
おじいさまは私の手を取って目じりを下げる。
でもいくら頑丈とはいえ、馬車が揺れると体力を消耗するし。本当に大丈夫なのかな?
師匠なんて、コートまで着込んでいるのに。
私は用意してきた毛布やクッションなどを、おじいさまと師匠に配る。
「嬢ちゃんはいつも気が利くな」
師匠が目を細めると、おじいさまも私の横でクッションを抱えて嬉しそう。
「マリーはこっち」
いきなりハートさんに腰を持たれて、膝の上に乗せられた。
「あ、おじいさまぁ……」
ハートさんの横にいた師匠が無表情で、私がいたおじいさまの隣に移動する。
おじいさまもスンと無表情だ。そこはツッコんで貰いたかった。
仕方なく私は、ハートさんから降りて師匠がいた場所に座り直す。
あれからハートさんは別人のように私に甘い。もはやスイーツ。
目が合っただけでドキドキしていた当時が懐かしいわ。
私もこのくらいじゃ動揺しないくらいには成長したし。
それを成長と呼ぶのかは知らないけれど。
「そういえば、師匠やフェルネットさんはガインさんの実家に行った事があるのですよね?」
「うん。おばさんの作るシチューが最高においしいんだ。冬だからきっと食べさせて貰えると思う」
なんですって!
ご飯を食べに行くわけじゃないけれど、それはそれで期待しちゃう。
「王都のお店じゃ、シチューを出さないですよね?」
「あれは各家庭で代々受け継がれていく料理だしな。それぞれの家庭で味が違うんだ」
おじいさまがそう言うと、師匠が「ガインの家のは美味いんだ」とほっこり顔だ。
私が知っているクリームシチューやビーフシチューとは違うのかな。
「ハートさんはお茶やフルーツだと柑橘系が好きですが、お料理もそうなのですか?」
私の腰に腕を回していたハートさんが、ぎゅっと私を引き寄せる。
ははは。何か地雷でも?
「マリーは俺が、柑橘系のお茶やフルーツが好きな事を知っていたのか?」
「え? はい、まぁ……」
ハートさんが嬉しそうに微笑んだ。
うそ。バレていないと思ってたんだ。
ここにいる全員が知ってるからか、みんな笑いを 堪(こら) えて顔を 背(そむ) けた。
意外な天然炸裂に、ちょっと可愛いと思ってしまう。
「ははは。マリーは甘めに煮た肉が好きだよな!」
「はい、おじいさま! あれは美味しいですよね!」
流石おじいさま。
すぐにこのむず痒い変な空気を吹き飛ばしてくれた。
そんなどうでもいい話をしていると、馬車は静かに止まりガインさんが振り返って前の窓を叩く。
「おい、町に着いた。身分証を出せ」
もう? 本当に近いんだ。
これならちょくちょく行き来していたのも頷ける。
朝、家を出た私たちは、お昼前に到着した。
門衛に身分証を確認されて中に入ると、緑の多いとてもきれいな街並みだった。
王都の石造りの家や村の土壁と雰囲気が全然違う。みんな木の家だ。
「ちょっと声かけてくるから、荷物を降ろしとけ」
門をくぐってすぐにあるガインさんの家もダークウッドの丸太で造られていて、ログハウスみたい。
玄関の前には大きなカバードポーチが付いていて、石畳の道がそこから伸びている。
いつものようにがちゃがちゃと騒ぎながら馬車から降りていると、ガインさんは玄関ドアから顔を出して『そこに荷物を置いて入れ』と手で合図をした。
私たちは手に持った大荷物を、その屋根付きのポーチにいそいそと並べる。
テッドさんが馬を繋いで戻って来たので、みんな揃って家に入った。
「おじゃまします……」
あったかーい。
暖炉に火が入っていて、部屋の中はとても暖かい。
その暖炉には石で出来た台があって、そこに魔獣の頭蓋骨と角がドーンと置かれていた。
部屋の中心には赤や黄色の派手なクッションの置かれたソファーがあり、部屋中に魔獣の骨や皮や謎の装飾品が所狭しと飾ってある。
あ、あれはガインさんの部屋にもあった奴だ。
あれって趣味じゃなくて、魔除け的な何かだったのか……。
「会ったことがある奴もいるが聞いてくれ。これが俺のおふくろとおやじだ。で、これが妹のラウラだ。このちっこいのは甥のベルク。その隣が妹の旦那のビーガーな」
ガインさんによく似た妹のラウラさんは、可愛らしい小さな男の子を抱いていた。
その横で、細くて優しそうなビーガーさんがニコリと笑う。
「いらっしゃい。あなたがマリーね」
大柄で見るからに明るそうなガインさんのお母様が、大きな手で私の手を握る。
「初めまして。マリーです。ガインさんには小さな頃からずっと育てて貰いました」
私がぺこりと挨拶をすると、これまた体の大きなお父様が私のもう片方の手を取った。
「昔からずっと話は聞いていたぞ。やっと会えたな、俺の初孫」
そう言ってデレデレに目じりを下げている。
そっか。私は孫になるんだ。ということは、お 義祖父様(じいさま) ?
そしてこっちのおじいさまも二人と挨拶すると、みんな 各々(おのおの) で挨拶を始めた。
「もう、挨拶はそのくらいにして座ったら?」
苦笑いしたラウラさんが、子供を抱っこしたままソファーに座る。
その声に、みんなガヤガヤと喋りながらソファーに移動した。
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「……というわけで、俺はマリーの親になる決心をしたが、双子の妹のリリーは重罪人だ。甥のベルクの事もそうだが、ビーガーの家族にも影響するからな」
昼食を軽く頂いた後、ガインさんが事の経緯を詳しく説明する。
ガインさんの家族は黙ってそれを聞いていた。
「分かった。でも、紙っぺら一枚で俺たちの関係は変わったりしないぞ。俺たちは一生家族だ。がはははは」
ガインさんのお父様がいち早く沈黙を破り、豪快に笑い飛ばす。
「そうだよな! わはははは」
「そうよ! まさか心配したんじゃないんでしょうね? まったくこの子ったら。あはははは」
「本当よ。兄さんったら。はははは」
ガインさんの家族はみんな明るく豪快に笑い飛ばした。
ガインさんの言った通りだったけど、本当に言った通りだ。
「だから言ったろ? 余計な心配はいらねぇってな」
ガインさんが私の横に来ると、嬉しそうに私の頭をゴリゴリ撫でた。
うふふ。なんだかちょっぴりくすぐったい。
これからこの人たちが、私の家族なんだ。
そう思うと、心があったかくなった。