作品タイトル不明
報告と報告
コン、コン、コン。
「ガインさん。今、少しお時間を頂けますか?」
「おう。入ってこい」
部屋の中からガインさんの声がした。
ああ、緊張する。
ハートさんが挨拶する前に、一応私から先に報告するべきだよね。
この世界の結婚情報誌が欲しい。
常識や段取りが分からない。
私は意を決してガインさんの部屋のドアを開けた。
部屋には相変わらずよく分からない置物がたくさん置いてある。
どれもピカピカって事は、毎日磨いているのかな?
想像すると笑いそう。
「ガインさん。実は……」
「まて!」
ガインさんが胸に手を当てて「待ってくれ」とソファーから立ち上がり、テーブルの方に移動した。
「そこに座ってくれ」
「はい」
よく分からないけれど、ガインさんがそう言うのでテーブルの方の席に着く。
ガインさんは姿勢を正して深呼吸をした。
「よし。いいぞ」
「ハートさんと結婚することに決めました」
ガインさんは 顎(あご) が外れるくらいに口を開けて、そのまま背もたれに倒れ込む。
なんで?
「ガインさん?」
「そっち? そっちならそっちって言ってくれよ。心の準備があるだろうが」
そっちってどっちよ。と考えてからポンと手を打った。
「ああ、あっちの件もありました!」
私の中では処理済みだったので、そう言えばガインさんに返事をするのを忘れていた。
「あっちの件は……」
「まて!」
ガインさんは再び姿勢を正して深呼吸をする。
必要な儀式なのかな。
まあいいや。
「リリーとちゃんと話し合いました。正式に私たちの父になってください」
「そうかー。そうかー。とうとう俺に、双子の娘が出来るのかー……」
ガインさんは目を 瞑(つむ) り、腕を組んで何度も頷いている。
「リリーとも話しましたが、彼女は犯罪者です。ガインさんのご家族に許可を貰いに行きたいのですが……」
するとガインさんは片目を開けて「俺の家族に?」と 訝(いぶか) しげな顔をする。
「ガインさんには小さなお子さんのいる妹さんがいらっしゃるのですよね? そのお子さんが大人になって何かになりたいと願った時、リリーの犯罪歴が影響しないとも限りませんし」
「俺はあっちの家族とは縁を切るつもりで、お前たちを引き取る決断をした」
ガインさんは腕を組んだまま、きっぱりとそう言った。
「待ってください。ガインさんが一方的にそんな事をしたら、ご家族が……」
「大丈夫だ。仕送りはこれから先も続ける。紙っぺら一枚の事だ。俺の家族はそんな事は気にしねぇ」
ガインさんは 頑(かたく) なに首を振る。
「ええ、もちろんです。ガインさんのご家族だからそうだと思います。そういう意味ではなくて、ご挨拶をしたいというかなんというか……」
「ああ、そういう事か。いいぞ、会ってみるか? 王都の近くの町にいるからすぐだ」
ガインさんの顔がやっと緩んでくれた。
そう言えば、時々仕送りを渡しに実家に帰っていたもんね。
「じゃなくて! お前、ハートに返事をしたのか!?」
突然前のめりになって、テーブルに腕を乗せる。
おっそ。
「今頃ですか? 反応、遅すぎません?」
「違うわ。俺が父になる心の準備で話を聞いたところに、お前が爆弾を投げたんだろうが」
ガインさんが、いつもの口の悪いガインさんに戻った。
「知りませんて。ガインさんが何を待っていたのかなんて」
「そうだけど、そうじゃない。ハートの事が好きなのか? 義理とか情とか、何か余計な気を使ったりしてねぇだろうな?」
ガインさんは急にお父さんモードに変わる。
「恥ずかしいから言いたくないですけど、義理とか情とか、何か余計な気を使ったりしてません」
「それって、それって……」
やめて。
「それ以上言うと、私、お 義父(とう) さんとしばらく口をききませんよ」
「お、おと、お 義父(とう) さん!」
ガインさんは白目を 剥(む) いて再び背もたれに倒れ込む。
いや、それもう面倒くさいし。
「とにかく、報告しましたからね! 手続きはよろしくね、お 義父(とう) さん!」
私は手でハートを作り、小首をかしげてニッコリ笑うと部屋を後にした。
「おと、おと……」
はは。本当に大丈夫なのかな。
プロポーズの返事の報告も、ガインさんに父になって貰う報告も、ガインさんの家族に会う約束も取り付けた。
他にやる事があるのかな?
もうガインさんに話した後だし、姉さんにも相談してみよっと。
それにしてもガインさんの家族かぁ。どんな人たちなんだろう。
ふふふ。楽しみすぎる!