作品タイトル不明
ガインさんの救出
「マリー。悪い。ちょっといいか」
ハートさんの声でフッと目が覚める。
うわぁ。いつの間にか爆睡してた。すっかり夜が明けてるし。
私は慌てて起き上がり髪を整える。
「はい」
「ガインさんたちの部隊が行方不明と連絡があった。索敵したら、どうも横穴に避難して身動きが取れなくなっているらしい」
ガインさんが行方不明?
私は飛び出すように個室を出た。
「どういうことですか?」
目の前が歪む。ガインさんに何かあったらどうしよう。
ずっと嫌な予感がしてたのに。やっぱりあの時、無理にでも……。
「落ち着け。動きがあるから無事だ。あの人は無茶はしない。要救助者がいるんだろう」
ハートさんが堅い表情で言う。
それはまるで『しっかりしろ。やるべきことをやれ』と言われているようだった。
そうだ。私に出来る事をしなくては。
動揺なんかしていられない。
「案内してください」
心の中で自分に 活(かつ) を入れ、顔を上げて背筋を伸ばした。
上のポイントに馬で上がっていくと、途中の道が土砂で 塞(ふさ) がれている。
大勢の兵士や神官、冒険者に商人までもが、その土砂を取り除く作業をしていた。
青い顔をしたフェルネットさんが、ギリギリの場所で索敵をしてる。
「マリー、こっち。この下にいる」
「フェルネットさん!」
そこは上からの土砂で斜面が削られ、山肌が見えている場所だ。
私は馬から降りると、その泥の斜面をフェルネットさんたちと一緒に滑りながら下って行く。
先に着いたフェルネットさんが、落ちていく私をキャッチしてくれた。
「この下なんだ。生存者の救出中にあっという間で……」
……これは人力じゃ無理だ。
上からの土砂が足元に溜まって山になっている。
この下に横穴があるのなら、入り口を土砂が塞いで酸素が持たないかも知れない。
「ちょっと前から動かなくなった。マリー、ガインさんを助けて!」
動揺するフェルネットさんをテッドさんが抑えている。
私はフェルネットさんが 指(ゆび) さす方を索敵した。
「大丈夫。必ず見つけます」
索敵しながら風魔法で瓦礫をどかし、土魔法で壁を作り、道を作る。
さっきの要領で、慎重に、慎重に。
二次災害が起きないよう上も固めながら、どうにかここまでの道を作る事が出来た。
「ガインさん! ガインさん!」
「おーー」
何度も呼び続けるフェルネットさんの声に、ガインさんの声が反応する。
良かった! 生きてる!
道を横穴とつなげると、大きな体のガインさんが子供を抱えて顔を出した。
テッドさんを振り切ったフェルネットさんが走って行き、先に子供を引っ張り上げる。
「フェルネット。信じてたぞ」
「ふざけんな! 心配させやがって!」
自力で出て来たガインさんがそう言うと、怒りながらも嬉しそうなフェルネットさんが、照れ隠しに背中を向けた。
それを見て、ガインさんは苦笑いをしながら「心配させて悪かった」と笑ってた。
「ガインさん。私の肩に」
「すまないな」
テッドさんがガインさんに肩を貸して、フェルネットさんと共に私たちの元まで歩いてくる。
あと少し。
私は周囲をどんどん固めていく。崩落の心配が無くなる訳ではないけど少しでも安全に。
時々降ってくる小石をハートさんが跳ね返して私を守ってくれていた。
「マリー。助かった」
ガインさんは疲れた顔で笑顔を作る。
安心するのはまだ早い。私たちは更に下って通常ルートの道に出た。
やっと安全な場所まで出ると、子供とガインさんに回復魔法と疲労回復魔法を掛ける。
「ありがとう! 聖女様!」
下に降ろされた子供は、泥まみれで性別すら分からない。でも多分、笑ってそう。
水魔法で洗浄し、風魔法で一気に水分を飛ばしてあげた。
「うわぁ! すごーい!」
「あら? 美人さんだったのね」
7歳くらいの女の子は「うふふ。当り前じゃない」と笑っている。
良かった。トラウマにはなっていないみたい。きっとガインさんが 側(そば) にいてくれたから。
「俺も頼むわ」
そう言えばガインさんも泥だらけだった。
あはは。気が付いたら私たち全員が泥だらけじゃない。
「こうなったら……」
私は全員まとめて水魔法で洗浄し、風魔法で一気に水分を飛ばす。
いきなり魔法を放ったので、びっくりしたハートさんに苦笑いをされた。
「ここからだと歩いて降りた方が早いと思う」
女の子はガインさんの手を離さない。まるで私の幼い頃を見ているよう。
ガインさんが「もう大丈夫だ」と彼女の頭をゴリゴリ撫でた。
避難所になっている下の野営ポイントに辿り着くと、すぐにキッチンスペースに案内する。
「上に馬を置いてきた。後で馬を取りに行くよう聖騎士に伝えてくれ」
「はい」
後ろでハートさんが白神官に指示を出していた。
「ネリー!」
行方不明者掲示板の前にいた商人風の男性がこちらに手を振ると、女の子がガインさんの手を振りほどいて駆けていく。
「とーさーん!」
彼女が父親に飛びついて、声を上げて泣きだした。
さっきまであんなに笑っていたのに。安心したのかな。
父親が彼女を抱きあげてこちらに来ると何度も頭を下げる。
ガインさんは照れくさそうに頭を掻いて、何やら色々と話をしていた。
ふと見ると、ハートさんがそれを 眩(まぶ) しそうに 眺(なが) めてる。
ハートさんにとっての家族は特別だから……。
ガインさんに何かあったらどうなるのだろう。
私は一つの考えが頭をよぎる。でも……。
「要救助者ももういない。ここは国王の 管轄(かんかつ) だ。復興は王国から派遣された彼らに任せよう」
師匠の視線の先で、土木作業員たちが荷馬車で次々に到着していた。
「マリー」
そこへ、話を終えたガインさんが、私の前に歩いて来る。
「お前と出かけたあの日からずっと考えて来たんだが、俺の……」