作品タイトル不明
新たな気持ちで
ドンドンドン。
朝食を食べ終わったころ、けたたましくドアが叩かれた。
「聖女様! 第二聖騎士団のニールです!」
ガインさんがドアに走ると同時に、私の両脇にハートさんとテッドさんが付く。
ガインさんが外を確かめると、ドアを大きく開けて半身になった。
「失礼します! 先日の大雨の影響で土砂崩れが起きました! すぐにお 支度(したく) を!」
いつものように、私たちはそれぞれ部屋に走って準備を始める。
私はベッドの下から、災害派遣用に用意したカバンを引っ張り出した。
カバンを開けて中身を確認する。
「魔力の回復薬、回復薬、疲労回復薬、万能薬、解毒薬……」
これは全部私専用。あれから私は、戦う事よりも身を守る事だけを要求された。
その意味は十分すぎるほど理解している。
急いでリビングに戻ると、既にみんなは制服に着替えて待っていた。
おじいさまが「気を付けてな」と私にコートを羽織らせてくれる。
「急ごう」
ハートさんに背中を押されて、教会の紋章が付いた馬車に乗り込んだ。
ニールさんは私たちと一緒に馬車に乗り込み、こちら側にハートさん、私、テッドさん。
反対側にガインさん、師匠、フェルネットさん。そしてニールさん。
「王都側、第二野営ポイントに怪我人が集められているようです。被害状況は不明です」
「第二? そう遠くないな。急げば夜までに着くか」
ニールさんの報告に、師匠が顎に手を当てて思案するようにそう言った。
野営ポイントは簡易なものを合わせるとこちら側に36、向こう側に24ある。名前もない空調設備が無いような場所は数に入っていない。
第二野営ポイントは山に入って二つ目の、かなり大きな野営ポイントだ。
「用意は?」
「はい。正門前に神官が。それと、今回は第二聖騎士の他に第三聖騎士や神官も同行させると、モーラス司教様が」
ああ、そうか。
いつもなら現地や近隣から神官が応援に来てくれていたけど、今回は現地に誰もいないんだ。
「それは助かる」
「食事とか野営は大丈夫なのですか?」
「はい。白神官の中にそれ専門の部隊があります。聖騎士の遠征にも同行したりするのでご安心を」
そうだよね。今までは私がいるから呼ばなかったんだ。
「お待ちしておりました」
教会の正門前に着くと外側から馬車のドアが開けられて、師匠たちが先に降りた。
「こちらの物資をお願いします」
物資量がいつもの倍だ。
「現地は商人が持っている物資しかありません。先発組が持って行ったのでこれでも減ったのですよ」
目を見開いた私に、白神官がそう言った。
すぐに空間魔法を展開し、白神官たちに物資をどんどん詰めてもらう。
「既に第三聖騎士と白神官は現地に向かっております。我々もすぐあと追いましょう」
荷物を詰め終わるとすぐに馬車に乗り込んだ。
ガインさんや師匠たちは現地の第一報を聞いて戻ってくる。
最後にフェルネットさんが第二聖騎士と打ち合わせをして馬車の中に入ってきた。
「先頭集団に索敵できる者がいたので、マリーは結界を展開しなくていいよ。魔力を温存して」
「はい」
「索敵に向いてるのがいたから鍛えてみたら、これが中々の上達ぶりでな」
師匠が嬉しそうに言う。
やっぱり師匠だ。
師匠が隊の枠を超えて、適性のある人を時々鍛えていると聞いていた。
「向いてないと索敵の訓練はきついんだよな」
「私なんか、未だに目が回っていますよ」
フェルネットさんとテッドさんが嫌そうな顔で頷きあっている。
私の場合、有無言わさずにやらされて……。と、今までの鬼畜っぷりを思い出し、ハートさんをジト目で見てしまう。
それを察したハートさんが私を見て、口角だけを上げた。
雰囲気が柔らかくなったのは、リリーの移住の旅から帰って来てからだと思う。
「騎士や兵士の指揮の下で、住民や冒険者の有志が救援に向かった」
「山は進入禁止になっている。山の反対側も規制したそうだ」
猛スピードでガクガク揺れる馬車の窓から、大勢の人が見えてきた。
進入禁止を知って引き返す人や山から下りてくる人、心配で駆け付けた人もいるだろう。
教会の紋章の旗を付けた聖騎士たちが近づくと、道は綺麗に開いていった。
「これより聖女様が現地に入る。これを」
「確認した。おい! 道を開けろ!」
何やら証明書のような物を団長が王国騎士に渡している。
これもセキュリティ強化の一環かな。今まで見なかった光景だ。
短いやり取りの後、馬車はまた進みだした。
「師匠。先日の土砂降りって5日くらい前でしたよね」
「ああ。長雨だったしな。時間がたってから災害になる事が多いんだ」
今はこんなに晴れているのに……。
窓から見上げた濃い空の青を見ると、先日の長雨が嘘のように思えた。
「マリー。寒くないか?」
コートを脱いでいた私に、ハートさんがいつものようにケットをかけてくれる。
上着を脱いでシャツだけになっているみんなは『俺はいい』と言う顔をした。
「私もケットを貰おうかな」
冷え性の師匠がテッドさんからケットを受け取って膝にかける。
「師匠って昔から冷え性ですよね」
「子供の頃からだから体質かな? ははは。水属性だから、なんてな」
その師匠の言葉に、水属性のテッドさんが「私も冷え性です」と言った。
「じゃあ、ガインさんが熱がりなのは火属性だからですか?」
「ガインさんがむさくるしいのは属性関係ないよ」
私の疑問に、フェルネットさんが楽しそうに毒を吐く。
「こいつ!」
「「「わははは」」」
ガインさんがフェルネットさんの首を腕で絞めて、みんなが笑う。
そういえばテッドさんはいつも涼しい顔をしていたな。
それにガインさんは年中薄着だし。
「フェルネットさんは夜目が利くとか、何かあるのですか?」
フェルネットさんは羽交い絞めにされながら「うーん」と目を泳がせる。
そして溜めに溜めて「分かんない」とド天然でみんなを呆れさせた。
「うわー。助けて、テッド!」
「はい!」
テッドさんは真面目だから一生懸命にガインさんの手を 解(ほど) いている。
ハートさんはそんなやり取りを楽しそうに眺めていた。
「疲れてないか? 少し眠るといい」
ハートさんが私の視線に気づいて自分の方に引き寄せる。
いつものように毛布を私にすっぽり被せてポンポンと優しく叩いた。
気持ちを自覚してからの私は、こうやって冷静にハートさんを観察することが多くなった。