軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 変わった事と変わらない事

リビングに入ると、テッドさんが師匠に灰色の制服の上着を着せていた。

師匠は 袖(そで) を通して背筋を伸ばすと、私に気付いて笑顔になる。

「どうだ?」

「お似合いです!」

テッドさんは師匠の前に回り、後ろ歩きで数歩下がると「完璧ですよ」と頷いた。

「今日からですか?」

「ああ。ギルドの方も時々は顔を出すがな」

なんと、師匠も教会所属になったのだ。名目は第五聖騎士(隠密部隊)の指導と私の警護隊補佐。

セキュリティーが強化され、師匠だけが部外者では不便だとガインさんが働きかけたのだ。

リリーのおかげなのかリリーのせいなのか。

とにかく王都も教会もセキュリティーがかなり強化され、ステータス偽造のペンダントなんておもちゃになってしまった。

それはもう、王都の盗賊さん達が 鳴(な) りを 潜(ひそ) めてしまうほどに。

彼らもまた、新たな抜け道を探すのだろうな。

「フェルネット。行くぞ」

「あい」

「マリーもテッドも気を付けてな」

「はい。おじいさま」「はい」

リビングから顔だけ出したおじいさまに見送られ、私達四人は一緒に家を出た。

フェルネットさんも今日から第五聖騎士に入隊する。

と言っても、私の警護隊と兼任だ。

これは、師匠が指導に当たるのでフェルネットさんが希望したらしい。

なのでこれから二人は毎日教会通いになる。

「隠密部隊ってカッコよくない?」

フェルネットさんは大人になっても中二病が治らない。

常にカッコいいかカッコよくないかで判断するので分かりやすいけれど。

「かっこいいと思います」

「だよねー」

朝からご機嫌のフェルネットさんは嬉しそうにステップを踏む。

「テッドは暗殺部隊にいたんだよね?」

「見習いですけどね。あそこも隠密行動が多いので、第五との合同訓練が多かったですよ」

ふたりで話す様子を見ると、テッドさんの方が落ち着いていて年上に見えた。

今日の護衛はテッドさん。

ハートさんは朝早くから出かけて行った。

「フェルネットが隠密部隊に入るとはな……」

師匠が目を細めて、感慨深くフェルネットさんを見つめている。

聖騎士は、見習いでも最低C級レベルの腕が必要だ。それに知識も教養も素性も調べ上げられる。

要するに、エリート中のエリートでなければ見習いにもなれないのだ。

もしかして師匠はフェルネットさんを聖騎士にしたかったのかな。

「じゃあここで」「師匠。頑張って!」

「おう。ありがとな」「また後でね」

教会の正門前で先に身分証とステータスを確認した二人と別れて、私達も確認してもらう。

この身分証も、新たなセキュリティーの一環なのだ。

個々に魔力の登録がされているので、偽造は難しいらしい。

私達が正門を抜けて渡り廊下を研究所に向かって歩いていると、一本向こうの廊下で 賑(にぎ) やかな声が聞こえてきた。

「エヴァスは下がっていてくださる?」

「いえ、ここは私がきちんと……」

もう分かった。この声で、このやり取り。

カトリーナとエヴァスさんだ。

ふたりは立ち止まったまま、何やら言い合いをしている。

テッドさんも声の方に視線を向けて笑いを 堪(こら) えていた。

「相変わらずですね」

私は苦笑いをしながら、先ほどより少しだけ足を速めて歩く。

「薬草の臭いが 籠(こも) っているから、換気をしなきゃ」

「フフフ。確かにね。私はおいしいお茶を入れよう」

私達はどんどん足が速くなり、最後の方は小走りになっていた。

私はポケットから急いで鍵を取り出して、研究所のドアを開ける。

「うわぁ。やっぱりだ」「んー。これは酷い」

テッドさんが外側に鉄格子が追加された窓を全開にした。

「行きますよ!」

私は風魔法を 操(あやつ) って部屋の空気を入れ替える。

「あっという間だね」

「うぅ、寒い。乾燥させた薬草を、どこか別の場所に保管できませんかね」

テッドさんは窓を閉めて「それは無理だよ」と言いながらキッチンに向かった。

「だってさ、この部屋ほど安全対策が整った部屋なんて他にないから」

シュシュシュとお湯が沸く音がしてくると、キッチンからサクランボの香りがしてくる。

この間ガインさんに買って貰ったキルエのお茶だ。最近王都で流行っていると聞いた。

「ここは危険な薬草も多いですからね」

私はテーブルの上を布巾で拭くとキッチンに入り、戸棚からお茶菓子を出してお皿に並べる。

トレーの上にティーセット乗せていると、ドアの方で声がした。

「聖女様。お客様をお連れしました」

「マリー、いる?」

様子を 伺(うかが) うカトリーナの声がする。

「はーい」

キッチンから顔を出すと、カトリーナとエヴァスさんが入ってきた。

背を向けた黒神官の女の子に、私は「ちょっと待って」と慌てて声をかける。

「ありがとうございます!」

袋に詰めたお菓子とお茶の葉を手渡すと、彼女はとても嬉しそうに帰っていった。

「相変わらず気が利くのね」

「カトリーナ。マリーはいつもだよ」

私も黒神官だったから、差し入れの重要性を知っている。

認められた気がして、とっても嬉しいの。

「座って、座って」

このふたりを放置していると、また喧嘩が始まってしまう。

私は慌てて椅子を勧めた。

そこへ、テッドさんが先ほど私が用意したトレーを持って入ってくる。

「あらテッド。あなたもいたの?」

そのカトリーナの言葉にテッドさんは肩をすくめて「当り前だろ」とお茶をみんなに配ってくれた。

そして部屋全体が見える位置に、執事の分の椅子も運んで一緒に座る。

来客中はハートさんもあんな風に見張るのだ。

「それで? ふたり揃ってどうしたの?」

ふたりは顔を見合わせて、お互いに肘でつつき合っている。

「自分が言うって言ったじゃない」「カトリーナが言うって」

部屋の奥に目をやると、テッドさんと執事が微妙な顔でそれを見ていた。

もしかして、このふたりも恋をしたの?

私は期待に胸を膨らませて言葉を待った。

「「実はね」」

「ちょっと私が言うって」「言えないって言うから」

結局カトリーナが話すことが決定し、エヴァスさんは隣で姿勢を正す。

「実は私達……。マリーの真似をして、ふたりの薬草農園をお城の敷地に作ったの」

思ってたのと違う。

「……お、おめでとう」

カトリーナが頬を赤く染めて、エヴァスさんは恥ずかしそうに横を向く。

ふふふ。相変わらずこのふたりは、平和で変わらないな。