軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ハートさんとお出かけ

「あいつは何をやってんだ?」

「しーってば!」

ガインさんが廊下に顔を出した瞬間、フェルネットさんに回収された。

フェルネットさんに見張りを頼んだおかげで助かった。

さっきから、私はハートさんの部屋の前でウロウロしているのだ。

今日はせっかくのお休みなので、デート的な何かを、と……。

リリーにも『気持ちを確かめる為に一度、二人きりで出かけるべき』と言われたし。

そしてまた、ノックをしかけて、手を止める。

「ダメだ。脳内で変なものを詠んでしまう」

諦(あきら) めて 踵(きびす) を返すと、後ろでガチャリとドアの 開(ひら) く音がした。

「マリー?」

私はくるっと笑顔で振り返り「今日、もし、お時間がありましたら……」と言いながら壁に手をぶつけてしまう。

私、動揺しすぎ。

ドアから半分だけ顔を出していたハートさんは、クスリと笑って「出かけるのか?」と私のところに歩いてきた。

「はい。もしよろしければ、ご一緒に、王都の街などを 如何(いかが) なものかと……」

言いたい事は伝わったらしく「すぐに支度するから向こうで待ってて」と部屋に戻っていった。

言えた。

言えたけど、これからどうしたらいいのだろう。

落ち着け、落ち着くのだ。

フラフラしながらリビングに向かうと、フェルネットさんがドアを開けてくれる。

そのまま背中を押されてソファーに座り、そしてお茶を手に持たされた。

その気遣いが逆につらい。

フェルネットさんの口元は、楽しそうにニヤついていた。

「すみません」

「いいの。いいの」

ガインさんを上手く言いくるめて部屋に閉じ込めてくれたのはいいけど、もう全部が恥ずかしい。

「……。ホントに大丈夫?」

「なんとか」

私の必死の笑顔に、フェルネットさんが笑いをこらえきれずに「ぷっ」と吹く。

いっそのこと笑い飛ばしてくださいよ。

「ふふ。緊張するのは分かるけど、もう少し落ち着かないと」

「そう出来るなら、私もそうしたいのですが……」

「ちゃんと気持ちを確かめに行くんでしょ?」

「今更ですが、無理な気がしてきました」

「ははは。だーいじょうぶだって!」

フェルネットさんがまた適当な事を言う。モテる男はいいよね。

その謎の自信を分けて欲しい。こっちは、こういうの初めてなんだから。

「お待たせ」

そうこうしているうちに、ハートさんが制服で入ってくる。

なんで制服?

「警護も兼ねてなら、二人きりになれるだろ?」

疑問が顔に出ていたのか、即答された。

そうだけど。そうなのですけれど。

「ははは」

大人には勝てないと秒で気が付き、下手な小細工をするのは諦めた。

「では、行こうか」

ハートさんが私の手を取ると、その手を自分の腕に 絡(から) ませる。

えぇ……。

いきなりそれは、ハードル高いのですけれど……。

組んでいる手をじっと見つめていたら、ハートさんが「フフッ」と笑った。

くぅ、ワザとだな。

初心者相手になんてことを……。今のでHP半分くらい削られましたけど。

「少し王都を散歩しようか」

ダメージを 悟(さと) られないように、作り笑顔で 頷(うなず) いた。

緊張で声も出ず、ハートさんの横顔をじっと見つめては、目が合うたびに目を逸らす。

あああ。おかしな女だと思われちゃう。おかしいけど。

「ふふ。マリー。今日は何も考えずに一緒に歩こう」

「はい」

困った顔のハートさんは「どうしたら笑ってくれるかな」と微笑んだ。

脳内じゃ妄想爆発しているのですが、爆発しすぎておかしいのです。

「こうやって一緒にいられるだけで俺は楽しいよ」

「ははは」

誘ったのは私なのに、ハートさんは私を楽しませるために色々話をしてくれる。

なんて優しいの。こんなに気を使ってくれているのに私ったら。

それなのに、ダメな私は口を開いたら心臓が出てきてしまいそうで一言も喋れなかった。

「マリー。上を見て」

中央公園まで来ると、ハートさんは噴水に向かって風魔法を放つ。

すると、秋晴れの澄んだ空に綺麗な虹が架かった。

わぁ……。

空なんて久しぶりにちゃんと見たなぁ。

私は空を見上げて深呼吸をする。はぁー癒される。

思わず顔がほころんだ。

「虹だー」「わぁー」「きれー」「すごーい」

近くにいた子供たちも、嬉しそうに空を見上げている。

「もう一回やってー」「聖騎士さんすごーい」「あ、聖女さまだー」

私達は、いつの間にか大勢の子供に囲まれてしまった。

ハートさんは「まいったな」と困りながらも笑顔を見せて、もう一度、空に虹を架ける。

「行くぞ!」

ハートさんは私の手を取ると、虹に夢中の子供達を残して公園を走り抜けた。

緊張が解けた反動なのか壊れたのか、私はなんだか楽しくなって笑いながら一緒に走る。

「はぁ。ここまで来たら大丈夫かな」

「はぁ、はぁ。あははは。そうですね」

笑い過ぎて、何もかもが吹き飛んでしまった。

はぁー。爽やかな風が、全身を通り抜けて気持ちがいい。

「マリー。髪が……」

人混みの中で立ち止まり、風で乱れた私の髪をハートさんが優しくかき上げてくれる。

その穏やかな笑顔に見つめられ、私のHPはすべて奪われた。

この気持ち。私は多分、恋してる。