作品タイトル不明
閑話 過保護な姉さんとテッドさん
秋も終わりに近付いて肌寒くなってきた頃、姉さんが私の誕生日祝いに狩りに行こうと誘ってくれた。
なんで誕生祝いで狩りなのかはよく分からない。
ちなみに誕生日はとっくに終わっている。
気にしたら負け。私も十分姉さんに慣れて来た。
早朝の冷たい風に身震いしながら私達は、仁王立ちの姉さんに荷物の最終確認をされている。
「ほら、次。中見せて」
「はい」
姉さんはゴバスさんと夏の終わりに結婚し、夫婦になった。
冒険者仲間でご飯を食べて盛大にお祝いもした。
それから姉さんは、余計に面倒になったのだ。
とにかく最近の姉さんは、母性本能が暴走している。
そして大抵の場合、その矛先は私だ。
「テッド。マリーの事頼むわよ」
「はい」
姉さんはゴバスさんから自分の荷物を奪い取って肩にかけると、確認済みの私の荷物をテッドさんに向かって強めに投げた。
「あ、自分で……」
「良いんだ」「良いのよ」
姉さんとテッドさんが同時に声を出す。
ゴバスさんが私の肩をポンと叩いて目配せをする。
テッドさんも過保護だし、ここはありがたく引き下がろう。
「ありがとうございます」
こんなところで揉めていたら、いつまでたっても出発できない。
満足そうにふたりが笑って、ゴバスさんと私は同時にホッと息を 吐(つ) いた。
「聞いたぞマリー」
森までの道すがら、ゴバスさんが私の横でボソリと言った。
……あの事か。
「何をですか?」
分かっているけど、照れくさくて分からないフリをする。
「ハートとのことだよ。どうすんだ?」
「ああ。そのことですか」
我ながら 白々(しらじら) しいな。
前世も含めて三次元の恋愛は初めての事だし、妄想とは違う。
そもそも悪役令嬢とか、あり得ない悪役があり得ない悪さをして、あり得ないようなアクロバットな解決をしていくラノベ小説しか読んでないし。
恋愛系っていっても、お互い結婚詐欺師なのにいつも逆に騙されているポンコツコンビだったしなぁ。
あれのラストは敵と共闘していくうちに、ヒロインの男前さに惚れた彼がプロポーズして……。
彼女の返事は『最後まで私を幸せだと騙し続けなさい。私も騙してあげるから』だっけ。
あのセリフにクラスの友達と 悶絶(もんぜつ) してたなー。
「……おい、聞いてるのか」
いけない。妄想モードで何も聞いていなかった。
ニッと顔だけ笑って見せると、ゴバスさんは呆れた顔で「どうすんだって聞いたんだ」と苦笑いをする。
「私にはまだ先のことだと思っていたので……」
「私はあんたが成人した時のパレードを見て、そうなるんじゃないかと思ってたわ」
「え?」
驚いたけど、声を出したのは私じゃなくて後ろを歩くテッドさんだった。
「だって年だってそれほど離れていないでしょ? 私とゴバスなんてもっと離れてるし」
「それはそうですが、そんな素振りは一切なかったですよ」
私の言いたいことをテッドさんが代弁してくれるので、横でコクコクと 頷(うなず) いた。
既に森に入っていたけれど、誰も歩みも止めようとはしない。
「そうだ、テッド。あんたに言っておくことがあったんだ」
「言っておくこと?」
前を歩いていた姉さんはクルリと振り返り、後ろを向いて数歩進んで足を止める。
その表情までは読めなかった。
「あんた、普通じゃないでしょ」
ちょっと姉さん、急に何言いだして……。普通じゃなくても良いじゃないですか。
テッドさんはサイコだけど、悪いサイコじゃないですからね。
「タリー」
私が口を 挟(はさ) む前に、ゴバスさんが 窘(たしな) めるように姉さんの名前を呼んだ。
「違うわよ。私が言いたいのは、テッドの執着心は異常だって事」
いったいなんの話をしているのよ。
テッドさんが姉さんの前まで歩いていくと、薄く笑って 顎(あご) を上げる。
「どういうことか分かりませんね」
「あんたは守っている自分に依存してるだけ。今はマリーを守ることで自我を保ってる。リリーの護衛に回ったら、今度はリリーに執着するから」
テッドさんがギュっと眉間にしわを寄せた。
「……あの薄汚い女にですか」
相変わらず口が悪いな。
私の妹ですよ。
「聞いたわよ。あんたが頭が悪くて横暴で高圧的な、性格の悪い女だって言ってたって」
いや、そこまでは言っていない気も……。
「そうですよ。そのクズみたいな女に私が執着するとでも?」
クズはちょっと……。
「そうよ。それに実際のあの子は、あんたが思うほど悪くない。それに気付けもしないくせに。あの子は幽閉されたけど、その手の女には気を付けなさいよ。あんたマリーの護衛でしょ」
「おふたりとも、その辺で……」
「「マリーは黙ってて!」」
見かねて私が間に入ると、ふたり同時に怒鳴られる。
「マリー、おいで」
ポンポンとゴバスさんが私の肩を叩くと、向こうの日向を指さした。
奥でふたりが言い合っているのを、ゴバスさんと一緒に座って眺める。
「ああなったタリーは誰にも止められねぇ」
ゴバスさんも色々苦労してるのね。
姉さんは持論を語り出したら長くなるし。
私はそっと肩に手を置いて「分かりますよ」と 頷(うなず) いた。
「15の時に7歳のマリーを引き取ろうとしたくらいだ。誘拐の話を聞いて不安にならないわけがねぇ。悪いがしばらくあいつの気が済むまで、付き合ってやってくれ」
「ふふふ。姉さんってば。だから私は姉さんの事が、昔から大好きなのですよ」
私がそう言うと、ゴバスさんは「ありがとうな」と優しい目で姉さんを見た。