軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

家族ノカタチ

「マリー。この間白神官が来て、父さんや母さんとも面会が出来るって言われたの」

「そうね。でもその前に、おじいさまに会ってあげてよ」

リリーはいつものように運動場で、腕と一緒に腰を回し始めた。

私もこの変な動きを、ここに来ると毎回一緒になってやっている。

意外に肩と腰がすっきりするし。

「それなんだけどね。私、父さんや母さんと縁を切ろうと思うの」

はぁ? また訳の分からない事を。

「何言ってるの? 会いたくなければ、おじいさまと同じように拒否したらいいじゃない」

リリーは何でもないような顔で立ち止まり、両手を上げて背中を 逸(そ) らす。

私も立ち止まって同じように背中を 逸(そ) らせた。

「だから、そうじゃなくて。もう嫌なんだよね」

「嫌って何が?」

私は体を起こしてリリーを見ると、彼女は体を 逸(そ) らしたままの姿勢で「いろんな『かもしれない』が」と謎な事を言う。

「意味が分からない」

「父さんがキリカを家族にしたって話をしたでしょ。そしたらマリーが『キリカは向こうの家族と切れたのかも』って言ったじゃない?」

「よいしょ」とリリーは体を起こして話を続ける。

「今後父さんと母さんの正式な子供になる か(・) も(・) し(・) れ(・) な(・) い(・) 。結婚する か(・) も(・) し(・) れ(・) な(・) い(・) 。子供が出来る か(・) も(・) し(・) れ(・) な(・) い(・) 」

ああ、それで『いろんな、かもしれない』ね。

「それと『嫌なの』は、どう繋がるの?」

リリーは 塀(へい) まで歩いていくと、両手で自分を抱きしめて横向きに寄りかかる。

「嫌われるのも、キリカの幸せを見るのも、それを壊したくなるのも」

「リリー……」

作り笑顔のリリーは今にも泣きだしそうに見えた。

「二度と会えなくなる事は分かってる?」

「ん。ちゃんと分かってる。マリーと会えなくなる事も、ちゃんと」

リリーは笑顔を深くして無理矢理に笑う。

だけどその顔がどんどん崩れてクシャクシャになった。

「ごめ……」

リリーは短くそう言うと人差し指で目尻をぬぐい、自分を落ち着かせるように大きく息を吸う。

「どうしてもなの?」

「私、もう誰かに迷惑かけたくない。キリカを憎む前に遠ざけたい。自分勝手なのも分かってる。でも、私、嫌な自分になりたくない」

私に背中を向けて声を殺して泣きながら「お願い」と震える声で言った。

リリーは感情を抑えるのが苦手だ。それは自分自身が一番わかっている。

キリカが正式な息子になれば、また会えるかもしれないと希望を持つのがつらいのだ。

「分かった。でも、私も一緒に縁を切る。ガインさんやおじいさまに相談してみる」

背を向けていたリリーが顔だけで振り返り「え……」と小さく声を漏らす。

「だって私も向こうの家族とはずっと会っていないし、今更家族って感じじゃないでしょ?」

私が明るく笑うとリリーが「おねーちゃーん」と子供のように泣きながら抱き付いた。

監視の聖騎士を手で制し、私はリリーを強く抱きしめる。

「これからも面会に来れるものね」

「うん」

「おじいさまに会ってくれる?」

「うん」

リリーが「えへへ」と笑って離れると「マリー大好き」と指で私の涙を 拭(ぬぐ) ってくれた。

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わしは村にいる娘と縁を切って、正式にマリーとリリーの保護者になった。

本当にこれで良かったのだろうか。

もう未成年ではないので、特に何かある訳ではないのだが。

マリーは両親の事を恨んでいないと言っていた。

むしろガインたちに会わせてくれたことを、感謝していると。

実にあの子らしい。

なにより、わしを保護者に選んでくれたことが嬉しいじゃないか。

あまりの嬉しさに、散々シドに 絡(から) んで 呆(あき) れられたほどだ。

「おじいさま。こっちです」

やっとリリーがわしと面会をしてくれる気になってくれた。

あの子なりに遠慮があったらしい。わしに失望されるのが怖かったと聞いた。

幽閉棟は教会の奥の使われていない昔の牢で、手前に小さな運動場が付いている。

マリーが土魔法で塀や壁を作り直したと聞いていたが、なかなか綺麗な運動場だ。

「どうぞこちらへ」

聖騎士に案内され二重の扉を抜け運動場脇の 石畳(いしだたみ) を奥に進むと、5段くらいの階段の上に 分厚(ぶあつ) そうな鉄の扉がある。

ギィーと嫌な音を立てて扉を開くと、外から中は暗くて何も見えなかった。

中に入ると後ろでガシャンと大きな音を立てて、扉が閉まる。

天井の明り取りから 陽(ひ) が入り、目の前の空間に丸く光を落としていた。

進んだ先の鉄格子が開けられ細い廊下を進み、何度か曲がってまた扉を開けて入る。

「厳重だな」

「幽閉棟ですから」

この建物は長く使われていないらしく、今はリリーしかいないと聞いた。

これだけの建物なら十人くらいは幽閉出来そうだが、そんなに罪人が居ても困るな。

「リリー!」

「マリー!」

二重扉を開けて入ると、ピンクのワンピースを着たマリーが水色のワンピースを着たリリーに飛びついた。

魔法を無効にする魔法陣に囲まれた小さな部屋だ。

ベッドの脇のサイドテーブルには場違いな熊の置物がある。

マリーの部屋でも同じものを見かけたような……。

女の子の趣味はよく分からんな。

「おじいさまを連れて来たよ」

「リリー。元気だったか?」

リリーはマリーの服をギュっと掴み、緊張した 面持(おもも) ちでニコリと笑った。

「……おじいさま。ありがとう。ごめんなさい」

それだけ言うと、 怯(おび) えてマリーの後ろに隠れてしまう。

最後に別れた時はやっと打ち解けてくれたのに、またふりだしに戻ってしまった。

「リリーの保護者になれて、わしも嬉しく思ってる。新しい家族としてお互いに助け合おうな」

わしが両手を広げてそう言うと、リリーは「助け合う?」と小首をかしげる。

「そうだ。リリーもわしの相談に乗ってくれ。わしもリリーの助けになる」

「私は役に立てるの? 馬鹿なのに?」

マリーが困った顔でわしを見る。

聞いていた通り、自己評価の低い子だ。

「リリーは馬鹿じゃないぞ。字も書けるし賢い子だ」

リリーが恐る恐る近づいて、わしの両腕の中に入ってくれた。

脅かさないように慎重に抱きしめると、 強張(こわば) っていた体の力がフッと抜ける。

「リリー……」

マリーもホッとした顔で微笑んだ。

だが、これからどうしたらいいのか分からなくなり、助けを求めてマリーを見た。

「おじいさま。しばらくそうやって抱きしめていてあげてください」

「リリーも満足したら離れるのよ」

リリーはわしの腕の中で「ん」と小さく返事をする。

ああ、やっぱり孫は可愛いな。