作品タイトル不明
大忙しの王城のブリッド
「ブリッド様。こちらです」
この忙しい 最中(さなか) に、私はこっそり地下牢に拘束した元護衛主任のダジールに会いに来た。
ダジールが私に話があると騒いでいたらしい。
見張りの部下が困って呼びに来たのだ。
疑わしいというだけで拘束した事を謝らなければならないな。
彼は短気だし……なんて説明をしようか……。
緊急事態だったし、許してくれるかな。
腰の高さまでしかない低くて分厚い地下牢の扉の鍵を開けて貰い、私は腰を屈めて通り抜けた。
「ブリッド!」
真っ青な顔のダジールが私を見つけて立ち上がり、格子を握る。
うわぁ、凄く怒ってそう。
「すみません。それが……」
「頼む! 全部喋るから見逃してくれ! 第一王子を失脚させるネタも持っている!」
ん?
見逃してくれ?
ダジールが私の言葉を 遮(さえぎ) って、聞き捨てならない言葉を口にした。
よく分からないが、本人が喋ると言ってくれるならそうして貰おうか。
「話せ」
私がそう言うとダジールはホッと息を吐き、握っていた格子から手を放す。
「実はあの時お前が聖女の偽物を作り、聖女とすり替える計画に気が付いたんだ……」
彼は身振り手振りを交えてすらすらと流暢に話しを始めた。
それからの話はとんでもない誤解から、とんでもない計画が実行され、とんでもない事になっている、という事だけが分かった。
これはまずい。
「すり替えなど計画していないぞ。何度も言うが、第二王子は本気で国政など狙っていない」
「王子はそうでもお前は違うだろ!」
なんと!
王子の暗殺の原因は私だったのか……。
王子には隠しておこう。
「早くここから出してくれ。証言してやる。この情報で第一王子を失脚に持ち込めるだろ?」
ダジールはニヤリと笑って私を見た。
聖女様の誘拐を告白しておいて、証言だけで見逃す訳があるものか。
随分とおめでたいな。こんなに残念な人だったのか。
「なんか怪しいから捕えてみたら、まさかお前が実行犯だったとは。残念だが釈放は無理だ」
私がそう言うとダジールの顔がみるみる青くなる。
「話が違うぞ! それに『なんか怪しいから捕えてみた』ってなんだ! 知ってて拘束したんじゃないのか?! おい!」
ガシャンと乱暴に格子を掴んだダジールが、必死の形相で叫びだした。
知っている訳が無いじゃないか。
そんなに仕事が出来ると思われても困るんだよ。
私は返事に困り、黙ったまま地下牢を後にする。
だが偶然だけど実行犯が拘束できたのはデカいぞ。
教会に渡す手土産が増えた。
後は国王様を説得して、第一王子を穏便に教会に引き渡す事が出来ればおつりがくるな。
でも私で説得出来るかな?
ただでさえ奥方を亡くしたばかりの国王様は息子達に甘いからなぁ……。
地下牢から外に出ると、辺りは既に暗くなっていた。
おっと、もうこんな時間だ。
急がねば。
教会は第一王子に話が漏れないように、救出作戦の実行直前に通達をすると言っていた。
万が一、そこで抵抗でもされたら国が亡ぶ。
いろいろな事情はさておいて、私が国王様を先に説得しなければ。
国王様の側近に、教会から緊急の伝言を預かったと伝えると暫くして執務室に通された。
「よく来たなブリッド。そのままでよい。教会からの緊急の伝言とは?」
夕食前の忙しい時間に訪問したにもかかわらず、国王様はにこやかにそう言ってくれる。
周りの使用人達のピリピリした空気が逆に痛い。
「その前に、人払いを」
更に使用人達が殺気立つ。
しかし国王様は私の焦りを感じ取ったのか、何も聞かずに側近以外を外に出した。
「第一王子が聖女様を誘拐して城内に監禁しております。その件で教会からの伝言を 承(うけたまわ) りました」
「ヨ、ヨルスアージュが聖女様を誘拐?!」
国王様が倒れこみ、慌てた側近二人に支えられる。
「はっ。この件で、聖女救出部隊に “神の託宣” が発行されました。既にこちらに向かっております」
「か、神の託宣?! 教会は城を落とす気か?」
国王様は目を大きく開けて固まった。
「あ、いえ、違います。ですから教会の救出計画にご協力をと、伝言を……」
「ああ、もちろん協力する。今、聖女様はどこに?」
「現在、聖女様は第一王子の監視下。ですが、私の部下も聖女様に危害が及ばないよう監視しています」
「今から急いで聖女様を教会に引き渡したらダメなのか?」
国王様は驚きすぎて判断力がなくなっている。
「国王様。落ち着いてください。既に彼らには後が無いのですよ? 第一王子派の抵抗に遭えば何をするか分かりません。聖女様に傷でも付けたら国が跡形もなく消滅します」
「そ、そうだな」
国王様は少し冷静さを取り戻し、支えていた側近を下がらせた。
「聖女誘拐の実行犯は地下牢で拘束済みです。第一王子と第一王子に近い側近は逃亡しないように監視中です」
「もう、そこまで手配を……。流石だブリッド。良くやった」
「はい。それと、教会からの指示で、夜半に第二王子が聖女様を救出し城外に連れ出します」
「なぜメイルスが?」
国王様は『あいつで大丈夫なのか?』と不安そうな顔をしている。
私もそう思う。
「第二王子が聖女様を救出すれば、国ではなく第一王子の暴走に出来ます。これが教会が立てた計画です」
「教会がこの国を助けてくれるのか? いや、この国の民の為か……」
国王様が静かに目を伏せた。
「差し出がましい事を申しますがお許しください」
「うむ」
国王様が顔を上げ私をまっすぐに見る。
もう動揺の欠片もない。
「救出作戦と同時進行で第一王子を拘束してください。そして実行犯や共犯者と共に、国王様 自(みずか) ら、第一王子を教会に引き渡すべき、と進言します」
「うむ。分かった。すべては民の為だ。ヨルスアージュとその側近を拘束する準備を。第一王子派の使用人達に悟られるな」
国王様が側近に目配せすると、周囲があわただしく動き始めた。
これで準備は整った。