作品タイトル不明
マリーとスージー
「ねぇ、スージー。第一王子は何でも買ってくれるって言ったのよね?」
「はい。申しておりました」
振り返ると、後ろに控えていたスージーがにっこりと頷いた。
「だったら、協力してくれたスージーも、ここに欲しいものを書く権利があると思うの」
「え? よろしいのですか!」
スージーが弾けるような笑顔を私に向ける。
「だって、スージーがあの時に色々教えてくれなかったら、私はすっかり騙されていたと思うのですよ?」
『いえいえ』という仕草で片手を振りながら、スージーは差し出した用紙を受け取った。
「まさか第一王子が聖女様を誘拐するなんて。あの時は必死だったのですよ。男を見る目を養わないと大変な目に合いますわ」
「確かに。私も気を付けなければ」
「うふふ。打算で付き合っても 碌(ろく) な事がありませんよね」
苦々しい顔でスージーは首を振る。
「あはは。私は妄想だけでなので」
二次元だけど。てへ。
「あらあら。妄想恋愛はほどほどに、ですよ。理想と現実の差は大きいのです」
私とスージーはウンウンと頷き合った。
現実の恋……してみたいな。
「でも、未練はないのですか?」
「聖女様。彼は一線を越えました。いくら 唆(そそのか) されたとはいえ、踏み止まれないような男はゴミ以下です。いくら王族でもあり得ませんよ」
私より少し大人のスージーは、ツンと顔を上げてきっぱり言い切った。
かっこいい。
ウジウジしないスージーの生き方は見習いたいな。
「それに、秘密を知っている私は捨てられて、最悪は口封じですからね」
「ふふふ。そんなまさか」
スージーは誘拐されたあの日、私が食事を済ませると「聖女様…」と突然打ち明けてくれたのよね。
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「聖女様。おくつろぎの所申し訳ございません。今しか話せない重要な話がございます」
いきなりメイドが硬い表情で私の前で膝を突く。
今しか話せない重要な話? 怪しいな。
でも今のところ、このメイドしか接触がないし……。
「なにかしら?」
敢えて私は警戒心を剥き出しでそう言った。
「私はメイドのスージーと申します。この国の第一王子の遊び相手の一人です」
「遊び相手の一人?」
彼女はコクンと頷く。
いきなりスージーと名乗った初対面のメイドがぶっちゃけトークをするから驚いた。
けれど、彼女は女子トークで彼氏の話をしている訳ではなさそうだ。
「長くなりそうね。スージーもここに座って一緒にお茶をしましょうよ」
私がソファに座るよう手を差すと、彼女は『失礼します』と言って立ち上がる。
「私は決して聖女様の誘拐に関与しておりません。これだけは信じて頂きたいです」
彼女は青い顔のまま、震える手つきで入れたばかりの私のお茶も入れ直していた。
おそらく巻き込まれたのね、可哀想に。動揺しすぎだけど。
「信じましょう」
私が笑顔でそういうと、彼女はホッとして手に持っていた私のお茶を飲んだ。
「この後、私は聖女様が目覚めたことを第一王子に報告に行きます。なので手短に話します」
そう言って黒幕が第一王子である事、第二王子に罪を被せようとしている事、そしてこの誘拐に関わったと思われる二人の名前が書かれた紙を渡してくれる。
「でも、現在お付き合いされているのですよね? 良いのですか?」
私は貰った紙を白衣のポケットにしまい込んだ。
「確かに王子は見た目もいいし何でも買ってくれます。それに将来は 愛妾(あいしょう) になって安泰生活を送る気でした。でも、いくら何でも聖女様を誘拐するような馬鹿とは一緒にいられません」
第一王子も酷い言われようでちょっと笑える。
いや、彼氏が犯罪者になったらこんなものか。
「それもそうですね」
「それでお願いがあるのです。他の使用人達も事情を知らない者が殆どで……その……」
ああ。そういうことね。
「大丈夫です。罪に問われないよう口添えします」
「ありがとうございます!」
スージーがガバっと頭を下げた。
使用人だけじゃなく、他にも第一王子に巻き込まれた人達もいるはずよね。
寛大な処置にして貰えるように言わなくちゃ。
「それより、第一王子と別れた後はどうするの?」
スージーが顔を上げるとふわっと微笑んだ。
「実家に戻ります。下級貴族の末娘がここまで上り詰めたのですもの。堂々と帰ってやりますよ」
第一王子を手玉に取ったこの笑顔。私も魅了されちゃったな。
「スージーなら何処ででも生きて行けそうですね」
「もちろんです!」
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聖女誘拐と知った後のこの判断力と決断の速さは流石よね。
行く宛てが無さそうなら帰る時に誘ってみようかな。
「救出は今夜です。第二王子がこちらに参りますので、そろそろ帰国のご準備を」
スージーが白衣を私に差し出した。