作品タイトル不明
隣国の教会
「第二王子。教会が何やら騒がしいようです。白神官をしている私の兄から、極秘で、帰国したリリー様の件を聞かれたので全部話しました」
「教会に隠し事をする方が問題だ。包み隠さず話していいよ。ちょっと恥ずかしいけど……」
ちょっとじゃないな、かなり恥ずかしいな。
変態だと教会の人たちに思われちゃうのかな。
でも、無事に王都まで送り届けたって連絡が来たばかりだけど、そういえばリリーの家は王都の先の山を越えた村だよな。
あれ? なぜ王都に?
何か胸騒ぎがする。
こういう時の私の勘は当たるから怖い……。
「ブリッド。悪いけど教会で何があったか調べてくれないか?」
「はい。兄に聞いてまいります」
「何かあれば、全面的に協力する旨を教会に伝えてくれ」
「かしこまりました」
教会がリリーを調べてる?
そういえば、なぜリリーがここにいた事を知っているのだ?
嫌な予感しかしない。
やっぱり私かな? 私じゃないよな? いや、私だな。
絶対に何かやっちゃった気がして不安だな。
考えてもどうにもならないし、食事でもしてブリッドの情報を待つか。
椅子から腰を浮かせた所で、ブリッドがノックもせずに慌てて部屋に飛び込んで来る。
「どうした? 忘れ物か?」
「違います! 今、私の部下から報告が!」
「いいから落ち着けって」
ブリッドが青白い顔で珍しく取り乱していた。
水でも入れてやろうと、水差しに手を伸ばしかける。
「ヨルスアージュ第一王子が聖女様を王城にて保護されていると、第一王子のメイドから情報を得たそうです!」
「は?」
あの美しい聖女がこの王城に?
わーい。
じゃなくてなんで兄上が?
「教会は知っているのか? いや、知らないな。急いで教会に情報を渡して来てくれ!」
「はっ!」
ブリッドに渡し損ねた水を一気に飲んだ。
「なんてことだ」
そりゃあ教会が騒ぐに決まっている。
おそらく聖女誘拐だ。
王都に行ったリリーが聖女とすり替えられたんだ。
私の中のバラバラだったパズルのピースが次々とはまっていった。
「なんてことだ」
兄上はなぜそんな大それたことを……。
まさか私と同様に聖女に恋を?
本日三回目の「なんてことだ」を言いそうになったところで、ブリッドの部下から聖女の居場所を突き止めたと連絡が入った。
どうしよう、どうしよう。ブリッドに相談したいな。
でも、帰って来るまで放置も出来ないし……。
「そ、そのまま監視して、聖女に危害が及ぶようなら助け出せ。絶対に見つかるなよ」
「かしこまりました」
とりあえず監視してブリッドが帰るまで時間稼ぎだ。
私はブリッドがいないと何も出来ないからな。
ブリッドの部下も優秀だから、とりあえずは何とかしてくれるだろう。
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またトラブルに巻き込まれたよ。
第二王子は単純だからすぐに騙されるし、浅慮だから巻き込まれやすい。
性格はいいんだよな、性格だけは。いや、運が一番最強か。
運がなければ今頃とっくに死んでいた。
本人も周りも馬鹿王子に国政は無理だと思っているのに、マスコット的に民や貴族から愛されてしまうのも厄介なんだよ。
おかげで第一王子に嫉妬されて、何度殺されかけた事か。
なのに本人はそれを気にも留めないし。
ま、あのお気楽王子だから国王様にも可愛がられるのか。
これも嫉妬の原因だな。困ったものだ。
色々考えに 耽(ふけ) っていたら、馬車は教会の正門前で既に止まっていた。
何やら部下が門衛と長い時間もめている。
不思議に思って馬車の窓から顔を出すと、兄上がちょうど門衛と一緒に歩いて来た。
「あ、兄上!?」
「ブリッド! お前が私に会いに来たって連絡が……」
突然呼ばれた白神官の兄は、書類を持ったままの状態で教会の正門前まで来てくれたらしい。
「どうしてここに?」
いつもなら第二王子の側近の私を教会本部の奥の客間まで通してくれるのに。
「厳戒態勢で、関係者以外は中に入れない。お前だから特別に門衛が知らせに来てくれたんだ」
顔見知りの門衛が軽く会釈をくれたので、私も会釈を返す。
第二王子派の門衛だから会えたのか。
ついてるな。
「兄上。第一王子が聖女様を王城で保護されているとの情報が入りました。第二王子は『教会に全面的に協力する』と申しております」
すると兄上は顎に手の甲を当て少し考え込むと、門衛とコソコソと話し始めた。
「ブリッド。ちょっと来てくれ。お前だけだ」
馬車の周りに集まっていた門衛達が道を開けてくれて、私は護衛と部下をその場に残して兄上の後を追って歩く。
いいのかな?
すれ違う白神官や黒神官が私を見てギョッとしているし。
教会の中はそれほど混乱してはいなかったが、作戦本部らしき大きな会議室に通されると中は大騒ぎだった。
「メイルスデビアス第二王子からの伝令が参りました!」
え? 伝令?
ドアを開け放った兄上が中に入るといきなりそう叫んだ。
時間が静止したように全員が手を止め、一斉にこちらを向く。
急に兄上に目配せをされ、事態を飲み込んだ私は腹に力を入れた。
「ヨルスアージュ第一王子が聖女様を王城で保護されているとの情報が入りました。その件についてメイルスデビアス第二王子は『教会に全面的に協力する』と申しております」
「聖女様は無事なのか!」「やっぱり第一王子が王城に!」「ハート様に連絡を!」
一気にざわめきを取り戻し、私はここで指揮を執っている司教様の元まで連れていかれた。